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第7章 禁足の地と解放
第7章 第3話 覚悟を捧げる
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急に狭くなった道を、手を繋いでただ歩いて進んでいく。
岩壁が間際に迫って、氷柱のように垂れ下がった岩から、ポタポタと雫が垂れ落ちて肩や髪を濡らす。
冷たい雫が体の熱を奪っていく。けれど繋がり合った指先からは互いの魔素が流れ込み合い、血流のように体中を循環して温め合っている。
滑りそうになる足元に注意していると、自分の吐く息と心音だけが鼓膜の内に籠もっていく。
「ここか?」
カイゼルの囁くような呟きに、顔を上げて周りを見渡す。
そこはどこまでも吹き抜けた広い空間だった。
白と灰色の氷柱が折重なった壁がぐるりと立ちはだかる。
そして、目の前に底の見えない真っ黒な湖があった。
湖の上を頼りない青白い光の玉が無数に漂い、水面に沈んではまた戻るのを繰り返していた。
魂のような光の玉が出入りする度に、不規則に水面に波紋が広がり、不気味な冷気が漂ってきて、肌を粟立てる。
ーーここは来てはいけない場所だ。
本能的にそう感じた。ここは生も死すらも感じない。
『絶望の果ての虚無』という言葉が浮かび、喉がひどく渇いてくる。
気が付くと手が小刻みに震えていた。それを抑えようとして、強くカイゼルの手を握りしめる。
ーー震えているのは私じゃない。
はっとカイゼルの表情を伺うと、その瞳は湖の暗さを映し取ったように闇に染まっていた。
ーーカイゼル?何も見えてないの?
カイゼルの全身が震え出して、どさりと膝から崩れ落ちた。
白く乾いた唇からは、「里菜…里菜…」と虚ろな声で私を呼ぶ声が溢れ落ちて、黒い淀みに消えていく。
握りしめた手はどんどん冷たくなっていき、私達の周りを青白い揺らめきが取り囲み始めた。
カイゼルの口から溢れ落ちる絶望を掬うように唇を重ねて、ありったけの紫の光を流し込む。
「お願い。戻ってきて…海生。」
何度も角度を変えて、必死に必死に息と魔素を吹き込むのに、海生の内を侵食していく黒い揺らめきに、私の光は追いつけない。
このままではカイゼルは死んでしまう。
闇に堕ちて魔獣になってしまう。
焦燥に胸を焼きつかせ、何も出来ない無力感が涙となって頬を濡らしていく。
けれど、この行為をやめることは出来ない。
そうだ…もう私の生命力を削るしかない。
ーー『巫女は自分の生命を愛する者に分け与える』ことができるのだから。
それは巫女だけが起こせる奇跡の一つ。
代償は『私の寿命』だ。
どれくらい削られるかは想像もできない。
もしかしたら、私はこのまま生命が尽きるかもしれない。
それでも、
「でも、私はあなたに生きていて欲しいの」
ふとこの間の薔薇園での会話が蘇って、自然と苦笑いが込み上げてくる。
「私がいなくなっても、この世界は壊さないで守ってね。お願いだよ。」
息が出来なくなるほどの苦しさと申し訳なさが込み上げてくる。
ーーごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
謝ることしか出来なくてごめんなさい。
カイゼルの体をぎゅっと強く抱きしめて、ミントの香りで自分を満たす。
ああ、お父さんとお母さんもきっとこんな気持ちだったんだね。遺していく方も辛かったんだね。
体中が切り刻まれるような痛みに、声を上げて泣きたくなるのを堪えて、もう一度カイゼルの瞳を覗き込む。
深淵に堕ちた青いそれはもう何も映し出さない。私のことですらも。
覚悟を決めて、生命を流し込もうと息を吸い込んだ時。
「鈴を鳴らしなさい。舞うのよ、里菜。」
母が隣に立っていた。
岩壁が間際に迫って、氷柱のように垂れ下がった岩から、ポタポタと雫が垂れ落ちて肩や髪を濡らす。
冷たい雫が体の熱を奪っていく。けれど繋がり合った指先からは互いの魔素が流れ込み合い、血流のように体中を循環して温め合っている。
滑りそうになる足元に注意していると、自分の吐く息と心音だけが鼓膜の内に籠もっていく。
「ここか?」
カイゼルの囁くような呟きに、顔を上げて周りを見渡す。
そこはどこまでも吹き抜けた広い空間だった。
白と灰色の氷柱が折重なった壁がぐるりと立ちはだかる。
そして、目の前に底の見えない真っ黒な湖があった。
湖の上を頼りない青白い光の玉が無数に漂い、水面に沈んではまた戻るのを繰り返していた。
魂のような光の玉が出入りする度に、不規則に水面に波紋が広がり、不気味な冷気が漂ってきて、肌を粟立てる。
ーーここは来てはいけない場所だ。
本能的にそう感じた。ここは生も死すらも感じない。
『絶望の果ての虚無』という言葉が浮かび、喉がひどく渇いてくる。
気が付くと手が小刻みに震えていた。それを抑えようとして、強くカイゼルの手を握りしめる。
ーー震えているのは私じゃない。
はっとカイゼルの表情を伺うと、その瞳は湖の暗さを映し取ったように闇に染まっていた。
ーーカイゼル?何も見えてないの?
カイゼルの全身が震え出して、どさりと膝から崩れ落ちた。
白く乾いた唇からは、「里菜…里菜…」と虚ろな声で私を呼ぶ声が溢れ落ちて、黒い淀みに消えていく。
握りしめた手はどんどん冷たくなっていき、私達の周りを青白い揺らめきが取り囲み始めた。
カイゼルの口から溢れ落ちる絶望を掬うように唇を重ねて、ありったけの紫の光を流し込む。
「お願い。戻ってきて…海生。」
何度も角度を変えて、必死に必死に息と魔素を吹き込むのに、海生の内を侵食していく黒い揺らめきに、私の光は追いつけない。
このままではカイゼルは死んでしまう。
闇に堕ちて魔獣になってしまう。
焦燥に胸を焼きつかせ、何も出来ない無力感が涙となって頬を濡らしていく。
けれど、この行為をやめることは出来ない。
そうだ…もう私の生命力を削るしかない。
ーー『巫女は自分の生命を愛する者に分け与える』ことができるのだから。
それは巫女だけが起こせる奇跡の一つ。
代償は『私の寿命』だ。
どれくらい削られるかは想像もできない。
もしかしたら、私はこのまま生命が尽きるかもしれない。
それでも、
「でも、私はあなたに生きていて欲しいの」
ふとこの間の薔薇園での会話が蘇って、自然と苦笑いが込み上げてくる。
「私がいなくなっても、この世界は壊さないで守ってね。お願いだよ。」
息が出来なくなるほどの苦しさと申し訳なさが込み上げてくる。
ーーごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
謝ることしか出来なくてごめんなさい。
カイゼルの体をぎゅっと強く抱きしめて、ミントの香りで自分を満たす。
ああ、お父さんとお母さんもきっとこんな気持ちだったんだね。遺していく方も辛かったんだね。
体中が切り刻まれるような痛みに、声を上げて泣きたくなるのを堪えて、もう一度カイゼルの瞳を覗き込む。
深淵に堕ちた青いそれはもう何も映し出さない。私のことですらも。
覚悟を決めて、生命を流し込もうと息を吸い込んだ時。
「鈴を鳴らしなさい。舞うのよ、里菜。」
母が隣に立っていた。
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