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第4章 発露する過去への想いと融解
第4章 第5話 融解
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互いの吐いた甘やかな吐息が頬を掠めて、
そっと額を離す。
温もりは離れたけれど、混ざりあった青と紫の粒子はキラキラと私達の周囲を飛んでいる。
「分かった……ありがとう。義兄さん……」
照れくささに髪で顔を半分隠して、その銀糸の隙間から義兄を窺い見ると、その眦はほんのりと朱に染まっていた。
「ところで……お前。倒れた時のことを覚えているか?」
どこかそわそわして、口元を手で覆いながら、
義兄さんが聞いた。
「あ? うん……。久しぶりのひどい発作だったね。義兄さん、傷は? どう?」
あれを思い出すと、やっぱりまだ少し体が緊張に固まる。
「傷はもう塞がっている。発作は仕方ないだろう。俺も少し油断していたから、な……」
その時、ちらりと義兄さんの視線が私の唇を掠めた気がするけれど、その視線の意味がなんなのかよく分からない。
「こっちには薬はないけど……あっても、もう飲まなくて大丈夫だよ。落ち着いたよ。」
安心させるように微笑めば、
「ああ……」
と、やはりどこか気のない返事が返ってくる。
――何か……他に心配してることでもあるのかな?
なんだか腑に落ちなくて、義兄さんの顔を覗き込んでみるけど、いつもの鉄面皮に戻っていた。
その時、廊下の方が何か賑やかな足音がしてきた。
「巫女様~、お加減いかがっすかねえ。飯食えますかね? 俺も腹減ったっす。休みなのに、誰かさんの鬱憤晴らしに付き合わされたせいで……」
なんとも気の抜けるような声がする。クロードさんか。
「貴様! 病み上がりの女性の部屋には行くなと言っただろう! 巫女様のお迎えには女である私の方がいいと言ったのを忘れたのか!」
シエナさんの怒った声も聞こえてくる。
「ですけど……副隊長。巫女様のデザート吟味するっつって、何分かけてんすか? 巫女様もさすがに腹が減って、もっと具合悪くなりますって……俺でも副隊長でもそんな変わんないっすよ~……あんた、男みた……」
扉一枚隔てているはずなのに、騒がしい会話はすっかり筒抜けだ。
バシッ、という鈍い衝撃音がして、クロードさんの声が途切れる……何があったの??
義兄さんがきびきびと立ち上がってドアを開けて、二人を迎え入れる。青紫の光の粒子がさっと部屋の中から消えていく。
「副隊長。ご苦労様です。」
「隊長、やはりこちらにいましたか。殿下が先ほどの魔獣の件で報告を待っておられます。急ぎ殿下の執務室へ行っていただきたい。巫女様のことは、『私』にお任せを。」
シエナさんは足元にうずくまるクロードさんを目の端で見下ろして、脇にどかせるように軽く何度か足で払っている。
――え? むっちゃ蹴ってない?
「隊長~、今日の巫女様の夕飯は、皆で一緒に食べて差し上げなさいってアルヴィス筆頭補佐官が言ってました……俺も……俺も……」
シエナさんに足蹴にされながらも、恨めしげにクロードさんが義兄さんを見上げている。
――あの人……お昼ご飯のこと根に持ってんだな……。
「リィナ。」
義兄さんがこちらを振り向いて、私の返事を促す。
「いいですよ。もう体調も気分もだいぶ良くなりましたし……私もお腹が空いて来ちゃいました。」
「やったっす!」
立ち上がって喜ぶクロードさんの腰に、「いい加減にしろ。この図々しいやつが!」と言いながら、シエナさんの長い足が叩きつけられるのが見えた。
あ……さっきの鈍い音はこれか……
「リィナ、じゃあ俺は殿下の所に行ってくる。夕飯はシエナ副隊長と……クロードと一緒でいいが、ここで食べるようにしろ。まだ、万全ではない。」
私の着ているパジャマ用の簡素なワンピースの上に、少し厚手のガウンが掛けられた。
「はい。」
「では、行ってくる。」
視線が絡む。くすぐったくて……なんだろ……なんか、照れくさい。
「では、シエナ隊長。リィナを頼みます。……クロードも。」
「「はいっ」」
そう言って義兄さんは部屋を出ていった。青い魔素の残滓が私の周りでほんのり光って、溶けた。
そっと額を離す。
温もりは離れたけれど、混ざりあった青と紫の粒子はキラキラと私達の周囲を飛んでいる。
「分かった……ありがとう。義兄さん……」
照れくささに髪で顔を半分隠して、その銀糸の隙間から義兄を窺い見ると、その眦はほんのりと朱に染まっていた。
「ところで……お前。倒れた時のことを覚えているか?」
どこかそわそわして、口元を手で覆いながら、
義兄さんが聞いた。
「あ? うん……。久しぶりのひどい発作だったね。義兄さん、傷は? どう?」
あれを思い出すと、やっぱりまだ少し体が緊張に固まる。
「傷はもう塞がっている。発作は仕方ないだろう。俺も少し油断していたから、な……」
その時、ちらりと義兄さんの視線が私の唇を掠めた気がするけれど、その視線の意味がなんなのかよく分からない。
「こっちには薬はないけど……あっても、もう飲まなくて大丈夫だよ。落ち着いたよ。」
安心させるように微笑めば、
「ああ……」
と、やはりどこか気のない返事が返ってくる。
――何か……他に心配してることでもあるのかな?
なんだか腑に落ちなくて、義兄さんの顔を覗き込んでみるけど、いつもの鉄面皮に戻っていた。
その時、廊下の方が何か賑やかな足音がしてきた。
「巫女様~、お加減いかがっすかねえ。飯食えますかね? 俺も腹減ったっす。休みなのに、誰かさんの鬱憤晴らしに付き合わされたせいで……」
なんとも気の抜けるような声がする。クロードさんか。
「貴様! 病み上がりの女性の部屋には行くなと言っただろう! 巫女様のお迎えには女である私の方がいいと言ったのを忘れたのか!」
シエナさんの怒った声も聞こえてくる。
「ですけど……副隊長。巫女様のデザート吟味するっつって、何分かけてんすか? 巫女様もさすがに腹が減って、もっと具合悪くなりますって……俺でも副隊長でもそんな変わんないっすよ~……あんた、男みた……」
扉一枚隔てているはずなのに、騒がしい会話はすっかり筒抜けだ。
バシッ、という鈍い衝撃音がして、クロードさんの声が途切れる……何があったの??
義兄さんがきびきびと立ち上がってドアを開けて、二人を迎え入れる。青紫の光の粒子がさっと部屋の中から消えていく。
「副隊長。ご苦労様です。」
「隊長、やはりこちらにいましたか。殿下が先ほどの魔獣の件で報告を待っておられます。急ぎ殿下の執務室へ行っていただきたい。巫女様のことは、『私』にお任せを。」
シエナさんは足元にうずくまるクロードさんを目の端で見下ろして、脇にどかせるように軽く何度か足で払っている。
――え? むっちゃ蹴ってない?
「隊長~、今日の巫女様の夕飯は、皆で一緒に食べて差し上げなさいってアルヴィス筆頭補佐官が言ってました……俺も……俺も……」
シエナさんに足蹴にされながらも、恨めしげにクロードさんが義兄さんを見上げている。
――あの人……お昼ご飯のこと根に持ってんだな……。
「リィナ。」
義兄さんがこちらを振り向いて、私の返事を促す。
「いいですよ。もう体調も気分もだいぶ良くなりましたし……私もお腹が空いて来ちゃいました。」
「やったっす!」
立ち上がって喜ぶクロードさんの腰に、「いい加減にしろ。この図々しいやつが!」と言いながら、シエナさんの長い足が叩きつけられるのが見えた。
あ……さっきの鈍い音はこれか……
「リィナ、じゃあ俺は殿下の所に行ってくる。夕飯はシエナ副隊長と……クロードと一緒でいいが、ここで食べるようにしろ。まだ、万全ではない。」
私の着ているパジャマ用の簡素なワンピースの上に、少し厚手のガウンが掛けられた。
「はい。」
「では、行ってくる。」
視線が絡む。くすぐったくて……なんだろ……なんか、照れくさい。
「では、シエナ隊長。リィナを頼みます。……クロードも。」
「「はいっ」」
そう言って義兄さんは部屋を出ていった。青い魔素の残滓が私の周りでほんのり光って、溶けた。
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