わたしをカゾクにしてください!~脇役長男は家出少女を育てられるのか~

ごまふきん

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母からのビデオメール

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2日後。蓮杖れんじょう家屋敷。

 ふわっと温かな匂いがして、流彦るひこは目を覚ました。
 頭を振って、周りに目をやる。
 カーテンの隙間から差し込む光で、だいぶ陽が傾いていることがわかる。

 階下から、食器が触れ合う音がわずかに聞こえてくる。
 さっき鼻腔に流れ込んだのは、料理の匂いか。
(もうすぐ、晩飯時か……)
 流彦はベッドから起き上がると、扉を開けて殺風景な部屋から廊下に出た。

 廊下は、歩くたびにギシギシと音を立てる。掃除は丁寧にされているものの、もともと年季の入った洋館を安く買って使っているわけで、限界が近づいていることは明らかだ。
 かといって床板を張り替えるだけの金もない。

 世間一般では、火族かぞくというものは金を有り余らせているイメージがあるようだが、とんでもない。
(そんな身分になってみたいものだ)
と思いながら流彦はらせん階段を降りた。

 階段を下りてすぐのところに「食堂」とふるめかしい札のかかった扉が開いている。中に入ると、そこは白く小ぎれいに内装された広い空間が広がっている。
 部屋の中央、天井から吊り下げられた液晶テレビには夕方のニュースが流れている。
 火族に関するトピックだ。

「本日午後2時、火廷派遣の“樺太・千島列島方面氷龍討伐隊”が帰還しました。成田空港に到着した一行は首相の出迎えを受け―」
 アナウンサーの音声の向こうで、流彦の母・蹴陽けるびや他の火族たちが閣僚たちと握手する映像が流れている。

 30年前に起こった氷龍との大規模な戦闘「旭川攻防戦」以降、極東における氷龍の生息圏は北緯50度以北へと大きく後退している。
 そこに敷かれた防衛ラインの維持のため、半年に一回、日本とロシアに住む火族を中心に討伐隊が編成され、北の地へと派遣されているのだ。

 それをぼんやりと眺めていると、向こうから静かなモーターの駆動音が近づいてきた。
「流彦様、おはようございます。」
 女性の電子音声。
 やってきたのは、1台のロボットだ。
 カーボン製の大きな2輪タイヤがついた下半身に、ヒト型の上半身が乗っている。卵型の顔の半分以上を覆う液晶バイザーには「Good morning,Sir!」とサイケデリックな書体で表示されている。

「あぁ、おはよう、サンティア」
 流彦はロボットにそう返した。
 家事用ガイノイドのサンティアは母・蹴陽が作ったものだ。料理、掃除、洗濯と完ぺきにこなすが、なぜかどんな時間でも家人にはおはようございます、と挨拶をする。どこぞの業界人じゃあるまいし、とは思うが、別段苦情を言うほどのこともないので、流彦も合わせておはようと返すことにしている。
 
 今サンティアは大きな鍋を両手で抱えている。
 銀色の鍋の中からはぐつぐつと煮え立つ音と、濃厚な香りが伝わってくる。ビーフシチューだろうか。母の大好物だ。
 流彦の視線を感じ取ったのか、サンティアは頭を下げてこう言った。

「申し訳ございません、流彦様。ご夕食の時間まではあと2時間36分41秒ございまして、このお料理をもちまして流彦様のご空腹にお答えすることは致しかねますが」
「いや、別にメシの心配に来たわけじゃねぇよ。たまたま今起きただけで」
 流彦は小さく手を振った。腹が空いていないのは事実だ。

 するとサンティアは慇懃いんぎんに再び頭を下げて
「左様でございますか?……アメでしたら手元にございますが―」
 そう言って腕に付属したマニピュレータを使って、メタルボディの上からかけているエプロンのポケットを探ろうとするので、
「いや、だからいいって」
 流彦は苦笑して立ち去ろうとした。まだ時間があるのなら、思う存分寝ていたいと思ったのだ。

 と、その時、サンティアの中から声が聞こえた。
「あれ、るぅ兄ぃ、起きたの?」
 サンティアの声ではない。液晶バイザーの映像がカメラに切り替わり、妹・陽菜はるなの姿が現れる。
 桃色がかかった髪は大きく赤いバンダナで纏められ、すっきりとした白い鼻筋や、滑らかな額には珠のような汗が光っている。

「おう」と流彦は答える。陽菜はこの食堂の反対側にある厨房にいて夕食の準備の真っ最中だ。
 サンティアの動きは厨房でモニターしている。彼女が会話を始めたことに陽菜が気づいて、無線を飛ばしたのだろう。

「今手が離せなくてさ、頼みたいことがあるんだけど―」
「却下」
 流彦が即答すると、「もぉー!」陽菜は不満げにため息をついて怒る。
「まだ、何も言ってないでしょ!」
 画面の向こうで赤々とした頬をぷくっと膨らませる妹。
 そのしぐさは、“学校でも結構人気がある”と噂されるにふさわしい愛らしさに満ちている。
 彼女のクラスの男子どもならば虜になるに違いない。が、
「そりゃ、言われても聞きたくねえからな」
 身内である流彦にはどうでもよいことだったし、何より今は睡眠を再開したいという思いのほうが強かった。

 どうせそっちで何か手伝えってんだろ、と流彦が言うと、
「バーカ、るぅ兄ぃなんかキッチンにいても足手まといだよ」
と苦笑しながら陽菜が切り返す。
 
「サンティア、ビデオメールを見せてあげて」
と陽菜が言うと、
「かしこまりました」
 サンティアの液晶バイザーが再び切り替わる。
 今度は、腕組みをして目を閉じて座っている女性の姿が写っている。蹴陽だ。
 
 周囲に写る金属質の壁からして、どうやらコクピットの中らしい。
 オレンジ色に輝くパイロットスーツに身を包み、白い顔の輪郭を、燃えるような真紅のショートカットの髪が縁どっている。

 やがて、蹴陽は大きく円い眼鏡の向こうの目をゆっくりと開くと、にぃっと笑い
「フハハハハハ!元気にしていたかな諸君!お母さんだぞっ!早速だが、君たちに指令を伝える!題して!」
 そういって、母親は右手の人差し指を画面のこちらに突き付けた。
「この私、蹴陽の救出作戦であるっ!」
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