世界は、君を愛したくて創られた

六紫

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第3章 静かに開く距離

第3章 第1話 本能の囁きに(Sideカイゼル)

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闇の中、静けさを壊さないようにドア開けて、部屋の中に体を滑り込ませる。

月明かりもない夜だ。こんな夜は魔素の光が周囲をぼんやりと照らし、よりこの世界の輪郭が曖昧に見せる。

ーーここに来てから、ずっと現実味のない夢の中で過ごしているみたいだ。

足音も立てないよう慎重に歩みを進めるが、
魔素はドアを開けた時から、俺の体より先に真っ直ぐにベッドに向かい、その主を優しく覆う。まるで全てから隠すように。

追いついた先で身を屈めて、青黒い色に染め上げられたリィナを見る。

その度に仄暗い喜びが湧き上がり、この感情が身体中を満たしていくのを、もはややめられない。

べったりと全身張り付いた俺の魔素は檻のようだ。その檻の中で、安心したように眠るリィナに骨の髄から陶酔し満足する。

ーー俺だって、自分が異常なことくらいは、もうすでに分かっているさ。

そしてこの執着が義妹に向ける類の感情ではないことも。

「自覚がある分、性質が悪いんだろうな」

そう独りごちて、魔素を揺らして頬を撫でてやると、そのかんばせにあどけない笑みを浮かべる。

その無防備な表情に「かいしぇいお兄ちゃん」とたどたどしく俺を呼び、ふくふくとした頬に笑みを浮かべていた幼い里菜を思い出す。

『これはずっと俺の物だった。そしてこれからも。本当は誰にも渡したくはないんだろう?』

ぞっとするほどの密度の濃い独占欲が俺の本能として、囁きかけてくる。


その囁きを振り払うように、小さく頭を振って自分に言い聞かせる。

「俺は義兄だ。自分でそれを選んだんだ。」

ーーそうだ。ここに来て、少し浮かれてしまっていた。

しがらみのない世界。

俺達のことを誰も知らない世界に行ってみたいと…考えたことがない訳ではなかった。

兄妹であることを己に課さなくてもいい世界。

それがあっさり叶ってしまって…忘れかけてしまっていたんだ。

青い光が今度は俺の全身に纏わりついて、竜巻のようにうねり出す。

昼間向こうにいた時のように屈託なくクロードに向けて笑うお前を見て…現実を思い出した。

クロードは「あいつ」を彷彿とさせる。

リィナはクロードに俺たちを「兄妹」だと言った。

義兄の仮面が外れかけてしまった。

そして「あっちに帰りたい」と…お前は切実な顔で俺に訴えたんだ。

ーー俺は…俺はどうなんだ?

魔素のうねりが強い風を起こして、リィナの髪やカーテンを揺らし始める。

里菜…お前は「あいつ」に会いたいのか?

俺の執着はきっとお前を怯えさせる。

ならば…ならば…「義兄」のままの方がいいだろう。

その無垢な信頼を糧に生きる方がまだいい。

何も知られないまま、ずっと側にいる方がいい。

魔素の風が里菜の顔を撫でて、瞼がピクリと動く。

だがな、里菜。

この世界のお前には「俺」しかいないだろう?
「リィナ」には「カイゼル」しかいないだろう?


風がゆるやかに収束し、沈黙が周囲を支配する。

濃密な闇に、外の魔素の光が頼りなげに入り込んでくる。

そして、青黒い魔素が再びリィナを覆い始める。俺の本能も再び蠢き始める。

ーーでも…お前の心が壊れないようにするには…俺はどうしたらいい?
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