荒野のオオカミと砂漠のキツネ

Haruki

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本能のままに

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ロバートの顔にも、その生暖かい血が付着した。
それは彼のものではなかったのだ。

大柄なキツネ族は力が抜けた様に仰向けにドサっと倒れた。
眉間には風穴が空いており、みるみる間に血溜まりが広がっていく。

もう一人のキツネ族は先ほどロバートから奪った銃を構え、周囲を警戒していた。

「どこだ、どこから撃ってやがる…」

リサがちょうど後ろを向いているそのキツネ族に向かって
後ろ足で勢いよく飛び上がった。

そのキツネ族は背後から迫る彼女の気配に気づいたが、振り返った時にはもう遅かった。
リサはそのキツネ族に勇敢に飛びかかった。

それを遠くの草むらから見ている人物がいた。

「ダメだ… コレじゃあ対象と重なって…」
その男の手にはライフルが握られている。

彼女はそのキツネ族の肩に噛み付いたが、
それほどダメージが入らなかった様で
体格差も相まって簡単に振り払われてしまった。

「ったく、手間取らせやがって」

男がそう言って、再びリサに銃を向け直そうとした。
その隙をつきロバートは背後から彼に飛びかかり、前足で地面へと押さえつけた。

「あ… ロバート、助けてくれて… ありがと」

しかしロバートにはまるで聞こえていない様で
キツネ族に向き合うと
瞬時に判断して首筋に正確に狙いを定めると、鋭い牙で噛みついた。
喉をやられたそのキツネ族は、声にならない悲鳴をあげながら息絶えた。

すでに息絶えているにも関わらず、彼は追い打ちをかけるが如く、我を忘れたかの様にその体に喰らいついた。

ラタもポケットから乗り出してきて、リサと一緒にその様子を呆然と眺めていた。

「リ…リサさん? アイツやっぱりなんか様子がおかしいよ! 逃げた方が良いよ!」

ラタが小声でそう囁いた。

しばらくしてから満足したのか、彼は口の周りにべっとりとついた血を腕で拭った。
リサの方を振り返ったその姿は、血に飢えた獣そのものであった。
次なる獲物を求めるかの様に辺りを見回してから、リサの方を睨みつけ
低い声で唸った。
その様子を見て、リサは少々後退りした。

「や、やや、やめて! 私よ! リサよ!」

ロバートの左耳がピクッと反応して、
ハッとした様に目を見開いた。
その場の惨状から自分が何をしていたのかを理解した。

しかし彼の記憶は、キツネ族に飛びかかる直前までしか残っていなかった。

彼は血で染まった自身の銃を、原型を留めていない彼の手から奪い取ると、
怯えているリサにゆっくりと近づいた。
大丈夫だと声をかけながら、
彼女の手を優しく掴んで体を起こした。

リサは、いつもの様子のロバートに安心したのか、泣きながら彼に抱きついた。
彼もそんな彼女を優しく抱きしめた。

そして背中の泥を払いながら遠くから近づく足音の方を振りると、
そこにはライフルを担いでいるアルトが立っていた。

「あなた自身で制圧してしまうとは、流石ですね」

「一人目は君のおかげだよ、助かった」

ロバートは口元の血を腕で拭いながらそう言った。
アルトは倒れているのキツネ族の手から銃を奪い取ると、それをリサに手渡した。

「いや、あの… それは私の銃じゃなくて…」

「護身用です。これからもこんなことが起きないとは限りませんから、一応持っておいた方が良いでしょう」

アルトはそう言うと、無理やりリサの手に銃を握らせた。

「おいアルト、コイツらはどうするんだ?」

「すでに業者に連絡してあります。綺麗さっぱり、証拠は残らないことでしょう… あと、あなたは誰かと会う前に必ずシャワーを浴びた方が…」

「言われなくても分かってるさ」

ロバートはそう言ってもう一度腕で口元を拭った。
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