39 / 50
【番外編】3人のその後
ルシアン
しおりを挟む
煌びやかな夜会の会場で、女性たちをあしらいながら、ここにメルが居れば・・・と、ふと思う。
あんなことが無ければ、今頃メルとホールでダンスを踊っていたというのに。
きっと、蝶の様に舞うメルは、見惚れるほど美しいに違いない。
はぁ。
自分の不甲斐なさに溜息を付きながら、涼む為に、バルコニーへと向かう。
火照った体に、夜風が気持ち良い。
「ルシアン。久し振りだね」
涼んでいると、背後から声が掛かる。
振り返ると、フェルナンド様が立っていた。
「フェルナンド様。お久し振りです。今日は、参加されてたんですね」
メルと同じ色彩を持つフェルナンド様を見ると、ついメルが今どうしているのかと考えてしまう。
彼が夜会に参加しているなんて、女性たちが放って置かないだろうに、逃げてきたのかな。
「付き合いでね。それに、ルシアンにも話が合ったからね。・・・手紙で知らせるよりも直接話した方が良いと思ってね」
手紙ではなく、直接話した方が良い事・・・。
雰囲気からして、良い話ではなさそうだけど・・・。
「濁して言っても仕方ない事だから、簡潔に言うよ。メルが結婚することになった。ルシアンには、1年待って欲しいとお願いしていただけに、申し訳ないが・・・」
何を・・・。
聞き間違いか?メルが結婚?誰と?
社交はしてなかった筈。一体どうして・・・。
「今・・・なんと?ちょっと、良く聞こえなかった様で・・・」
「メルが結婚するんだよ」
再度確認して、目の前が真っ暗になる。
身体がふらつき倒れそうになったところで、フェルナンド様に支えられる。
「おっと、大丈夫か?そこのソファーに腰を掛けて、座って話そう」
「はい・・・」
ソファーに腰を掛けて、天を仰ぎ、目を手で覆う。
フェルナンド様に対して、褒められた態度ではないけど、今は礼儀など構っていられる余裕がない。
その姿勢のまま、フェルナンド様に問いかける。
「相手は誰か聞いても良いですか?」
「・・・相手は、メルの護衛に当たっていた平民だよ」
・・・平民?
メルは、伯爵令嬢なのに、平民と結婚するというのか!?
フェルナンド様は、一体なにを考えて・・・。
ソファーに預けて居た身体を起こし、フェルナンド様を見つめる。
「平民と結婚して、メルが幸せになると思っているのですか?どうして、平民と・・・」
「メルの幸せを願っているから、認めているんだよ。メルが唯一愛した人だからね」
メルが愛した・・・。
その言葉は衝撃的で、喉の奥が締め付けられる。
私が、メルの愛を欲していたのに・・・。
1年待っている間に、顔も知らない男にメルを搔っ攫われてしまった。
どうして・・・。
どうして、どうして、どうして・・・。
もう、頭の中はそれで埋め尽くされる。
あの時から、私にはメルを取り戻す事は無理だったのだろうか・・・。
あの時の愚かな自分を殴ってやりたい。
時を戻すことが出来るのであれば、二度と同じ失敗はしないと誓う。
そして、その手を二度と離す事なく、生涯を寄り添い続ける。
その願いは、もう叶う事はない。
「・・・すみません。少し、一人に」
「あぁ、私はホールに戻るよ。急に、こんな話をして申し訳なかったね。」
フェルナンド様が去っていく音を聞きながら、涙が零れ落ちるのが分かる。
普段泣くことなんてないのに。
泣くのは、メルと婚約解消して以来か。
私が涙を流すのは、メルに関してだけだよ。
メル・・・。
あれから反省して、女性への接し方をちゃんと学んだんだ。
今では、先生たちにも褒められ、夜会でも上手く女性をあしらえるんだよ。
その姿を君にも見て欲しかった。
「成長したね」「今の貴方なら信用できるわ」って言って欲しかった。
そして、婚約を結びなおし・・・。
あぁ、ダメだ。
何を想ったところで、もうそれは叶わない。
メル・・・愛してるんだ。
この想いは消えることはない。
忘れる事なんて出来ない。
深く深くため息を吐き、夜空を見上げる。
輝く星たちを見つめ、静かに涙を流し続ける。
「あぁ、メル。夜空が澄んでいて、とてもきれいだね。今頃君もこの星たちを眺めているのかな。メル、これからも愛しているよ」
声に出し、涙を流し、気持ちが吹っ切れていく。
いいじゃないか。
メルと添い遂げることが出来なくても、彼女を想い続けて行くことの何が悪いのか。
内ポケットに入れて持ち歩いている、メルから貰った栞を取り出し、口付けを落とす。
私は、メルとの思い出と共に生きていくよ。
夜会は早々に切り上げ、邸に戻ると、父上に、次期当主の座は弟に譲ると話を付けた。
メル以外の女性と結婚し、子供を持つことなど考えられなかったからだ。
父上も結婚もするつもりも、後継ぎを作るつもりもないと分かり、渋々弟に当主の座を譲ることに納得してくれた。
私は、生涯独身で、弟のサポートをして生きることにした。
書類を片付ける机の上には、メルの好きな花が飾られている。
出来るだけ長く咲き続けられるように、毎日丁寧に世話をしている。
花を大事にすることで、メルへの愛を示す様に・・・。
その横には、写真立てが一つ。
白いウェディングドレスが美しいメル。
「メル、おはよう。今日も頑張って働くとしようか」
日課の様に、写真に話しかけ、1日が始まる。
ーーメル。いつまでも愛しているよ。
あんなことが無ければ、今頃メルとホールでダンスを踊っていたというのに。
きっと、蝶の様に舞うメルは、見惚れるほど美しいに違いない。
はぁ。
自分の不甲斐なさに溜息を付きながら、涼む為に、バルコニーへと向かう。
火照った体に、夜風が気持ち良い。
「ルシアン。久し振りだね」
涼んでいると、背後から声が掛かる。
振り返ると、フェルナンド様が立っていた。
「フェルナンド様。お久し振りです。今日は、参加されてたんですね」
メルと同じ色彩を持つフェルナンド様を見ると、ついメルが今どうしているのかと考えてしまう。
彼が夜会に参加しているなんて、女性たちが放って置かないだろうに、逃げてきたのかな。
「付き合いでね。それに、ルシアンにも話が合ったからね。・・・手紙で知らせるよりも直接話した方が良いと思ってね」
手紙ではなく、直接話した方が良い事・・・。
雰囲気からして、良い話ではなさそうだけど・・・。
「濁して言っても仕方ない事だから、簡潔に言うよ。メルが結婚することになった。ルシアンには、1年待って欲しいとお願いしていただけに、申し訳ないが・・・」
何を・・・。
聞き間違いか?メルが結婚?誰と?
社交はしてなかった筈。一体どうして・・・。
「今・・・なんと?ちょっと、良く聞こえなかった様で・・・」
「メルが結婚するんだよ」
再度確認して、目の前が真っ暗になる。
身体がふらつき倒れそうになったところで、フェルナンド様に支えられる。
「おっと、大丈夫か?そこのソファーに腰を掛けて、座って話そう」
「はい・・・」
ソファーに腰を掛けて、天を仰ぎ、目を手で覆う。
フェルナンド様に対して、褒められた態度ではないけど、今は礼儀など構っていられる余裕がない。
その姿勢のまま、フェルナンド様に問いかける。
「相手は誰か聞いても良いですか?」
「・・・相手は、メルの護衛に当たっていた平民だよ」
・・・平民?
メルは、伯爵令嬢なのに、平民と結婚するというのか!?
フェルナンド様は、一体なにを考えて・・・。
ソファーに預けて居た身体を起こし、フェルナンド様を見つめる。
「平民と結婚して、メルが幸せになると思っているのですか?どうして、平民と・・・」
「メルの幸せを願っているから、認めているんだよ。メルが唯一愛した人だからね」
メルが愛した・・・。
その言葉は衝撃的で、喉の奥が締め付けられる。
私が、メルの愛を欲していたのに・・・。
1年待っている間に、顔も知らない男にメルを搔っ攫われてしまった。
どうして・・・。
どうして、どうして、どうして・・・。
もう、頭の中はそれで埋め尽くされる。
あの時から、私にはメルを取り戻す事は無理だったのだろうか・・・。
あの時の愚かな自分を殴ってやりたい。
時を戻すことが出来るのであれば、二度と同じ失敗はしないと誓う。
そして、その手を二度と離す事なく、生涯を寄り添い続ける。
その願いは、もう叶う事はない。
「・・・すみません。少し、一人に」
「あぁ、私はホールに戻るよ。急に、こんな話をして申し訳なかったね。」
フェルナンド様が去っていく音を聞きながら、涙が零れ落ちるのが分かる。
普段泣くことなんてないのに。
泣くのは、メルと婚約解消して以来か。
私が涙を流すのは、メルに関してだけだよ。
メル・・・。
あれから反省して、女性への接し方をちゃんと学んだんだ。
今では、先生たちにも褒められ、夜会でも上手く女性をあしらえるんだよ。
その姿を君にも見て欲しかった。
「成長したね」「今の貴方なら信用できるわ」って言って欲しかった。
そして、婚約を結びなおし・・・。
あぁ、ダメだ。
何を想ったところで、もうそれは叶わない。
メル・・・愛してるんだ。
この想いは消えることはない。
忘れる事なんて出来ない。
深く深くため息を吐き、夜空を見上げる。
輝く星たちを見つめ、静かに涙を流し続ける。
「あぁ、メル。夜空が澄んでいて、とてもきれいだね。今頃君もこの星たちを眺めているのかな。メル、これからも愛しているよ」
声に出し、涙を流し、気持ちが吹っ切れていく。
いいじゃないか。
メルと添い遂げることが出来なくても、彼女を想い続けて行くことの何が悪いのか。
内ポケットに入れて持ち歩いている、メルから貰った栞を取り出し、口付けを落とす。
私は、メルとの思い出と共に生きていくよ。
夜会は早々に切り上げ、邸に戻ると、父上に、次期当主の座は弟に譲ると話を付けた。
メル以外の女性と結婚し、子供を持つことなど考えられなかったからだ。
父上も結婚もするつもりも、後継ぎを作るつもりもないと分かり、渋々弟に当主の座を譲ることに納得してくれた。
私は、生涯独身で、弟のサポートをして生きることにした。
書類を片付ける机の上には、メルの好きな花が飾られている。
出来るだけ長く咲き続けられるように、毎日丁寧に世話をしている。
花を大事にすることで、メルへの愛を示す様に・・・。
その横には、写真立てが一つ。
白いウェディングドレスが美しいメル。
「メル、おはよう。今日も頑張って働くとしようか」
日課の様に、写真に話しかけ、1日が始まる。
ーーメル。いつまでも愛しているよ。
399
あなたにおすすめの小説
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。