世界は、君を愛したくて創られた

六紫

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第2章 日常となる日々の中で

第2章 第1話 繋がれるその手

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どすっ どす
どすっ どす

今朝も王室の訓練場に向かう途中だ。
石畳に自分の足音が響く。

白い鳥が群れを成して、向こうの空に羽ばたいて行くのが見えた。

私は歩くたびに魔素を含んだ空気が両足に纏わりついて、思うように歩を進められない。

ゆっくりと足を出しながらも、ここ1週間の出来事がコマ送りのように脳内を流れていった。

ーーとにかく忙しかった。


重たい風がゆっくりと光の粒を運んで、どこかに流れていく。


目が覚めた日も色んな人が入れ代わり立ち代わり来て、紹介されたり、お世話されたりした。

王宮内での生活についても、来る人来る人に教えてもらったりもして…ぐったりと、また眠りについた。

ーー半年も寝てたのに、ちゃんと疲れてまた寝れるなんて凄いと思ったわよ。自分でも。

忙しさは次の日も変わらなかった。

王様と謁見して、
正式に巫女としての命を受けた。

それから、
魔素とか世界樹とかの知識も必要だって
毎日、授業受けた。

他にも魔素での日常の道具の動かし方を習ったしね。

ーー今日からはまる一日儀式のことやるって言ってたっけ…
本当、魔素のコントロール苦手…
ああ、訓練長くなるのかあ…

ほんの少し憂鬱な気持ちになってきた。

忙しく、余計なことも考える暇のない日々。

そして、その間義兄さんは当たり前のようにずっと私の側にいてくれた。

ーーなんでか分かんないけど…義兄さんに皆が妙に敬意を払ってた気がするのよね…

どうでもいいことを考えてるとろくなことはなくて…慣れない道に足がもつれて、前のめりになってしまった。

ーーあっ、やばっ!!

その瞬間、ぐわっと下から風が持ち上がって
私の体を支えて起こす。

………また、だ。

「義兄さん…ふらつくたびに結界張らなくていいって言ったよね?」

眉を跳ね上げて下から睨みながら、隣を歩く仏頂面の義兄を見上げる。

「………」

義兄さんは軽く目を伏せて前を向いたまま返事をしない。
これは都合が悪い時の義兄さんの癖の一つ。

「義兄さん?ねえ、約束したよね?義兄さんも『分かった』って言ったよね?」

「これは俺の魔素コントロールの訓練も兼ねている。……それに、お前に怪我をさせる訳にも行かないからな。」

ちょっとだけ申し訳なさそうに、でも大して悪びれた様子もなく義兄さんが答える。

空気中に魔素の漂うこの世界は、
日本に比べてほんの少しだけ空気が重い。

物理的に。

重力がかかってるって感じでもなくて、
そう…水の中で動いている感じ?それをもう少し楽にしたっていうのが近いかもしれない。

だから慣れなくて、よく転びそうになる。

そして、その度に義兄さんは結界を張って空気を動かしちゃうのだ。

眉を顰めてじとっと義兄さんを見つめていると、きまりが悪そうにまた視線を落とした。

「足元に気を付けろ。」

そう言って代わりに私の手を取って、
少し前を歩き始める。

ここに来てから、すっかりこの手の温度にも馴染みつつある。繋がれた時に胸から広がる、あの甘やかな疼きには……何となく、私の方も…きまりが悪くなる。

あえて大きく息を吸い込んで、居心地の悪さを吐き出そうとするのに、魔素を含んだ空気すら甘さをはらんでいるようで……少しだけ、喉奥に苦しさが纏わりつく。

ーー過保護も過ぎると…ダメなんだよ。


二人とも無言でただ歩いていく。

しばらくすると目の前に石造りの白い色い大きな建物が現れた。義兄さんが茶色の大きな扉を開けると、今日もミレイ様が出迎えてくれた。

「いらっしゃいませ。お待ちしておりましたわ。」
そう言いながらほんわりと柔らかく微笑む。

ふああ…と感嘆の声が漏れる。

プラチナピンクの緩くウェーブした髪、
少し垂れ目がちな緑の目元には泣きぼくろ、
うるうると肉厚な唇、ゆったりとした神官のような服の上からでも分かる豊かな胸とお尻。

初めて会った時に、教科書で見た貝の上に立ってる女神様の絵が浮かんだ。

この世界のアフロディーテ様がお出迎えしてくれてる。

「今日も頑張りましょうね」

ミレイ様の姿に釘付けになって、
蜜でも滴るような声に誘われて動き出すと
すかすかと縒れて音を立ててるの気付いて、ちょっと肩をすぼめる。自分の胸元につい目がいってしまう。


「…………。」

ーー身長のわりに私だってある方なんだけどな。やっぱり、もうちょっと大きい方がいいかのか…?

気付いたら繋いだままの右手の指先がピクリと動いて、自然に手が離れる。


私達が手を繋いでいた事に気付いたミレイ様があらあらと笑い、「仲良しですわねえ」と微笑む。
義兄さんが「まだここの魔素質量に慣れなくて…」なんてのを話してるのを見ていると、
何かが、ちくりと胸を刺した。


ミレイ様は儀式のことを教えてくれる人だ。
巫女の舞の指導をしてくれる。

ーーでもこの女神…にっこり笑ってるのにこの後『鬼神』になるんだよ、な…




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