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小さな隣人
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ある日のことであった。
リサの一家は家族総出で、久しぶりに帰ってきた我が家の掃除をしていた。
しばらく空けていたためかあちこちに埃が積もっている。
床の掃き掃除はもちろん、棚の上を湿らせた雑巾で拭いたり
各部屋の窓を拭いたりと、家族総出で大忙しだった。
リサの家は2階を宿屋として利用しており、一階を家として使っている。
そこに父親とリサと二人で暮らしていたが、戦争が終わったおかげで兄も帰ってきたため、今は三人で暮らしている。
昼頃まで掃除を続けた後、リサは一休みしようと
キッチンへ降りてきた。
缶を開けてクッキーを取り出し、皿の上に置くと
お茶を淹れるためのお湯を沸かす準備をしていた。
お茶の準備が終わり、椅子に腰掛けてクッキーに手を伸ばそうとした時だった。
なんと一枚のクッキーが、ひとりでに動き出したのだ。
リサがギョッとしてしばらく見つめていると、
そのクッキーはテーブルの端を目指して歩き始めた。
そしてリサは両手を伸ばして、テーブルの端に向かうクッキーをそっと両手で包み込むようにして捕まえた。
肉球に温かくてふわふわした感触が伝わってくる。
リサにはその正体の見当はついていた。
ネズミ族だ。
ネズミ族は、よくキツネ族やオオカミ族の家のどこかに住み着いて、
家主の保管している食料などを食べながら生活している。
リサは手の中のネズミの動きがピタリと止んだので、手と手の隙間を少し開いて、中をのぞいてみた。
そのネズミ族はクッキーの上で頭を抱えてブルブルと震えている。
リサはネズミ族をクッキーの上に乗せたまま、そっとテーブルに置いて、しばらくその様子を観察することにした。
リサは少ししゃがむと、ネズミ族と目線を合わせた。
そのネズミ族はブルブルと小刻みに震えながら、
「…お願いです……どうか殺さないで」
ただそればかりを呪文のように繰り返し唱えている。
「大丈夫よ安心して、別にあなたのことを食べたりするつもりはないわ」
「ほ、本当に見逃してくれるんですか?」
「…でも、勝手に何か食べられると困るんだよねー…」
その時であった。
誰かが階段を降りてきた。
「…! 早く、早く隠れて!」
「で、でで、でも、どこに?」
リサはそのネズミ族を摘み上げると、素早く胸ポケットに放り込んだ。
ちょうどその時、リサの兄であるリャウドがリビングへ入ってきた。
「おう、ここに居たのか… このクッキー、一つもらっても良いか」
「全然構わないわ、お好きにどうぞ」
兄のリャウドは、クッキーを頬張りながら2階へ戻って行った。
彼が行ってしまうと、そのネズミ族がポケットから顔を出した。
「じゃあこうしましょう、私が面倒見てあげるから、その代わりにあなたは、勝手にうちのものを食べないって約束してくれる?」
そのネズミ族はニコニコと頷いた。
「そう言えばだけど、あなた…ほら、名前とかあるの?」
「ラタって呼んでください」
「分かったわ、ラタね」
リサはそう言うと、ラタをテーブルの上に下ろした。
「そのクッキー、食べて良いわよ」
それを聞くなり、待ってましたとばかりにラタは嬉しそうにクッキーに飛び乗った。
「…あなた、この家のどこに住んでいるの?」
「ええと、あそこの壁の裏です」
口いっぱいにクッキーを頬張りながら、ラタは棚の後ろの壁を指差した。
「何か置いてあるの?」
「いいえ」
「ふーん、家具とかもないの? じゃあ私の部屋に引っ越しても何も問題ないわね」
「え、別に引っ越す必要はないんじゃないですか?」
「でもほら、安全よ」
リサはそう言うと、一抱えほどの木箱を持って来て、
ドンと机の上に置いた。
「コレがあなたの家よ」
リサはそう言って木箱をトントンと叩いた。
「え…」
驚くのも無理はない、ただの木箱なのだから。
次に、縦長の空き缶を持ってくると
その中に器用にふかふかの綿を詰めていった。
そうしていくうちにベッドもどきが出来上がった。
それを木箱の隅に置いた。
家と言い張るには、随分と貧相な見た目だが
本人は気に入ってくれたようで、その『家』の中で嬉しそうに駆け回っている。
「どう、気に入ってくれた?」
ラタは嬉しそうに頷いた。
リサはその箱を、自分の部屋にある腰ほどの高さの棚の上に置いてみた。
インテリアとしても悪くはないだろう。
そして、掃除の続きをするために2階へ上がっていった。
リサの一家は家族総出で、久しぶりに帰ってきた我が家の掃除をしていた。
しばらく空けていたためかあちこちに埃が積もっている。
床の掃き掃除はもちろん、棚の上を湿らせた雑巾で拭いたり
各部屋の窓を拭いたりと、家族総出で大忙しだった。
リサの家は2階を宿屋として利用しており、一階を家として使っている。
そこに父親とリサと二人で暮らしていたが、戦争が終わったおかげで兄も帰ってきたため、今は三人で暮らしている。
昼頃まで掃除を続けた後、リサは一休みしようと
キッチンへ降りてきた。
缶を開けてクッキーを取り出し、皿の上に置くと
お茶を淹れるためのお湯を沸かす準備をしていた。
お茶の準備が終わり、椅子に腰掛けてクッキーに手を伸ばそうとした時だった。
なんと一枚のクッキーが、ひとりでに動き出したのだ。
リサがギョッとしてしばらく見つめていると、
そのクッキーはテーブルの端を目指して歩き始めた。
そしてリサは両手を伸ばして、テーブルの端に向かうクッキーをそっと両手で包み込むようにして捕まえた。
肉球に温かくてふわふわした感触が伝わってくる。
リサにはその正体の見当はついていた。
ネズミ族だ。
ネズミ族は、よくキツネ族やオオカミ族の家のどこかに住み着いて、
家主の保管している食料などを食べながら生活している。
リサは手の中のネズミの動きがピタリと止んだので、手と手の隙間を少し開いて、中をのぞいてみた。
そのネズミ族はクッキーの上で頭を抱えてブルブルと震えている。
リサはネズミ族をクッキーの上に乗せたまま、そっとテーブルに置いて、しばらくその様子を観察することにした。
リサは少ししゃがむと、ネズミ族と目線を合わせた。
そのネズミ族はブルブルと小刻みに震えながら、
「…お願いです……どうか殺さないで」
ただそればかりを呪文のように繰り返し唱えている。
「大丈夫よ安心して、別にあなたのことを食べたりするつもりはないわ」
「ほ、本当に見逃してくれるんですか?」
「…でも、勝手に何か食べられると困るんだよねー…」
その時であった。
誰かが階段を降りてきた。
「…! 早く、早く隠れて!」
「で、でで、でも、どこに?」
リサはそのネズミ族を摘み上げると、素早く胸ポケットに放り込んだ。
ちょうどその時、リサの兄であるリャウドがリビングへ入ってきた。
「おう、ここに居たのか… このクッキー、一つもらっても良いか」
「全然構わないわ、お好きにどうぞ」
兄のリャウドは、クッキーを頬張りながら2階へ戻って行った。
彼が行ってしまうと、そのネズミ族がポケットから顔を出した。
「じゃあこうしましょう、私が面倒見てあげるから、その代わりにあなたは、勝手にうちのものを食べないって約束してくれる?」
そのネズミ族はニコニコと頷いた。
「そう言えばだけど、あなた…ほら、名前とかあるの?」
「ラタって呼んでください」
「分かったわ、ラタね」
リサはそう言うと、ラタをテーブルの上に下ろした。
「そのクッキー、食べて良いわよ」
それを聞くなり、待ってましたとばかりにラタは嬉しそうにクッキーに飛び乗った。
「…あなた、この家のどこに住んでいるの?」
「ええと、あそこの壁の裏です」
口いっぱいにクッキーを頬張りながら、ラタは棚の後ろの壁を指差した。
「何か置いてあるの?」
「いいえ」
「ふーん、家具とかもないの? じゃあ私の部屋に引っ越しても何も問題ないわね」
「え、別に引っ越す必要はないんじゃないですか?」
「でもほら、安全よ」
リサはそう言うと、一抱えほどの木箱を持って来て、
ドンと机の上に置いた。
「コレがあなたの家よ」
リサはそう言って木箱をトントンと叩いた。
「え…」
驚くのも無理はない、ただの木箱なのだから。
次に、縦長の空き缶を持ってくると
その中に器用にふかふかの綿を詰めていった。
そうしていくうちにベッドもどきが出来上がった。
それを木箱の隅に置いた。
家と言い張るには、随分と貧相な見た目だが
本人は気に入ってくれたようで、その『家』の中で嬉しそうに駆け回っている。
「どう、気に入ってくれた?」
ラタは嬉しそうに頷いた。
リサはその箱を、自分の部屋にある腰ほどの高さの棚の上に置いてみた。
インテリアとしても悪くはないだろう。
そして、掃除の続きをするために2階へ上がっていった。
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