COLD LIGHT ~七美と愉快なカプセル探偵たち~

つも谷たく樹

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第四章 雨に唄えば

 ‐5‐

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 深夜零時に差し掛かる時刻。
 雨のあがった繁華街から離れ、ひと気のない高架下を歩く、さすらいの呪術師こと平良みどり子と吉野木誠一。
 
 最終電車が通り過ぎると、辺りは静まりかえり、背後にある町のネオンもひとつ。またひとつと消えつつあった。

「――井関幹恵」

 平良はとつとして立ち止まると、声だけを後ろに投げた。

「いせきみきえ?」
「さっきの店で話した陰陽師の血筋にあたる女さ」

 老婆は体ごと吉野木にふり返ると、くちゃくちゃと音を立て、汚い歯を見せた。

「それが……。私の殺す相手ですか?」
「決行は明日の夜十時。彼女が帰るまで家には誰もいないから、先に入って潜んでおいで」

 平良は周囲を見回し、薄汚れたバッグに手を入れる。
 鈍色にびいろに光る鍵と一枚のメモを出してくると、吉野木に押しつけた。

「どうやって殺せばいいのですか。本当に誰もいないのですか」

 恐る恐る両手で受け取り、なにかが書かれたメモを見る。
 そこには隣の市にある、見知らぬ街が記されてあった。

「手袋をして、適当な調度品ででも殴りな。旦那は出張中で朝から誰もいない。わたいが保証するよ」
「私に……できるでしょうか……」
「なーに、末裔といっても、しょせんは普通の女さ。それにさっきも言っただろ、あんたたちはお互い無関係だ。絶対に捕まらないよ」

 またも歯を剥き出して、ぐにゃりと口を曲げる。
 腐臭ふしゅうさえ漂ってきそうな気色の悪い表情だった。

 やがて行き交う車も少なくなり、雨に濡れたアスファルトを照らすのは、街路灯のかすかな明かりだけ。
 今さら断りでもしたら、どうなるかと想像し、吉野木は何度も呼吸を整えた。

「……わかりました。女を殺したあとは、どうすればいいですか」
「行きずり強盗に見せるため、家を荒らしておいで。あとは誰にも見られないように適当に帰るがいい。それでわたいとの取引は終了だ――」

 平良はしっかりと目を見据え、再度、殺害の手順を話す。
 声に出して復唱していく吉野木を見ると、得心したようにうなずいた。

「ひっひっひっ、手抜かりのないようにな」

 最後に一瞥して、平良は通りすがりのタクシーを拾う。
 屋根灯が消え、タクシーは静かに走りはじめると、街路灯がつづく湾岸エリアへと消えていった。

「俺にはもう……あとがない……」

 徐々に徐々に景色が歪んでいく感覚に襲われ、立っていられなくなる。
 膝が崩れそうになるのを懸命に堪え、老婆に渡された鍵を握りしめた。
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