世界は、君を愛したくて創られた

六紫

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第1章 世界樹の巫女と護衛

第1章 第1話 異世界での目覚め

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薄い暗闇の中にぼんやりとした明かりが広がり始める。

ーー目を閉じているの??私?

ほんの少しだけ息苦しさを感じて、瞼を震わせてゆっくりと持ち上げる。

ーー眠ってた…のかな?

ぐんと大きく伸びをすると、縮こまっていた感覚から、眠っていたのだと分かる。伸びた反動でほんの少し体の強張りがほどけていく。

徐々に視点が結ばれていき、まず最初に見たことのない白い天井が飛び込んできた。

よく見るとダマスク柄のような装飾が描かれている。そして、淡い光の粒が空気中をゆらりゆらりと漂っているのに気づいた。遠い昔に見たどこか絵本の中みたいで、まるで現実感がない。

ーーまだ夢見てるの?

ゆっくり左を向くと、大きな窓があって、紫がかった青い空が広がっていた。

寝返りを打つと、耳元でリネンの擦れるカサカサという音がして、この寝具はいつも家で使ってるのとは全く違う質感だった。絹のようなしっとりとした白さが瞼の裏に焼きついた。

ゆっくりと体の動きを確かめるように起き上がってみると、視界の端で長くてさらりと銀色の髪が滑り込んだ。

はっとして思わず周囲を見回すと、壁に備えつけられた鏡の中に写る誰かと目が合う。

――紫の瞳。銀の髪。私…なの?

顔立ちはたしかに私に似ている。
でも、どこか違う。違和感の正体が、すぐにはつかめない。肌が軽く泡立って、ずきりと頭が痛む。

ーーこれは誰?本当に私の身体なの?

まるで別な身体に意識だけ押し込められてしまったように感じる。

思考が追いつかなくて、ただ鏡の中の“私らしき人”と呆然と見つめ合っていた。

ーー怖い…怖いよ。義兄さん…

息苦しがせり上がってきそうに鳴った途端、

「リィナ」

耳に馴染んだ、低く穏やかな声が飛び込んできた。

「……義兄さん?」

求めていた声の方を向くと、すぐ側に彼がいた。ほっと息を抜こうとしたのに、やはりその姿の違和感を覚えて体が固まる。

ーー本当に義兄さんなの??

ーーー目の色が…違う…

「え? 義兄さん……? え、なに? どういうこと? カラコン?」

不安を掻き消すように思考が散らかるまま、口から無作為に言葉がどんどんこぼれる。
そして、呼吸もまた浅くなるのが分かった。

「落ち着け、里菜。深呼吸しろ。」

言われたとおりに息を吸って、吐いて。少しだけ、頭が冷えていく。

私が落ち着いてきたのを見計らって、義兄さんが話し出した。

「まず……ここは日本とは違う場所だ。そうだな…“異世界”と言えば、お前にはしっくり来るかもしれないな。」

ーーー異世界?

「……なにそれ? どこのラノベ?」

「お前、よく読んでいただろう。」

ーーーいや、それはそうだけど…

顔の造りは何一つ変わっていないの、深海のような「青」になってしまった目を覗き込む。

「え……じゃあ、その目の色も、カラコンじゃないってこと?」

眉毛一つ動かさずにこちらを見つめ返しながら、義兄は説明を続ける。

「この世界と日本では、生物の構成成分が違うようでな。転移時に、こちらで生きていけるように体が組み替わったようだ。その影響で、外見にも多少変化が出た。生活様式はほぼ同じだから、さほど心配はいらない。魔道具もあるしな…」

よく分からない単語の響きが積み重なっているけど、全く頭の中には入ってこない。


ーーー多少?多少…??多少じゃあねえよ!義兄さん!!

淡々と説明をし続ける仏頂面に、話の内容とは全く別になぜかどんどん怒りが湧いてくる。

ーーーなんでそんな落ち着いてんの?!私は全然訳が分からないのよ!

溜まっていく怒りが口から飛び出さないようにぐっと黙って義兄を見つめている、私の様子に気付いているくせに、淡々と説明は続いていく。

「この世界には、“魔素”と呼ばれるエネルギーで動いているの。その影響で、俺たちの名前も変わっている。」

ーーーまそ? 名前、変わった??

情報量の多さに義兄さんの言葉が変換しきれなくなってきた。私の頭のギガオーバーで、通信速度が…どんどん思考速度が落ちていく……。自分の顔から表情が抜け落ちていくのも感じる。

「お前は“リィナ”。俺は“カイゼル”と呼ばれている。分かったか?」

「分かりません!! だいたい義兄さん、なんでそんなに冷静なのよ!」


臨界点に達した感情が強い響きとなって、とうとう口から飛び出した。

「それになんかよく見ると、義兄さん、本当にラノベに出てくる騎士みたいな格好してるし!それも意味分かんないし!」

青い瞳がまたじっと私の様子を伺い始める。目の色が違うだけでいつもの怜悧さがさらに拍車がかかっている。

ーー声も…顔も…表情も…義兄さんなのに…なのに…本当に『義兄さん』でいいの?

ぞわりとする。視界が歪むようだ。突然アバターを着せられて、名前を変えられて画面の向こうに側に放り込まれたの?

ーーここは誰かの小説の中?それともゲームの中なの?

ふっと青い瞳が伏せられて…ほんの少しの間を産んだ。義兄さんが何かを考えながら…例えば私の気持ちとか…言いにくいことを言う時とか…そんな時はよくこんな表情をする。

「すまない。起きたばかりで少し説明が多かったな。俺はお前より先に目覚めて、色々と準備をしていたから、冷静なんだ。この世界のことはだいぶ理解ができている。お前は身体が馴染むのに時間がかかったようで…ずっと眠っていたんだ。……ただあまり残された時間はない…」

「……いつから?」

ーーーいつから私達はここにいるの?

声が掠れる。喉がからからだ。

「半年前だ。」

その言葉の衝撃にに、ガツンと頭が後ろに揺れる。

「そっそんなに、前なの…」

シーツをぎゅっと握りしめて、倒れないように腕に力を込める。俯きかけた私を、青い瞳が心配そうにそっと覗き込む。


いつものくすぐったい感じが胸から湧き上がる。



妙に納得した私の目の前に水の入ったコップが差し出される。

ああ、この表情、この気遣いはやっぱり義兄さんだ。

「…よく分かんないけど、今はなんか泣きそうだよ。……義兄さん。」
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