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第6章 世界樹の儀式
第6章 第6話 籠る(Sideレオニス)
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sideレオニス
様々な色合いを帯び、喜びに満ちあふれた清らかな光が生まれて、世界全体へと溶け広がるのを感じた。
「契約は成された…か」
ふっと笑みが湧いてきて、安堵とともに笑い声に変わっていく。
王宮が魔獣の襲撃を受けた次の日の昼過ぎ、僕は、この陰惨な現場の指揮を取っていた。
魔獣の亡骸はすでに回収されてはいるが、流れ落ちた血は浄化をしないと淀みを生んでしまう。カイゼルが破壊してしまった王宮の結界の修復や庭園の造成も急がねばならない。
「殿下、どうなされましたの?」
突然笑い出した僕を怪訝そうにミレイが覗き込んでくる。
「ミレイ、明日にでも儀式はできそうだ。準備をしよう」
そう言うと、僕の女神は、翡翠の瞳を眩く輝かせながら大輪の花のごとく笑った。
「それはよろしかったですわ。では、早速取り掛かりますわね。」
そう嬉しそうに声を弾ませて、神官服の裾を翻して神殿へと向かっていった。
※※※※
…それが三日前のことだった。
ーー契約は成された!だから、儀式はすぐにでも行えるはずなんだ!
僕は憤然とした思いを抱えながら、巫女様が休んでいるはずの部屋を訪れようとしている。
あれから二晩経っても、巫女も護衛も部屋から出てこない。ご丁寧に青くて分厚い結界がびっしりと張られて、どこにも付け入る隙がない。
なのに、伝令魔法で食事の要求と護衛隊への仕事の指示や確認だけはカイゼルから定期的に届く。
巫女様の様子について聞くとカイゼルからは「リィナは、まだ体調が整っておりません。」としか返ってこない。
早く出てくるように促しても「殿下のご指示に従っているだけです。」と言い出す始末だ。
確かに僕は早く契約を結んで、巫女様を万全の状態にするようにとは言ったが、好きなだけ睦み合っていいとは言っていない。
ましてや、己の欲望のままに抱き潰していいという指示など出してはいない。
今日こそは結界を叩き割ってやると言う決意を抱えて、苛立ちまぎれに足を動かしていると、目的のドアの前まで辿り着いた。
二人の騎士がなんとか結界を破ろうと果敢に魔素や剣を振るっている。
「殿下!申し訳ありません。カイゼル隊長の魔素は日に日に密度と濃さを増しており、我々では全く歯が立ちません。」
「殿下!カイゼル隊長の魔素を解析しましたが、巫女様の魔素も混じっておりまして、どんな攻撃も無効化されてしまうっす。」
銀色と茶色の騎士が敬礼をしながらも、現状を伝えてくる。
ーー王国でも屈指の実力者二人でも歯が立たないって、どういうことなのかな??
歯噛みするような気持ちで、どうしたものかと思案していると、カチャリとドアが開き、あっさりと怜悧な青を宿した、いつもの鉄面皮が姿を現した。
「シエナ副隊長、クロード。結界をむやみに叩いてはリィナが起きてしまうかもしれない。明朝までは控えてもらいたいのだが。」
当然のように真顔で要求してくる様子にため息すら溢れてしまう。
「ああ、殿下もいらしていましたか。」
僕に気づいて、軽くカイゼルが頭を下げる。
「いや…こんなん、絶対音なんか聞こえてねえだろ。」隣からクロードのボヤキが聞こえてくる。
「ねえカイゼル。巫女様はいつ儀式ができるのかな?」
こめかみがひくつくのは勘弁してもらいたい。
声に苛立ちが混じるのも、だ。
そっとドアの隙間から僕の魔素を忍ばせようとしたが、瞬時に青い壁に阻まれた。
ーーこいつめ、外側だけじゃなくて、内側にも結界を張ってるのか…僕の魔素までこうもあっさりと阻むなんて…
「殿下。リィナはまだ万全ではなく休んでおります。…しかし、明日には儀式は執り行えます。」
ーー誰のせいで休まないといけない状態になっているのかな?
怒気を滲ませた視線を送るが、相変わらず僕の威圧にも動じる様子はない。
鉄面皮は健在だが、明らかに全て吹っ切れた人間の、清々しい雰囲気だけは伝わってくる。
肌は艶々していて、顔色も良く、青い魔素がくるくると踊るように揺らめいている。
暴走を起こす前とはまるで別人だ。
この堅物の浮かれた様子を見ていると、ふつふつと嗜虐心が湧いてくる。
「ねえ、カイゼル。それでどうだったの?最愛をその手に抱いた感想は?」
にやりと意地悪く聞いてやれば、カイゼルの眉がぴくりと動いた。
「殿下には、感謝致しております。」
そう言った目尻の縁がほんの少し赤みを帯びている。
ーー照れているのか…?
溜飲がちょっとだけ下がる。
「シエナ副隊長とクロードにも感謝している。リィナを魔獣から護ってもらったことも、俺の暴走を止めてくれたことも…。明日には必ずリィナを皆の前に連れて行く。」
そう言ってさっとドアの内に隠れてしまった。
ーー明日か…本当に出てくるのかな?
一瞬だけそんな疑問がよぎったが、あれは嘘はつかないし、約束は違えたことのない男だ。大丈夫だろう。
そう思い直して、結界破壊の指示を二人には取り下げた。
ーーあー、やっとだよ。随分と拗らせていたからね。カイゼルもだけど、巫女様もだ。離れがたいのも仕方がないのかな…
軽く溜息をつきながらも、一つ肩の荷が降りて、足取りは少しだけ軽くなる。
世界樹への祈りのためだけではなく、互いを思いやるあまりに、すれ違っていたあの二人が心を通わせたことが嬉しいというのは正直な気持ちだ。
ーーこれで世界樹が再生してくれれば、申し分ないけれどね。
僕は儀式が正式に決まったことを伝えるため、最愛の待つ執務室へと足早に向かった。
様々な色合いを帯び、喜びに満ちあふれた清らかな光が生まれて、世界全体へと溶け広がるのを感じた。
「契約は成された…か」
ふっと笑みが湧いてきて、安堵とともに笑い声に変わっていく。
王宮が魔獣の襲撃を受けた次の日の昼過ぎ、僕は、この陰惨な現場の指揮を取っていた。
魔獣の亡骸はすでに回収されてはいるが、流れ落ちた血は浄化をしないと淀みを生んでしまう。カイゼルが破壊してしまった王宮の結界の修復や庭園の造成も急がねばならない。
「殿下、どうなされましたの?」
突然笑い出した僕を怪訝そうにミレイが覗き込んでくる。
「ミレイ、明日にでも儀式はできそうだ。準備をしよう」
そう言うと、僕の女神は、翡翠の瞳を眩く輝かせながら大輪の花のごとく笑った。
「それはよろしかったですわ。では、早速取り掛かりますわね。」
そう嬉しそうに声を弾ませて、神官服の裾を翻して神殿へと向かっていった。
※※※※
…それが三日前のことだった。
ーー契約は成された!だから、儀式はすぐにでも行えるはずなんだ!
僕は憤然とした思いを抱えながら、巫女様が休んでいるはずの部屋を訪れようとしている。
あれから二晩経っても、巫女も護衛も部屋から出てこない。ご丁寧に青くて分厚い結界がびっしりと張られて、どこにも付け入る隙がない。
なのに、伝令魔法で食事の要求と護衛隊への仕事の指示や確認だけはカイゼルから定期的に届く。
巫女様の様子について聞くとカイゼルからは「リィナは、まだ体調が整っておりません。」としか返ってこない。
早く出てくるように促しても「殿下のご指示に従っているだけです。」と言い出す始末だ。
確かに僕は早く契約を結んで、巫女様を万全の状態にするようにとは言ったが、好きなだけ睦み合っていいとは言っていない。
ましてや、己の欲望のままに抱き潰していいという指示など出してはいない。
今日こそは結界を叩き割ってやると言う決意を抱えて、苛立ちまぎれに足を動かしていると、目的のドアの前まで辿り着いた。
二人の騎士がなんとか結界を破ろうと果敢に魔素や剣を振るっている。
「殿下!申し訳ありません。カイゼル隊長の魔素は日に日に密度と濃さを増しており、我々では全く歯が立ちません。」
「殿下!カイゼル隊長の魔素を解析しましたが、巫女様の魔素も混じっておりまして、どんな攻撃も無効化されてしまうっす。」
銀色と茶色の騎士が敬礼をしながらも、現状を伝えてくる。
ーー王国でも屈指の実力者二人でも歯が立たないって、どういうことなのかな??
歯噛みするような気持ちで、どうしたものかと思案していると、カチャリとドアが開き、あっさりと怜悧な青を宿した、いつもの鉄面皮が姿を現した。
「シエナ副隊長、クロード。結界をむやみに叩いてはリィナが起きてしまうかもしれない。明朝までは控えてもらいたいのだが。」
当然のように真顔で要求してくる様子にため息すら溢れてしまう。
「ああ、殿下もいらしていましたか。」
僕に気づいて、軽くカイゼルが頭を下げる。
「いや…こんなん、絶対音なんか聞こえてねえだろ。」隣からクロードのボヤキが聞こえてくる。
「ねえカイゼル。巫女様はいつ儀式ができるのかな?」
こめかみがひくつくのは勘弁してもらいたい。
声に苛立ちが混じるのも、だ。
そっとドアの隙間から僕の魔素を忍ばせようとしたが、瞬時に青い壁に阻まれた。
ーーこいつめ、外側だけじゃなくて、内側にも結界を張ってるのか…僕の魔素までこうもあっさりと阻むなんて…
「殿下。リィナはまだ万全ではなく休んでおります。…しかし、明日には儀式は執り行えます。」
ーー誰のせいで休まないといけない状態になっているのかな?
怒気を滲ませた視線を送るが、相変わらず僕の威圧にも動じる様子はない。
鉄面皮は健在だが、明らかに全て吹っ切れた人間の、清々しい雰囲気だけは伝わってくる。
肌は艶々していて、顔色も良く、青い魔素がくるくると踊るように揺らめいている。
暴走を起こす前とはまるで別人だ。
この堅物の浮かれた様子を見ていると、ふつふつと嗜虐心が湧いてくる。
「ねえ、カイゼル。それでどうだったの?最愛をその手に抱いた感想は?」
にやりと意地悪く聞いてやれば、カイゼルの眉がぴくりと動いた。
「殿下には、感謝致しております。」
そう言った目尻の縁がほんの少し赤みを帯びている。
ーー照れているのか…?
溜飲がちょっとだけ下がる。
「シエナ副隊長とクロードにも感謝している。リィナを魔獣から護ってもらったことも、俺の暴走を止めてくれたことも…。明日には必ずリィナを皆の前に連れて行く。」
そう言ってさっとドアの内に隠れてしまった。
ーー明日か…本当に出てくるのかな?
一瞬だけそんな疑問がよぎったが、あれは嘘はつかないし、約束は違えたことのない男だ。大丈夫だろう。
そう思い直して、結界破壊の指示を二人には取り下げた。
ーーあー、やっとだよ。随分と拗らせていたからね。カイゼルもだけど、巫女様もだ。離れがたいのも仕方がないのかな…
軽く溜息をつきながらも、一つ肩の荷が降りて、足取りは少しだけ軽くなる。
世界樹への祈りのためだけではなく、互いを思いやるあまりに、すれ違っていたあの二人が心を通わせたことが嬉しいというのは正直な気持ちだ。
ーーこれで世界樹が再生してくれれば、申し分ないけれどね。
僕は儀式が正式に決まったことを伝えるため、最愛の待つ執務室へと足早に向かった。
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