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追跡者
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カフェから家への帰り道、ポケットからラタがリサにこんな質問を投げかけた。
「お姉さんキツネ族だよね、なのになんでオオカミ族と仲がいいのさ」
「別にキツネ族全員がオオカミ族のことが嫌いって訳じゃないのよ」
「ふーん…」
納得したからか寒かったのかで、ラタはポケットの奥へと潜ってしまった。
「あと『おねえさん』呼びはやめて、恥ずかしいから」
「じゃあなんて呼べばいいのさ?」
「…『リサさん』、そう呼んでちょうだい」
「は~い、リサさん」
ポケットの中からそう返って来た。
空襲の被害をかろうじて逃れた工場からは、今まで通りの金属の音が響いている。
ようやく春らしい気候になり、頬に当たるそよ風が心地良い。
鼻歌を歌いながらリサは家へと向かっていた。
ロバートは、そんな彼女の後ろ姿を遠目に眺めていたが、
ふと、道を挟んで向かいの路地をチラッと見た。
キツネ族の二人組が何やらコソコソとしているのが目に映った。
カフェにいた時からしきりにこちらを見ていたので、気になっていたのだ。
「すまないが、会計を頼む」
ロバートはその二人組の方に目をやりがら、財布を取り出した。
そして、ついにその二人組が動き出した。
「釣りは要らない」
ロバートはそう言って店を飛び出し、その怪しげな二人組の後を追うことにした。
道を進むにつれて徐々に人通りは減っていき、ついにはその二人組とリサだけになってしまった。
ロバートは物陰に身を隠しながら、3人の後を追った。
一方、リサ達も後をつけてくる二人組が気になっていた。
「ラタ、ちょっと手伝ってくれない?」
リサが小声でそう囁いた。
「何すれば良いの?」
「ちょっと肩に乗ってくれない?」
ラタが頷いて、ヒョイと肩に飛び乗った。
「後ろに誰か来てる?」
「うん、キツネが二人」
「やっぱりね、店を出た後からつけられてるわ」
リサはそう言うとラタをポケットにしまった。
ちょうどその時、二人組のうちの大柄な方がリサに声をかけて来た。
「おい、ちょっと話したいことがあるんだが… 良いかな?」
「今急いでるの、アンタらなんて構ってられないの」
「まあ、そう急ぐことねえじゃねえか」
そう言ってリサの手首を掴んだ。
「やめてっ、放しなさいよ!」
リサが手を振り解こうとしたが、
その男の力は強く、そう簡単に放してはくれない
「質問に素直に答えてくれりゃ、解放してやっても良いぜ… でも、もし嘘をついたりでもしたら…」
男はそう言ってピストルを取り出し、彼女の額に突きつけた。
「その顔に傷が付くぜ、良いか? じゃあ聞くが、カフェのオオカミとはどう言う関係だ」
「…ただ、偶然知り合った奴よ」
「今日偶然出会ったのか?」
「ええ、そうよ」
「そうか…まあ良い、話は変わるがつい最近、俺の仲間があのオオカミに殺されたんだが、そのことについて何か知っているか?」
「何よそれ、冗談はよしてちょうだい… ロバートはキツネ族を殺す様な残忍なオオカミじゃないわ」
「なぜそう言える? 今日『偶然』知り合ったばかりなんだろう?」
男はさらに詰め寄った。
「彼と話してておとなしい雰囲気だと感じたからよ」
リサはそう返した。
「ふん、そうか」
男はそう言うとタバコ臭い息を彼女に吹きかけた。
「じゃあこの間、市場の帰りにあのオオカミのバイクに乗っていたのは別人か? 違うよなぁ?」
(あの時も見られてたんだ!)
リサは焦ってこう言ってしまった。
「…本当のことを言うと、今日はあの時のお返しのためにお茶に誘ったのよ」
「ほー、そうか… さっきと言ってることが少し矛盾してるぞ、お前は『今日偶然出会った』と確かにそう言ったな、コレをどう説明すると言うんだ?」
「…ウッ、」
リサは言葉に詰まってしまった。
男は満足そうに言った。
「そうか、そうか… 嘘がお上手なことだ、この女狐め」
さらに強く銃を押し付けると、リサを壁際に追い込んだ。
「それはこっちの事情よ! あんた達には関係ないでしょ!」
「やっぱりお前だったか、候補者の中で一番怪しかったからなぁ」
「私が…私が、何をしたって言うのよ!?」
「とぼけるな! お前が俺たちレジスタンスの行動をオオカミ族に流していたんだろ! 兄貴からいくらでも情報は聞けただろうからな!」
男はそう言ってピストルを構えた。
「裏切り者のお前を殺せば、あの世に行っちまった仲間も少しは報われるぜ… まあ、一番憎いのはあのオオカミだがな」
「私は何もしてないのよ!」
リサが必死にそう叫んだ。
「あの世でせいぜい…」
そう言って引き金に指をかけた時だった。
「そうだ、彼女は何もしてない」
ロバートだ、銃口はしっかりとそのキツネへと向かっている。
「彼女を放せ、さあ早く」
「チッ、噂をすれば邪魔が入ったか…まあ良い、ほらしっかり受け止めろよ」
男は乱暴にリサを突き飛ばした。
勢い良く向かってくるリサを受け止めようとした拍子にロバートは地面につまずき、仰向けに転倒してしまった。
転んだ拍子にロバートの手から銃が離れ、地面を滑って行った。
「何すんのよ!」
押し倒されたリサが抵抗しようとそう喚いた。
「下手に動いてみろ、脳天に風穴が開くぞ」
「きゅぅ…」
大柄なキツネ族がそう言って倒れている二人に銃を突きつけた。
「銃を奪っちまえば満足に抵抗もできまいな」
もう一人のキツネ族が、飛んで行った銃を拾おうと伸ばしたロバートの手を踏みつけ、彼の代わりにその銃を拾い上げた。
「さて、動くんじゃねえぞ… どうする、お前ならどっちから殺る?」
二人に向けて銃を突きつけながら、彼はもう一人にそう聞いた。
「そりゃ、仲間の敵討が先に決まってますよ」
「よし、じゃあロバート、お前からだ… あの世で俺の仲間によろしくな」
ロバートは恐怖のあまり、目を閉じることすらも出来なかった。
死が訪れると言うことは、以外にもこう呆気なくあっという間なのだと
彼は、自身に降りかかる運命を受け入れた。
銃声が響き、
辺りに血が飛び散った。
「お姉さんキツネ族だよね、なのになんでオオカミ族と仲がいいのさ」
「別にキツネ族全員がオオカミ族のことが嫌いって訳じゃないのよ」
「ふーん…」
納得したからか寒かったのかで、ラタはポケットの奥へと潜ってしまった。
「あと『おねえさん』呼びはやめて、恥ずかしいから」
「じゃあなんて呼べばいいのさ?」
「…『リサさん』、そう呼んでちょうだい」
「は~い、リサさん」
ポケットの中からそう返って来た。
空襲の被害をかろうじて逃れた工場からは、今まで通りの金属の音が響いている。
ようやく春らしい気候になり、頬に当たるそよ風が心地良い。
鼻歌を歌いながらリサは家へと向かっていた。
ロバートは、そんな彼女の後ろ姿を遠目に眺めていたが、
ふと、道を挟んで向かいの路地をチラッと見た。
キツネ族の二人組が何やらコソコソとしているのが目に映った。
カフェにいた時からしきりにこちらを見ていたので、気になっていたのだ。
「すまないが、会計を頼む」
ロバートはその二人組の方に目をやりがら、財布を取り出した。
そして、ついにその二人組が動き出した。
「釣りは要らない」
ロバートはそう言って店を飛び出し、その怪しげな二人組の後を追うことにした。
道を進むにつれて徐々に人通りは減っていき、ついにはその二人組とリサだけになってしまった。
ロバートは物陰に身を隠しながら、3人の後を追った。
一方、リサ達も後をつけてくる二人組が気になっていた。
「ラタ、ちょっと手伝ってくれない?」
リサが小声でそう囁いた。
「何すれば良いの?」
「ちょっと肩に乗ってくれない?」
ラタが頷いて、ヒョイと肩に飛び乗った。
「後ろに誰か来てる?」
「うん、キツネが二人」
「やっぱりね、店を出た後からつけられてるわ」
リサはそう言うとラタをポケットにしまった。
ちょうどその時、二人組のうちの大柄な方がリサに声をかけて来た。
「おい、ちょっと話したいことがあるんだが… 良いかな?」
「今急いでるの、アンタらなんて構ってられないの」
「まあ、そう急ぐことねえじゃねえか」
そう言ってリサの手首を掴んだ。
「やめてっ、放しなさいよ!」
リサが手を振り解こうとしたが、
その男の力は強く、そう簡単に放してはくれない
「質問に素直に答えてくれりゃ、解放してやっても良いぜ… でも、もし嘘をついたりでもしたら…」
男はそう言ってピストルを取り出し、彼女の額に突きつけた。
「その顔に傷が付くぜ、良いか? じゃあ聞くが、カフェのオオカミとはどう言う関係だ」
「…ただ、偶然知り合った奴よ」
「今日偶然出会ったのか?」
「ええ、そうよ」
「そうか…まあ良い、話は変わるがつい最近、俺の仲間があのオオカミに殺されたんだが、そのことについて何か知っているか?」
「何よそれ、冗談はよしてちょうだい… ロバートはキツネ族を殺す様な残忍なオオカミじゃないわ」
「なぜそう言える? 今日『偶然』知り合ったばかりなんだろう?」
男はさらに詰め寄った。
「彼と話してておとなしい雰囲気だと感じたからよ」
リサはそう返した。
「ふん、そうか」
男はそう言うとタバコ臭い息を彼女に吹きかけた。
「じゃあこの間、市場の帰りにあのオオカミのバイクに乗っていたのは別人か? 違うよなぁ?」
(あの時も見られてたんだ!)
リサは焦ってこう言ってしまった。
「…本当のことを言うと、今日はあの時のお返しのためにお茶に誘ったのよ」
「ほー、そうか… さっきと言ってることが少し矛盾してるぞ、お前は『今日偶然出会った』と確かにそう言ったな、コレをどう説明すると言うんだ?」
「…ウッ、」
リサは言葉に詰まってしまった。
男は満足そうに言った。
「そうか、そうか… 嘘がお上手なことだ、この女狐め」
さらに強く銃を押し付けると、リサを壁際に追い込んだ。
「それはこっちの事情よ! あんた達には関係ないでしょ!」
「やっぱりお前だったか、候補者の中で一番怪しかったからなぁ」
「私が…私が、何をしたって言うのよ!?」
「とぼけるな! お前が俺たちレジスタンスの行動をオオカミ族に流していたんだろ! 兄貴からいくらでも情報は聞けただろうからな!」
男はそう言ってピストルを構えた。
「裏切り者のお前を殺せば、あの世に行っちまった仲間も少しは報われるぜ… まあ、一番憎いのはあのオオカミだがな」
「私は何もしてないのよ!」
リサが必死にそう叫んだ。
「あの世でせいぜい…」
そう言って引き金に指をかけた時だった。
「そうだ、彼女は何もしてない」
ロバートだ、銃口はしっかりとそのキツネへと向かっている。
「彼女を放せ、さあ早く」
「チッ、噂をすれば邪魔が入ったか…まあ良い、ほらしっかり受け止めろよ」
男は乱暴にリサを突き飛ばした。
勢い良く向かってくるリサを受け止めようとした拍子にロバートは地面につまずき、仰向けに転倒してしまった。
転んだ拍子にロバートの手から銃が離れ、地面を滑って行った。
「何すんのよ!」
押し倒されたリサが抵抗しようとそう喚いた。
「下手に動いてみろ、脳天に風穴が開くぞ」
「きゅぅ…」
大柄なキツネ族がそう言って倒れている二人に銃を突きつけた。
「銃を奪っちまえば満足に抵抗もできまいな」
もう一人のキツネ族が、飛んで行った銃を拾おうと伸ばしたロバートの手を踏みつけ、彼の代わりにその銃を拾い上げた。
「さて、動くんじゃねえぞ… どうする、お前ならどっちから殺る?」
二人に向けて銃を突きつけながら、彼はもう一人にそう聞いた。
「そりゃ、仲間の敵討が先に決まってますよ」
「よし、じゃあロバート、お前からだ… あの世で俺の仲間によろしくな」
ロバートは恐怖のあまり、目を閉じることすらも出来なかった。
死が訪れると言うことは、以外にもこう呆気なくあっという間なのだと
彼は、自身に降りかかる運命を受け入れた。
銃声が響き、
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