荒野のオオカミと砂漠のキツネ

Haruki

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キツネの諜報員

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宣戦布告から2ヶ月経った。
ルナ帝国陸軍は各地でヴォルペ共和国軍の防衛線を次々に打ち破り、凄まじい勢いで前進していた。

「…ヴォルペ共和国領内では今現在も戦闘が続いている。我が帝国陸軍は…」

ラジオからは連戦連勝の知らせが流れてくる。

ロバートはベッドに寝転びながら、延々と続く報告を聞いていた。

「…敵歩兵部隊を撃破したのち、前線をさらに内部へと押し進めた。よって、ヴォルペ共和国北東部は完全に我々の支配下に入った」

ロバートの耳がピクッと反応した。
ヴォルペ共和国北東部ならば、ヒラリーも含まれているだろう。

「…帝国政府は、占領した地域のキツネ族の扱いについては現在審議中とのことです」

政府がどう対応するかは、まだ分からない
ただ追い出すだけかもしれないし、
奴隷として働かせるかもしれない、
もしくは皆殺しのするつもりなのか…

「リサの奴、ちゃんと遠くへ逃げれたのかな…」

ロバートはそのことが心配であった。

翌日、珍しく寝坊したロバートは急いで着替え、
寝ぼけながら格納庫へ向かった。
11月に入ったが
分厚い毛皮に守られているためか、それほど寒いとは感じない。

「ロバート! ニュース見たか!?」

ロスが興奮気味にロバートに話しかけた。
手には新聞の朝刊が握られている。

「いいや…今起きたばかりで」

「これ読んでみろよ!」

ロスがロバートの目の前に新聞を広げた。
見出しに『帝国政府、ヴォルペ共和国のキツネ族への対応の方針、いに決定す』
とデカデカと書かれている。

「本当か!?…どれどれ」

ロバートはロスから新聞を取り上げると、夢中で読み始めた。

「『帝国政府は、昨日占領したヴォルペ共和国北東部に暮らすキツネ族へ、今後どの様な対応をするつもりなのかについて、昨夜に行われた会議で、今まで通りの暮らしを保証する。といった声明を発表した』…か、つまり、占領した土地のキツネ族には何も手出しはするなと言うことか…」

ロバートはそう呟いたと同時に、ホッとした。
キツネ族…いや、リサが無事でいられるならそれで良い。

その頃

「おいリャウド、いいか、あの格納庫だ、あの格納庫に敵の新型機があると言う情報だ。それをこのカメラでしっかりと撮ってこい」

キツネ族の二人組が建物の影から格納庫の方の様子を伺っていた。

「俺が敵の注意を引くから、その間に上手くやれよ、良いな」

リャウドが頷き、
片方のキツネ族は走っていった。

その間にリャウドは建物の間になるべく身を潜めながら格納庫へと走った。
格納庫は目の前だ。
しかし中にも外にも警備兵がいる為、下手に動くことはできない。
積んである木箱の影から、しばらく様子を伺った。

「おい! キツネ族だ! キツネ族のスパイだ!!」

遠くの方で大声で誰かが叫び、それと同時に銃声が聞こえた。
おそらく、もう一人が警備兵の注意を引きつけてくれているのだろう。
格納庫近くにいたオオカミ族や警備兵は何事かと思い、皆声のした方へ向かっていった。

「おいロバート、なんか今聞こえなかったか?」

「いいや、気のせいだろう、うん、たぶん」

新聞に夢中のロバートは、周りのことなど何も気にしていなかった。

リャウドは隙を見て、格納庫へと近づいた。

「ええと、どこが入り口だ…」

格納庫の壁沿いに入れそうな場所を探すが、なかなか見当たらない
しばらくして、やっと入り口を見つけ、中へ入った。

格納庫内の電気は消えていたが、天窓から差し込む光のおかげで、
中は十分明るかった。

そんなことつゆ知らず、ロバートとロスは何事もない様に喋っていた。

「もともとこの戦争の目的は、国境にまたがる油田の所有権をめぐった争いだったらしいんだが、今回の侵攻であまりにも簡単に攻め込めたもんだから、陸軍のお偉いさん方はこのままヴォルペ共和国全域を占領できるんじゃね? ってなったらしい…
話によると…ヴォルペ共和国の首都も陥落寸前らしい」

「へぇー、陸軍もずいぶん欲が深いな、ヴォルペ共和国全域を占領してどうするつもりなんだ?」

格納庫内へ潜入したリャウドは、機体へ掛かっていたカバーを素早く剥ぎ取った。
中から現れた機体は、プロペラがなく
代わりに筒状のエンジンが翼の下に二つぶら下がっていた。
そして急いで各部の写真を撮り始めた。

「さあな、とりあえず分かることはその新聞に乗っている様に、今の政府はキツネ族には何もするつもりはないと言うことだが…」

「ああ、本当に良かったよ」

「『よかった』? どうしてだい? 俺たちオオカミ族だから関係ないぞ」

「え、あ、そうだったな」

「…お前もしかしてキツネ族と内通してるのか? それともスパイか?」

「そんな訳ないだろ?? えっ、そうだろ?」

ロスがロバートを問い詰めていた。
リャウドは写真を撮り終え、周りに注意しながら外へ出た。

「ホントはどうなんだよ?」

「冗談はよしてくれ、違うって言ってるだろ」

ロバートが苦笑いしながら、上手いこと誤魔化そうとした。

「スパイだ! スパイがいたぞ! 逃すな! 捕まえろ!」

格納庫の影から怒鳴り声が響いてきた
リャウドは運悪く、その姿をちょうど戻ってきた警備兵に見つかってしまったのだ。

「しまった!」

彼は慌てて格納庫の入り口の方、つまりロバート達の方へ向かって走った。

「逃げていくぞ! ええい、やむを得ん! 撃て、撃てぇ!」

怒鳴り声の後、2、3発の銃声が鳴り響いた。
それはロバート達の耳へもはっきりと聞こえた。
ロバート達が周りを見渡していると、
格納庫の影から一人のキツネ族が飛び出した。
腹部に重傷を負っている様で、白いシャツが真っ赤に染まっている。

その青年はよろめきながら銃を構え、走ってきた方へ向けた。

ロバートがそれに反応して銃を取り出すよりも先に、多数の銃声とともにその青年が仰向けに倒れた。

その直後、銃を持った数名の兵士と、指揮官らしき人物が建物の影から姿を表した。

「持ち物は?」

「カメラです、あと皮の手帳とペンが…」

「たったそれだけか?」

「はい、あとは…」

そう言って兵士が落ちていた銃を丁寧に拾い上げた。

「アルト22Kか…ヴォルペ共和国内でよく出回ってる型式だ」

銃を受け取ると指揮官はそう呟き、銃を兵士に返すと

「コレで二人目だな…他の仲間が残っていないか徹底的に探すんだ! 良いな!」

そう命令し、部下達が駆け足で散って行った。
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