えぇ、魔法のじゅうたんって空を飛ぶだけじゃないんですか?無能扱いされましたが、俺が敷いた絨毯の上は聖域になるようです!

ごまふきん

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2.囚われの少女

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 は?俺が奴隷として売られるだって?冗談だろ!?

 だが、すぐに親父が血相を変えて「ゴーマンっ!」と怒鳴ったから本当だと分かった。
 急に冷たい水をぶっかけられたような感覚に呆然とする。

「ギャーッハッハッハッハ!イイ顔するじゃねぇかスタッグぅううっ!そうだよ、そういう顔が見たかったんだよぉ!!」
 青ざめた俺を、ゴーマンは嘲り嗤う。

「そんな、どうしてーーぐっ!」 
 親父を問いただそうとして、兵士たちに押さえつけられてしまう。

 冷静さを取り戻した親父は鼻を鳴らしてこうほざいた。
「フン、当然だろう。貴様をここまで育てるのにどれほどの費用がかかったと思っている?その金を少しでも取り戻さなければ割に合うまい?」

 ふっざけんな!
 一生鎖につながれたままなんてゴメンだぞ!

「このっ、離せぇ!」
 兵士から逃れようと叫んだとき、カッと身体が熱くなるのを感じた。
 身体の中に何か流れ込んでくるような気がする。これが魔力か?

 同時に広間に敷かれた何枚もの絨毯が人間を乗せたまま浮き上がり、「うわぁ!」「キャア!」と悲鳴が上がる。
 驚いて手を緩めた兵士たちをはねのけると、俺は手近にあった絨毯に飛び乗った。
 足に魔力を込めると、絨毯は一直線に広間の出口へと飛んでいく。

「ハッ、逃がすか、よっ!」
 後ろを振り返ると、立ち上がったゴーマンが剣を振り下ろしたところだった。
 スキルが発動し、奴が起こした剣風がこっちへと向かってくる。
 あれは、“クレセントスラッシュ”という技だ!

 ゴーマンは“天剣”によって全ての剣技を習得している。
 このクレセントスラッシュも最高レベルまで達していて、天井に届くほど巨大な三日月型の剣風が回転しながら襲いかかってきた。
 あんなのが直撃したら怪我じゃすまねぇぞ!

「くっ!」
 ギリギリまで加速したおかげで、風の刃が届く前に廊下に逃げられた!
 けれど。

「ぐあっ!」
 頭の後ろを殴られたような感覚。
 バランスを崩して絨毯から転げ落ちてしまった。
 見ると、出入口のドアも壁も吹き飛んでいた。

 クレセントスラッシュが壁全体をぶち壊して、その欠片が俺の後頭部にヒットしたのか。
 ちっき、しょう・・・・・・
 目の前が急に暗くなって意識が遠ざかっていく中、ギャハハハハ!とゴーマンの笑い声が頭の中に木霊していた。



 *     *      *



 そして、半年後。

「おい、スタッグ!」
「は、はい!」
 振り返ると、飛竜使いたちがこっちに歩いてきた。

「後はやっとけよぉ」
 と言いながら、奴らは俺の足下に竜用の鞭を投げていく。
 飛竜の世話をしておけ、という意味だ。

「・・・・・・わかりました」
 舌打ちしたくなるのをこらえながら、俺は素直に頭を下げた。

 ゴーマンに敗れたあの日、俺は奴隷商に売られ、その2~3日後には、俺の“絨毯魔法”に目をつけた或る運送会社に買われた。

 その業者は飛竜を使ったスピード運送を売りにしていて、俺は飛竜の餌運び係をすることになった。
 10頭くらいの集団で輸送する飛竜団に随行するんだが、予想以上に大変な仕事だった。

 竜ってのはとにかく大食らいだから、一度に運ぶ餌も重い。1回で1000ギロン(約1000キロ)の肉塊を運ばないといけないんだが、それだけの重量で絨毯を飛ばすには莫大な魔力が必要で、1日の終わりには気絶しそうになる。
 そもそも、普通の魔法の絨毯じゃ、そんな重い荷物を運べないんだよな。

 おまけに、餌を食べるために地上に降りる時間がもったいないってんで、飛んでいる竜に空中で餌やりをしろなんて無茶を言いやがる。
 そんなの簡単にできるわけないだろ!竜をなだめながら食事をさせるのがどんだけ難しいか!

「お前が下手だから竜が暴れる」と竜使いたちに散々怒鳴られ殴られながら、なんとか空中での餌やりが形になってきたのは本当に最近のことだ。

 おかげでそれぞれの竜たちの特徴や性格について竜使いたちよりも詳しくなったし、俺に懐いてくる竜も出てきた。
 最も、そのせいで「お前の方が向いてるだろ」なんて言われて、こうして世話を押しつけられてるんだけど・・・・・・      
 ま、奴隷は会社の備品だからな。どう扱われようとも、社員様に逆らうなんて選択肢は最初からない。

 俺は自分の首元をそっとなでた。
 そこには金属の輪がはめられている。
 奴隷の首輪。
 これがある限り、俺は逆らうことも逃げ出すこともできない。

 最初はなんとしてもこの支配から脱出してやるっ!て意気込んでたけど、半年経った今は日々降ってくる仕事をなんとかこなすので精一杯だ。

 
 まぁホント、嘆いていても仕方ない。とにかく仕事を片付けねぇと!
 俺は深くため息をついて、全ての鞭を拾うと、指笛を吹いた。
 飛んでやってきた絨毯に乗ると、係留してある竜たちの元へ向かった。

「まずは体を洗ってやらねぇとな」
 竜の手綱を取り、鞭で水辺まで誘導して座らせる。これを一頭ずつやっていくんだが・・・・・・

「おい、リッキー!暴れんなって!」
 さっきからそわそわしていた3頭目の竜。
 こいつの縄を解いた途端、急に飛び立とうするから俺は慌てて手綱を引いた。

「どうしたんだよ、ホントに!」
 リッキーは飛竜にしては大人しい奴で、こんなに暴れるのは初めてだった。

 そして、繰り返しなだめても甲高く鳴き続けるリッキーの様子に、俺も何かおかしいと思い始めた。
「こいつ、何かに怯えてるのか?」
 仲間と比べて臆病な竜だけど、それは裏を返せば、『異変に敏感』ってことでもあるが・・・・・・
 そう考え事をした瞬間に、リッキーは一際大きく暴れて、尻尾を振り回した。

「・・・・・・あっ!!」
 最悪の事態が起こった。奴の尻尾は積んであった荷物の山を吹き飛ばしていた。

 なんてことしてくれてんだっ!!慌てて散乱した荷物に駆け寄ったが後の祭り。
 いくつかの木箱は割れて中身が見えてしまっている。

 終わった・・・・・・俺の人生完全に終わったっ!!
 確実に俺はクビだ。奴隷にとってクビってのは“廃棄”されるって意味だ・・・・・・
 

 そのとき、荷物の山のどこかから「んっ・・・・・・」と人の声がした。
 マズい、誰か巻き込んじまったのか?

 慌てて駆け寄り、思ってもみなかった光景に驚いた。
 大きめの木箱の蓋が割れていて、中には一人の女の子が眠っていたからだ!
 ・・・・・・しかも半裸で。
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