1 / 3
絨毯魔法と奴隷
しおりを挟む
「スタッグ、貴様を我がナマクラン家から追放するっ!」
俺の親父、ナマクラン伯爵が広間いっぱいに響く声で宣言する。
「“絨毯魔法”などとくだらんものを授かりおって!貴様のような出来損ないは不要だっ!即刻立ち去れっ!」
銅鑼のような声に合わせて、周りからも「穀潰し」「恥さらし」と陰口が聞こえてくる。
俺はその場に跪いて服従の意を示した。
「はい、伯爵様のご命令、確かに承りました」
そう言って頭を下げたとき、はめさせられた手錠・足かせが擦れて音を立てた。
追放の原因は、俺が3日前に天から授かった“ギフト”にあった。
王国では、12歳になったものは皆、母なる女神・アゲマースから贈り物を受け取ることができる。
ギフトは武技だったり魔法だったりと様々だが、大体はその子どもの生まれ育った環境に合ったものが贈られる。
例えば、農民の子どもなら育成スキルのように作物に関するスキルを、聖職者の子どもなら治癒や浄化のような聖魔法を授かるって具合だ。
そして、王国屈指の武門貴族であるナマクラン伯爵家においては、優れた武技もしくは攻撃魔法を授かることが子どもたちの“使命”だとされて、次男の俺にもプレッシャーが掛けられていた。
だが結果は予想外のものだった。
水晶に浮かんだ“絨毯魔法”という文字を見て、俺は「なんだそりゃ?」と戸惑った。
いや、ギフト授与式を仕切っている神官すら、それが何なのか分かっていないようだった。
けれど、俺の足下にあった絨毯がふわっと浮くと、神官は納得したように頷いた。
「なるほど、“空飛ぶ絨毯”というわけですな」
「はぁっ!?」
思わず俺が叫ぶと、神官は気まずそうに目を逸らしてこう言った。
「か、風魔法を授かれば風が巻き起こり、氷魔法を授かれば周囲が凍り付きます。いわゆる初期反応というものですなぁ」
だから、空飛ぶ魔法の絨毯だってのか?そんなしょぼい魔法がギフトなのか?
魔法の絨毯なんて、そこらの魔道具屋に売られてるただの商品じゃねーかっ!!
呆然としていると、後ろで「捕らえよ!」と声が上がった。
授与式を見守っていた親父の声だった。
俺はすぐに拘束されて、ナマクラン城の地下牢に放り込まれた。
それから3日間、俺の処遇をどうするか、という話し合いがされたようだった。
その間、「俺はこれからどうなるんだ?」という不安だけが俺の中で駆け巡っていた。
一生ここから出られないのかと絶望していたし、「いや、もしかして殺されるんじゃないか」と考えたときは気が狂いそうだった。
だから「追放されるらしい」って噂話を聞いたときは、ほっとする気持ちすらあった。
勿論、金も地位もないガキが何の頼りもなしに生きていけるほど甘い世界じゃないのは分かってる。
剣術ならいやというほど叩き込まれたからそれなりにできるけど、例え兵士や冒険者になるにしても、武技持ちじゃないとマトモに食っていけないというし、先行きには不安しかない。
でも、何にもできないまま閉じ込められたり殺されたりするより、そっちの方がずっとマシだ。そう覚悟を決めて、俺はこの場に臨んでいる。
「貴様は我が領地外へと移送される。もし再び領内へ入ろうとすれば、反逆者と見なして即刻処刑するゆえ、覚えておけっ!」
「はい、確かに」
望むところだ、と心の中で思う。こんなところにおめおめと残って「出来損ない」と後ろ指指されて生きるより、心機一転、新しい所に行った方が運も開けるってもんだ!
「よし、では連れて行け!」
兵士たちに両脇を固められながら立ち上がったとき、親父の隣に座る男と目が合った。
俺の兄貴、ゴーマンだ。
ゴーマンはすぐに視線を逸らすと、プフーッと吹き出してクックックと肩を揺らして嗤い始めた。
ったく、相変わらずいやな奴だ!実の弟が追い出されるのがそんなに嬉しいかね?
ゴーマンは3年前に“天剣”というギフトを授かった。
これはあらゆる武技を一度見ただけで習得できるという、いわゆるチートスキルだ。
それまでの兄貴は剣の才能なんてからっきしで、親父にいつも怒鳴られていたけど、スキル一つで全てが変わった。親父よりも優れた才能の持ち主として伯爵家の“希望の星”になったし、周りの貴族たちからも羨ましがられる存在になった。
だがそれと同時に人も変わってしまった。いつも自信なさげで、弟の俺に対してすら卑屈だったのが(それもどうかとは思ったけれど)、今じゃ自分ほど偉い奴はこの世にいないって感じで威張り散らして好き放題している。
今だって、自分の玉座の周りに街で選りすぐりの美女3人を侍らせているが、誰も咎めるものはいない。
急に大金が入ると人生が狂う人がいるって言うけれど、兄貴も似たようなものかもしれないな・・・・・・
まぁとにかく無視無視!と思って、背を向けると、ゴーマンの声が飛んできた。
「おい、スタッグ!お前知らねぇんだろ?自分がこれから奴隷として売り飛ばされるってことをよぉ!?」
俺の親父、ナマクラン伯爵が広間いっぱいに響く声で宣言する。
「“絨毯魔法”などとくだらんものを授かりおって!貴様のような出来損ないは不要だっ!即刻立ち去れっ!」
銅鑼のような声に合わせて、周りからも「穀潰し」「恥さらし」と陰口が聞こえてくる。
俺はその場に跪いて服従の意を示した。
「はい、伯爵様のご命令、確かに承りました」
そう言って頭を下げたとき、はめさせられた手錠・足かせが擦れて音を立てた。
追放の原因は、俺が3日前に天から授かった“ギフト”にあった。
王国では、12歳になったものは皆、母なる女神・アゲマースから贈り物を受け取ることができる。
ギフトは武技だったり魔法だったりと様々だが、大体はその子どもの生まれ育った環境に合ったものが贈られる。
例えば、農民の子どもなら育成スキルのように作物に関するスキルを、聖職者の子どもなら治癒や浄化のような聖魔法を授かるって具合だ。
そして、王国屈指の武門貴族であるナマクラン伯爵家においては、優れた武技もしくは攻撃魔法を授かることが子どもたちの“使命”だとされて、次男の俺にもプレッシャーが掛けられていた。
だが結果は予想外のものだった。
水晶に浮かんだ“絨毯魔法”という文字を見て、俺は「なんだそりゃ?」と戸惑った。
いや、ギフト授与式を仕切っている神官すら、それが何なのか分かっていないようだった。
けれど、俺の足下にあった絨毯がふわっと浮くと、神官は納得したように頷いた。
「なるほど、“空飛ぶ絨毯”というわけですな」
「はぁっ!?」
思わず俺が叫ぶと、神官は気まずそうに目を逸らしてこう言った。
「か、風魔法を授かれば風が巻き起こり、氷魔法を授かれば周囲が凍り付きます。いわゆる初期反応というものですなぁ」
だから、空飛ぶ魔法の絨毯だってのか?そんなしょぼい魔法がギフトなのか?
魔法の絨毯なんて、そこらの魔道具屋に売られてるただの商品じゃねーかっ!!
呆然としていると、後ろで「捕らえよ!」と声が上がった。
授与式を見守っていた親父の声だった。
俺はすぐに拘束されて、ナマクラン城の地下牢に放り込まれた。
それから3日間、俺の処遇をどうするか、という話し合いがされたようだった。
その間、「俺はこれからどうなるんだ?」という不安だけが俺の中で駆け巡っていた。
一生ここから出られないのかと絶望していたし、「いや、もしかして殺されるんじゃないか」と考えたときは気が狂いそうだった。
だから「追放されるらしい」って噂話を聞いたときは、ほっとする気持ちすらあった。
勿論、金も地位もないガキが何の頼りもなしに生きていけるほど甘い世界じゃないのは分かってる。
剣術ならいやというほど叩き込まれたからそれなりにできるけど、例え兵士や冒険者になるにしても、武技持ちじゃないとマトモに食っていけないというし、先行きには不安しかない。
でも、何にもできないまま閉じ込められたり殺されたりするより、そっちの方がずっとマシだ。そう覚悟を決めて、俺はこの場に臨んでいる。
「貴様は我が領地外へと移送される。もし再び領内へ入ろうとすれば、反逆者と見なして即刻処刑するゆえ、覚えておけっ!」
「はい、確かに」
望むところだ、と心の中で思う。こんなところにおめおめと残って「出来損ない」と後ろ指指されて生きるより、心機一転、新しい所に行った方が運も開けるってもんだ!
「よし、では連れて行け!」
兵士たちに両脇を固められながら立ち上がったとき、親父の隣に座る男と目が合った。
俺の兄貴、ゴーマンだ。
ゴーマンはすぐに視線を逸らすと、プフーッと吹き出してクックックと肩を揺らして嗤い始めた。
ったく、相変わらずいやな奴だ!実の弟が追い出されるのがそんなに嬉しいかね?
ゴーマンは3年前に“天剣”というギフトを授かった。
これはあらゆる武技を一度見ただけで習得できるという、いわゆるチートスキルだ。
それまでの兄貴は剣の才能なんてからっきしで、親父にいつも怒鳴られていたけど、スキル一つで全てが変わった。親父よりも優れた才能の持ち主として伯爵家の“希望の星”になったし、周りの貴族たちからも羨ましがられる存在になった。
だがそれと同時に人も変わってしまった。いつも自信なさげで、弟の俺に対してすら卑屈だったのが(それもどうかとは思ったけれど)、今じゃ自分ほど偉い奴はこの世にいないって感じで威張り散らして好き放題している。
今だって、自分の玉座の周りに街で選りすぐりの美女3人を侍らせているが、誰も咎めるものはいない。
急に大金が入ると人生が狂う人がいるって言うけれど、兄貴も似たようなものかもしれないな・・・・・・
まぁとにかく無視無視!と思って、背を向けると、ゴーマンの声が飛んできた。
「おい、スタッグ!お前知らねぇんだろ?自分がこれから奴隷として売り飛ばされるってことをよぉ!?」
0
あなたにおすすめの小説
「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ
天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。
彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。
「お前はもういらない」
ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。
だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。
――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。
一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。
生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!?
彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。
そして、レインはまだ知らない。
夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、
「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」
「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」
と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。
そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。
理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。
王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー!
HOT男性49位(2025年9月3日0時47分)
→37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る
神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】
元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。
ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、
理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。
今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。
様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。
カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。
ハーレム要素多め。
※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。
よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz
他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。
たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。
物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz
今後とも応援よろしくお願い致します。
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
パーティーから追放され、ギルドから追放され、国からも追放された俺は、追放者ギルドをつくってスローライフを送ることにしました。
さら
ファンタジー
勇者パーティーから「お前は役立たずだ」と追放され、冒険者ギルドからも追い出され、最後には国からすら追放されてしまった俺――カイル。
居場所を失った俺が選んだのは、「追放された者だけのギルド」を作ることだった。
仲間に加わったのは、料理しか取り柄のない少女、炎魔法が暴発する魔導士、臆病な戦士、そして落ちこぼれの薬師たち。
周囲から「無駄者」と呼ばれてきた者ばかり。だが、一人一人に光る才能があった。
追放者だけの寄せ集めが、いつの間にか巨大な力を生み出し――勇者や王国をも超える存在となっていく。
自由な農作業、にぎやかな炊き出し、仲間との笑い合い。
“無駄”と呼ばれた俺たちが築くのは、誰も追放されない新しい国と、本物のスローライフだった。
追放者たちが送る、逆転スローライフファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる