荒野のオオカミと砂漠のキツネ

Haruki

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宣戦布告

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海からの横風が激しく着陸に苦戦したものの、
政府高官を乗せた機体は、無事にボルドシティの空軍基地へと到着した。
到着する頃には既に日が登っていた。

ロバートは政府上官を見送ると副機長と、他の乗組員とともに一つの部屋へと案内された。

「ここでしばらくお待ちください、要件が済み次第お呼びします」

「ああ、分かった、ありがとう」

ロバートは部屋の中を見回した。
豪華なソファーが中央に置いてあり、床には高級そうな絨毯が敷かれ、天井にはシャンデリラが吊り下がっており、壁には絵画が飾ってある。

いかにも高級なワインまで置いてある。
しかし、帰りのフライトのことを考えると、ここで飲むわけにはいかない。

それにしても…一体どういった会議をしているのだろうか

ロバートは気になってしょうがなかった。
宣戦布告なのか、はたまた全く関係ない何かの協定なのか

そんなことを考えながら、ロバートはソファーに腰掛けた。

「どんな会議をしてるんだろうな?」

副機長にそう問いかけた。

「俺にもわからん」

「なんでも、国境付近に巨大な油田が見つかったらしくて、それの所有権をめぐって争っているみたいですよ」

「うーむ、つまりお互いに所有権を主張してるんだな」

「ああ、コレはややこしいな」

「ちなみにその油田の土地の問題で所有権によっては、国の領土が変動する可能性があるとかないとか…」

皆でワイワイ議論ているうちに、数時間が経った。
そして、やっとロバート達に部屋から出る許可が降りた。

建物から出ようとした時、どこからか話し声が聞こえてきた。
廊下の突き当たりから、反対側を覗き込むと
上官と政府高官が複雑な表情で話しあっているのが見えた。

「やはり交渉は決裂しましたな…」

「何回か説得しようと試みましたがやはり…」

「そうですか、ならば仕方ありませんな…」

「ええ、コレは実質的な宣戦布告の様なものです」

「遅かれ早かれ、どちらかが正式に宣戦布告することでしょう」

ついに戦争が始まる…
そう、ロバートは覚悟を決めた。

そして9月25日…
ついに戦争が始まった。

ロバートは旅客にのパイロットを退職されられ、代わりに大型爆撃機パイロット養成のための教官になり、パイロットだったロスとともにルナ帝国西部に位置するアルフィート空軍基地に配属された。
この空軍基地では実際に任務を行う爆撃機部隊があるが、若いパイロットの養成も行われていた。
ロバートはこう思っていた。
歩兵になり前線で戦闘したり、仕事が無いよりかは何千倍もマシであるったが、やはり空の上が恋しい…と

度々空を見上げては、パイロットとして空を舞っていた頃を思い出す。

しかし、今は戦争中だ。
旅客機など飛ばしている場合ではないのだ。
そう自分に言い聞かせ、パイロットの養成に励んでいた。

同じくパイロットであったロスも、そこで教官として働いていた。
ロスは、離陸時のフラップやエンジン出力の調整、実物の爆撃機での練習や、エンジンから出火した場合、被弾した場合のバランス調整の方法などを教えていた。

「機体が…たとえば失速し始めた時、最もしてはならないのは急な機首上げだ、一気に速度が低下し、コントロールを失いかねない…」

ロバートはその様子を生徒達と一緒に後ろから眺めていた。

ロバートの担当は実際の操縦を見せることだ。
1週間に1回は実際に機体に乗って操縦を学ぶ訓練が組み込まれているものの、ほとんどがコックピット周りの操作方法の解説で、実際に飛行する回数は多い月でも2回ほどだ。

だからロバートは基本、退屈でしょうがないのだ。
昼間は本を読んだり、近くの川で釣りをしたり、アルフィートの街をブラブラと散歩したり…などなどして暇を潰した。

夜はどこで寝泊まりしているかについてだが、
もともとは廃業したホテルの建物と設備を再利用し、今では教官が寝泊まりするための施設として利用している。

ロバートはロスの授業も途中で聞き飽きて、川沿いの土手へと向かい、
そこにごろんと寝転んだ。

季節はいよいよ本格的に秋になり、街路樹は色とりどりに染まっている。
風が夏に比べると少し肌寒く感じる。

寝転んだまま空を見上げると、遙か上空を、豆粒に小さく見える飛行機が7、8機の編隊を組んで飛んでいる。

これから爆撃に向かうのであろう機体は皆、ヴォルペ共和国のある西を目指して飛行している。

ふと、ロバートの頭の中にあの時別れたリサの顔が浮かんだ。

あれから、かれこれ数ヶ月が経っているが、
元気にしているだろうか…それ以前に生きているのだろうか

物思いにふけるロバートのところへ整備兵のジョーがやってきて、真横に寝転んだ。

「ジョーじゃないか、どうかしたのか?」

顔をジョーの方に向け、そう話しかけた。

「お前と同じ理由さ、暇なんだよ」

「整備中の機体はないのか?」

「ああ、ついさっき整備が終わったところだ、もうすぐこの基地からも爆撃機が飛び立つぞ」

その直後、ロバート達の頭上をかすめるようにして、大型爆撃機の編隊が飛び去って行った。

「おい、護衛戦闘機がついていないぞ」

「大丈夫だろう…あの機体の飛行高度は7800mだから、あの高度まで敵機がノロノロと迎撃に上がってくるまでの時間で余裕で逃げ切れるさ」

「あれだけの速度と積載量を両立させた爆撃機、よく作れたもんだな」

ロバートがはそう感心した。

「ああ…空軍の技術者達も、お偉いさん方の無茶な要求をすんなりクリアするもんだから、魔法使いだとか何とか言われてるぜ」

「どう言う意味だ?」

「もちろん褒め言葉さ」

遠くの空を眺めると、爆撃機はすでに点になっていた。
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