えぇ、魔法のじゅうたんって空を飛ぶだけじゃないんですか?無能扱いされましたが、俺が敷いた絨毯の上は聖域になるようです!

ごまふきん

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絨毯魔法と奴隷

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「スタッグ、貴様を我がナマクラン家から追放するっ!」
俺の親父、ナマクラン伯爵が広間いっぱいに響く声で宣言する。

「“絨毯魔法”などとくだらんものを授かりおって!貴様のような出来損ないは不要だっ!即刻立ち去れっ!」
銅鑼のような声に合わせて、周りからも「穀潰し」「恥さらし」と陰口が聞こえてくる。

俺はその場に跪いて服従の意を示した。
「はい、伯爵様のご命令、確かに承りました」
 そう言って頭を下げたとき、はめさせられた手錠・足かせが擦れて音を立てた。

追放の原因は、俺が3日前に天から授かった“ギフト”にあった。
王国では、12歳になったものは皆、母なる女神・アゲマースから贈り物を受け取ることができる。

ギフトは武技だったり魔法だったりと様々だが、大体はその子どもの生まれ育った環境に合ったものが贈られる。
例えば、農民の子どもなら育成スキルのように作物に関するスキルを、聖職者の子どもなら治癒や浄化のような聖魔法を授かるって具合だ。

そして、王国屈指の武門貴族であるナマクラン伯爵家においては、優れた武技もしくは攻撃魔法を授かることが子どもたちの“使命”だとされて、次男の俺にもプレッシャーが掛けられていた。

だが結果は予想外のものだった。
 水晶に浮かんだ“絨毯魔法”という文字を見て、俺は「なんだそりゃ?」と戸惑った。
 いや、ギフト授与式を仕切っている神官すら、それが何なのか分かっていないようだった。

 けれど、俺の足下にあった絨毯がふわっと浮くと、神官は納得したように頷いた。
「なるほど、“空飛ぶ絨毯”というわけですな」
「はぁっ!?」
 思わず俺が叫ぶと、神官は気まずそうに目を逸らしてこう言った。
「か、風魔法を授かれば風が巻き起こり、氷魔法を授かれば周囲が凍り付きます。いわゆる初期反応というものですなぁ」

 だから、空飛ぶ魔法の絨毯だってのか?そんなしょぼい魔法がギフトなのか?
 魔法の絨毯なんて、そこらの魔道具屋に売られてるただの商品じゃねーかっ!!
 呆然としていると、後ろで「捕らえよ!」と声が上がった。
 授与式を見守っていた親父の声だった。
 俺はすぐに拘束されて、ナマクラン城の地下牢に放り込まれた。

 それから3日間、俺の処遇をどうするか、という話し合いがされたようだった。
 その間、「俺はこれからどうなるんだ?」という不安だけが俺の中で駆け巡っていた。
一生ここから出られないのかと絶望していたし、「いや、もしかして殺されるんじゃないか」と考えたときは気が狂いそうだった。

 だから「追放されるらしい」って噂話を聞いたときは、ほっとする気持ちすらあった。
 勿論、金も地位もないガキが何の頼りもなしに生きていけるほど甘い世界じゃないのは分かってる。
 剣術ならいやというほど叩き込まれたからそれなりにできるけど、例え兵士や冒険者になるにしても、武技持ちじゃないとマトモに食っていけないというし、先行きには不安しかない。
 でも、何にもできないまま閉じ込められたり殺されたりするより、そっちの方がずっとマシだ。そう覚悟を決めて、俺はこの場に臨んでいる。

「貴様は我が領地外へと移送される。もし再び領内へ入ろうとすれば、反逆者と見なして即刻処刑するゆえ、覚えておけっ!」
「はい、確かに」
 望むところだ、と心の中で思う。こんなところにおめおめと残って「出来損ない」と後ろ指指されて生きるより、心機一転、新しい所に行った方が運も開けるってもんだ!

「よし、では連れて行け!」
 兵士たちに両脇を固められながら立ち上がったとき、親父の隣に座る男と目が合った。
 俺の兄貴、ゴーマンだ。

 ゴーマンはすぐに視線を逸らすと、プフーッと吹き出してクックックと肩を揺らして嗤い始めた。
 ったく、相変わらずいやな奴だ!実の弟が追い出されるのがそんなに嬉しいかね?

ゴーマンは3年前に“天剣”というギフトを授かった。
これはあらゆる武技を一度見ただけで習得できるという、いわゆるチートスキルだ。

それまでの兄貴は剣の才能なんてからっきしで、親父にいつも怒鳴られていたけど、スキル一つで全てが変わった。親父よりも優れた才能の持ち主として伯爵家の“希望の星”になったし、周りの貴族たちからも羨ましがられる存在になった。

だがそれと同時に人も変わってしまった。いつも自信なさげで、弟の俺に対してすら卑屈だったのが(それもどうかとは思ったけれど)、今じゃ自分ほど偉い奴はこの世にいないって感じで威張り散らして好き放題している。

今だって、自分の玉座の周りに街で選りすぐりの美女3人を侍らせているが、誰も咎めるものはいない。
急に大金が入ると人生が狂う人がいるって言うけれど、兄貴も似たようなものかもしれないな・・・・・・

まぁとにかく無視無視!と思って、背を向けると、ゴーマンの声が飛んできた。

「おい、スタッグ!お前知らねぇんだろ?自分がこれから奴隷として売り飛ばされるってことをよぉ!?」
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