COLD LIGHT ~七美と愉快なカプセル探偵たち~

つも谷たく樹

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第二章 黒い呪術師

 ‐2‐

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「おっはよー。大木場ー」

 七美の陽気な声が狭い室内に跳ね返っていく。
 昨晩は彼のバイクで家に送ってもらい、事務所の仮眠室を使用するよう伝えていた。

「――ああ……、おはようございます」

 それなのに、なぜか机に突っ伏したまま生返事をする筋肉マッチョくん。眼球が赤くれ、寝ていないのがひと目でわかった。

「どうしたの? ベッドを使ったらよかったのに」
「はぁ……、それがですね――」

 大木場が休もうとしていたら、同じ隊員である三倉寿美子みくらすみこが仕事を終え、事務所に帰ってきたとのこと。
 どうやら彼女も仮眠室を使うつもりだったらしく、こころよゆずってあげたと話した。

「そうなんだ。それで三倉は?」
水溜みずため兄さんと交代の時間らしく、ちょっと前に出ていったっす」
「そっか、次の指示も出さないといけないな」

 この水溜勝利かつとしという中年の男性も体育会系であり、ほかの隊員と同様、七美が指示を与えないと使いものにならない。
 外見は細身の筋肉質、以外に特徴もなく、毎年、競歩大会に参加しているせいか、長距離の追跡だけは得意中の得意。だが誰に対しても態度が横柄おうへいなのがわざわいし、よけいなトラブルを巻き起こしてもいた。

「交代の前に、朝食でも誘えばよかったのに」
「お急ぎの様子だったので」
「純情だなぁ……」

 大木場を見る眼差しは、雨で濡れそぼった子犬を見ているよう。
 なぜなら彼は三倉に好意を寄せているのを知っており、比較的、ペアになるようにしているものの、なんの進展もしていない。
 はたで見ていると歯がゆくもあり、近いうち、ふたりだけで食事する機会を作ってあげることにした。

「それじゃ出かけよっか。悪いけれどアシにしていい?」
「もちろんっすよ」 

 足早に七美が事務所を出ていくと、大木場は大きく伸びをする。
 体力だけは無尽蔵むじんぞうにあるらしく、元気いっぱいで彼女の後ろを追った。

「ところで隊長。昨晩、話していた、『違和感』って、どういう意味っすか」
「思い出してみて。店は昨日どうだった?」

 裏手にある駐車場には、大木場の所有するナナハンと呼ばれる大排気量のバイクが止めてある。
 一見、ボロボロに見えても年代物のアメリカ製のレーシングモデルで、オークションサイトで買った逸品であった。

「昨日の店っすか。んーと、いつもと同じでおいしかったですよ」
「いや味じゃなくて、待たずに入れたでしょ」
「あー。そうっすね。夕飯時なのに、ウエイティングボードに名前を書かなかったっすね」
「そう、つまりだな――」

 七美は答えを言おうとするも喉元で止めた。
 これまで隊員たちに、ちくいち指導してきたが、それが原因で思考を停止してしまった節もある。
 ここは大木場に推理をしてもらい、そのご褒美として三倉との食事会を開いてやろうとひらめいた。

「まぁ、いいや。とりあえずレッツラゴー」

 マイヘルメットを被った七美は、まずは事故のあった現場へと指示を出す。
 だがシートに座る大木場は、真剣な表情で目を閉じ、なにやらカウントダウンを始めた。

「なにしてんの?」
「電磁ポンプの音を聞いてるっす」

 片眉だけに皺を寄せ、二回ほどアクセルを捻る。
 次いで、ここぞのタイミングを耳で聞き分けると、スターターをキックした。

「おしっ、掛かったっす」

 半世紀以上も前に生産が終了しているがゆえ、エンジンの始動にも儀式が必要となる。
 一度でもプラグがかぶってしまうと、たちどころにレスポンスが悪くなってしまう、厄介な代物しろものであった。

「ふーん、めんどくさいのね」 
「朝の占いみたいなもんです。吹けが好調なので、今日はいい一日になるっすよ」
「あら、うれしい」
「よーし、行くっすよ」
「レッツラゴー」

 乗りもの好きは七美も同様で、エンジン音とシンクロしてテンションが上がっていく。
 いっそこのまま、海か山へでも遊びに出かけそうな気分になっていた。

「うるさいですがー、しんぼうしてくださいねー」

 競技用だった車両に、デチューンをほどこしている。
 すぐ後ろに座っているにもかかわらず、会話なんてできないくらいの爆音となった。

「うにゃあー。サイコー」

 不完全燃焼によるバックファイヤーが臀部でんぶで起こり、マフラーから発せられるアフターファイアがアスファルトを焦がしていく。
 
 無骨で荒々しいネイキッドマシンは、あたかも地球外生物にも似た咆哮ほうこうをあげ、市街の景色をすべて後方へ押し流していった。
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