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キツネの国のオオカミ
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ロバート達の目の前でキツネ族のスパイが射殺された事件、あれから数ヶ月が経とうとしていた。
ロバートとロスは戦争が始まって以来教官として務めていたアルフィート空軍基地を去り、ヴォルペ共和国内のヒラリー空軍基地へ転属することとなった。
ロバート達は列車に乗り、ルナ帝国とヴォルペ共和国の国境へ辿り着いた。
もっとも、今となってはもはや関係ないが
そのまま国境をまたぎ、元ヴォルペ共和国領に足を踏み入れた。
戦争前はルナ帝国領から、ヴォルペ共和国の首都まで直通の鉄道が通っていたのだが、現在は復旧中だそうだ。
どうにも空爆による車庫や操車場などの鉄道関連施設への被害はもちろん、戦闘機の機銃掃射による車両への被害も激しいそうだ。
ロスがバスを待つ間、バス停の近くにあった瓦礫の山によじ登った。
「酷い有様だな…」
山の上から見渡したらよく分かるが、辺り一面が荒地である。
ここは最も最初に両軍の戦車部隊が衝突した場所であり、そして最も激しい戦闘が繰り広げられた場所だ。
至る所に建物の残骸や、鉄骨が剥き出しになった建物が残っており、戦闘の激しさを物語っている。
「そういやロバート、軍から渡されたマシンガンと手榴弾だが…」
ロスが武器の入った鞄を指差した。
「ああ、コレか… 噂によるとレジスタンスによるオオカミ族の乗るバスの襲撃事件がが多発しているらしいから、自衛用だろうな」
「…聞かなきゃよかったぜ」
バスがやってきた。
その後ろには軍用トラックがピッタリと後を付けている。
おそらく、護衛が目的なのだろう。
バスに乗り込み、車窓を流れる景色を眺めると
所々に戦車の残骸や、塹壕跡が残っている。
そして、それを覆い隠すかの様に溶け残った雪が積もっている。
道は酷くガタガタしており、至る所に穴が空いたりしている。
おかげでバスの揺れは酷いものだった。
「なあロバート、ヒラリー基地は今は確か第27飛行戦隊の拠点だったよな」
「ああ、そうだけど」
「やっぱりそうか、それならこれから行くヒラリー空軍基地に俺の弟がいるはずだ、アイツはその飛行戦隊のパイロットだからな」
しばらく何もない開けた場所を走っていたバスは、海沿いの道へ出た。
その景色を眺めていると、なんとも言えない懐かしい気持ちになった。
その時であった。
後ろにいたトラックが、急にバスを追い抜いたと思うと
銃声とともに、いきなり炎に包まれた。
それと同時にロバート達の反対側の窓ガラスが吹き飛ぶ。
「…! 伏せろ!」
ロバートはロスにそう指示すると、マシンガンを取り出し、ロスに手榴弾を渡した。
タイヤがやられたのか、バスは車体を右へ傾かせながらヨロヨロと停車した。
「ロバート、コレが噂のレジスタンスか!?」
「…チッ、多分な」
車体を貫通した弾がロバートの脇をかすめる。
「ロス、これを使え!」
ロバートがロスに手榴弾を投げた。
「…よっと、コレでも喰らいやがれ!」
ロスが手榴弾のピンを抜き、外へ向かってを投げつけた。
爆発が起こり、銃撃が止んだ。
「どうだこの野郎、くたばったか」
ロスが勢い良く立ち上がった。
「バカ野郎!」
ロバートは覆い被さる様にしてロスを押さえつけた。
その瞬間、銃弾の雨が再び彼らを襲った。
ロバートの左耳に激痛が走る。
「死んだフリだったのかよ! やりやがるな、キツネの分際で…」
ロスがそう舌打ちしたが、ハッとしてロバートの方を見た。
ロバートの左耳が麻痺していた。
ピンと立っていた彼の耳はだらんと垂れ、付け根から血が出ている。
「ロバート!」
「大丈夫だ…コレくらい」
「お、俺のせいで…」
「お前は悪くない、気にするな…」
「…ロバート、済まねえ」
飛び交う弾丸の雨が、一瞬だけ止まった。
ロバートとロスはバスから身を乗り出して、ピストルで反撃した。
リロード中だったキツネ達は完全に不意を突かれ、
次々と倒れていった。
銃撃が止んだ。
ロバートとロスが敵からの攻撃が来ないことを確認すると、窓枠から地面へと飛び降りた。
「ロス、車内の被害状況を見てくれ、俺はこっちの仕事をやる」
「わかった」
ロスがそう言って、バスの中へ戻って行った。
「さてと…」
ロバートはまだ意識のある一匹のキツネ族の方へゆっくりと近寄り、片足を引きずりながらも必死に逃げようとする彼の後頭部に銃を突きつけた。
「おい、下手に動いたら撃つぞ」
「手を頭の後ろで組め、そして地面へ腹ばいになるんだ」
地面に寝転んだ彼が武器を持っていないことを確認した。
「なぜ俺たちを襲った?」
「…憎いからさ…俺たちの土地を奪いやがった、お前達オオカミ族が」
「そうか、まあ…理由はなんでも良いんだが、誰に命令されて動いている?」
「誰にも」
「そうか…さっさと言ったほうが身の為だぞ」
「ボスなんて存在しない、オオカミのことが憎い奴がただ集まってるだけさ」
相手は一向にそのことについて喋る気配がない
「じゃあ聞くが、どうやってコイツを手に入れた?」
ロバートの手にはバスを襲撃した仲間の一人が落としたマシンガンが握られていた。
「この銃のことだが…イートン社製、つまりはルナ帝国製だ。そんな銃をどうしてこんな大量に入手できたんだ」
「…」
「答えないのか、まあ良い」
ロバートが銃を振りかざした。
少しして、ロスがロバートの元へ帰ってきた。
「ロバート、確認してみたが、どう頑張ってもバスは動かせない」
「乗客と運転手の様子は?」
「乗客3人が死んだ、あと運転手含めた乗客5人が重軽傷、無事なのは俺と、お前とあと3人だけだ… で、そいつはどうした、殺したのか?」
ロスが木の幹にもたれかかっているキツネ族を差しながら、タバコに火をつけた。
「いいや、まだ生きてる」
「そうか」
「しかし、こうなっちまったら空軍基地まで助けを呼びに行かなきゃならないな」
「まいったな、歩いて行くのか?」
ロバートは元来た道を歩き始めた。
「おいロバート! 逆だ、空軍基地はあっちだぞ!」
ロスがロバートとは反対の方を指さした。
「いいや、こっちで良いんだ」
ロバートとロスは戦争が始まって以来教官として務めていたアルフィート空軍基地を去り、ヴォルペ共和国内のヒラリー空軍基地へ転属することとなった。
ロバート達は列車に乗り、ルナ帝国とヴォルペ共和国の国境へ辿り着いた。
もっとも、今となってはもはや関係ないが
そのまま国境をまたぎ、元ヴォルペ共和国領に足を踏み入れた。
戦争前はルナ帝国領から、ヴォルペ共和国の首都まで直通の鉄道が通っていたのだが、現在は復旧中だそうだ。
どうにも空爆による車庫や操車場などの鉄道関連施設への被害はもちろん、戦闘機の機銃掃射による車両への被害も激しいそうだ。
ロスがバスを待つ間、バス停の近くにあった瓦礫の山によじ登った。
「酷い有様だな…」
山の上から見渡したらよく分かるが、辺り一面が荒地である。
ここは最も最初に両軍の戦車部隊が衝突した場所であり、そして最も激しい戦闘が繰り広げられた場所だ。
至る所に建物の残骸や、鉄骨が剥き出しになった建物が残っており、戦闘の激しさを物語っている。
「そういやロバート、軍から渡されたマシンガンと手榴弾だが…」
ロスが武器の入った鞄を指差した。
「ああ、コレか… 噂によるとレジスタンスによるオオカミ族の乗るバスの襲撃事件がが多発しているらしいから、自衛用だろうな」
「…聞かなきゃよかったぜ」
バスがやってきた。
その後ろには軍用トラックがピッタリと後を付けている。
おそらく、護衛が目的なのだろう。
バスに乗り込み、車窓を流れる景色を眺めると
所々に戦車の残骸や、塹壕跡が残っている。
そして、それを覆い隠すかの様に溶け残った雪が積もっている。
道は酷くガタガタしており、至る所に穴が空いたりしている。
おかげでバスの揺れは酷いものだった。
「なあロバート、ヒラリー基地は今は確か第27飛行戦隊の拠点だったよな」
「ああ、そうだけど」
「やっぱりそうか、それならこれから行くヒラリー空軍基地に俺の弟がいるはずだ、アイツはその飛行戦隊のパイロットだからな」
しばらく何もない開けた場所を走っていたバスは、海沿いの道へ出た。
その景色を眺めていると、なんとも言えない懐かしい気持ちになった。
その時であった。
後ろにいたトラックが、急にバスを追い抜いたと思うと
銃声とともに、いきなり炎に包まれた。
それと同時にロバート達の反対側の窓ガラスが吹き飛ぶ。
「…! 伏せろ!」
ロバートはロスにそう指示すると、マシンガンを取り出し、ロスに手榴弾を渡した。
タイヤがやられたのか、バスは車体を右へ傾かせながらヨロヨロと停車した。
「ロバート、コレが噂のレジスタンスか!?」
「…チッ、多分な」
車体を貫通した弾がロバートの脇をかすめる。
「ロス、これを使え!」
ロバートがロスに手榴弾を投げた。
「…よっと、コレでも喰らいやがれ!」
ロスが手榴弾のピンを抜き、外へ向かってを投げつけた。
爆発が起こり、銃撃が止んだ。
「どうだこの野郎、くたばったか」
ロスが勢い良く立ち上がった。
「バカ野郎!」
ロバートは覆い被さる様にしてロスを押さえつけた。
その瞬間、銃弾の雨が再び彼らを襲った。
ロバートの左耳に激痛が走る。
「死んだフリだったのかよ! やりやがるな、キツネの分際で…」
ロスがそう舌打ちしたが、ハッとしてロバートの方を見た。
ロバートの左耳が麻痺していた。
ピンと立っていた彼の耳はだらんと垂れ、付け根から血が出ている。
「ロバート!」
「大丈夫だ…コレくらい」
「お、俺のせいで…」
「お前は悪くない、気にするな…」
「…ロバート、済まねえ」
飛び交う弾丸の雨が、一瞬だけ止まった。
ロバートとロスはバスから身を乗り出して、ピストルで反撃した。
リロード中だったキツネ達は完全に不意を突かれ、
次々と倒れていった。
銃撃が止んだ。
ロバートとロスが敵からの攻撃が来ないことを確認すると、窓枠から地面へと飛び降りた。
「ロス、車内の被害状況を見てくれ、俺はこっちの仕事をやる」
「わかった」
ロスがそう言って、バスの中へ戻って行った。
「さてと…」
ロバートはまだ意識のある一匹のキツネ族の方へゆっくりと近寄り、片足を引きずりながらも必死に逃げようとする彼の後頭部に銃を突きつけた。
「おい、下手に動いたら撃つぞ」
「手を頭の後ろで組め、そして地面へ腹ばいになるんだ」
地面に寝転んだ彼が武器を持っていないことを確認した。
「なぜ俺たちを襲った?」
「…憎いからさ…俺たちの土地を奪いやがった、お前達オオカミ族が」
「そうか、まあ…理由はなんでも良いんだが、誰に命令されて動いている?」
「誰にも」
「そうか…さっさと言ったほうが身の為だぞ」
「ボスなんて存在しない、オオカミのことが憎い奴がただ集まってるだけさ」
相手は一向にそのことについて喋る気配がない
「じゃあ聞くが、どうやってコイツを手に入れた?」
ロバートの手にはバスを襲撃した仲間の一人が落としたマシンガンが握られていた。
「この銃のことだが…イートン社製、つまりはルナ帝国製だ。そんな銃をどうしてこんな大量に入手できたんだ」
「…」
「答えないのか、まあ良い」
ロバートが銃を振りかざした。
少しして、ロスがロバートの元へ帰ってきた。
「ロバート、確認してみたが、どう頑張ってもバスは動かせない」
「乗客と運転手の様子は?」
「乗客3人が死んだ、あと運転手含めた乗客5人が重軽傷、無事なのは俺と、お前とあと3人だけだ… で、そいつはどうした、殺したのか?」
ロスが木の幹にもたれかかっているキツネ族を差しながら、タバコに火をつけた。
「いいや、まだ生きてる」
「そうか」
「しかし、こうなっちまったら空軍基地まで助けを呼びに行かなきゃならないな」
「まいったな、歩いて行くのか?」
ロバートは元来た道を歩き始めた。
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