【完結】愛犬との散歩は、恋の予感

Ria★2巻発売中『簡単に聖女に魅了〜』

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二章 嫉妬

---奏視点④---

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 「ねぇ、明日はオレンジゼリーにしようかなって材料買ってきたんだけど、せっかくなら奏が作ってみない?」

 「え……? 俺が?」

 「ゼリーってゼラチン混ぜて冷やすだけだから、簡単だし、奏でも出来るでしょ」

 「いや、まぁ、作れるだろうけど……なんで?」

 いつもなら、何も言わずに勝手に作って持って行けって準備してるのに、急にどうしたんだろう。
 
 「奏が作った方が、絶対喜ぶと思うんだよね」

 「そ、そうか? 男がお菓子作りって引かれないかな?」

 「はぁ? 何言ってんの。奏の場合は、作りそうにないから余計にギャップでキュンとくると思うのよね」

 「キュンと……」

 「そう、茉莉絵ちゃんをキュンとさせたくない?」

 ……いや、俺、母さんに茉莉絵のこと好きなんて一言も言ってないが?
 なんで決めつけたように言ってくるんだ?

 「母さん……俺が茉莉絵のこと好きだと思ってるの」

 「え? 当たり前じゃない。違うの?」

 「……ち、違わないけど……なんで分かったの?」

 「いや、奏……それで気付かれないと思ってたの? 毎週末ウキウキで獅子丸の散歩に行ってるし、夜はお休みメッセージを送り合ってるんでしょ? スマホを放置してみてないこともあるあなたがよ? 好きな子じゃなきゃそんなことしないでしょ。既読スルーして終わりでしょ」

 「……」

 さすが、母さん。よく分かってるな。
 確かに、興味がない女子からどうでもいいメッセージが送られてきても既読無視か未読無視だからな。
 茉莉絵には、短くても必ず返事をしている。
 ただ、あまりメッセージのやり取りは得意じゃないから、一言で済ませてしまうことが多いけど……
 そっけなさすぎたか?

 「さっ、勉強始める前に、サクッと作っちゃいましょう。明日、茉莉絵ちゃんの喜ぶ顔が楽しみね」

 「……そうだな」

 母さんにうまいこと乗せられ、家族全員分のゼリーも作らされたが、簡単だったため、そんなに時間をとられることなく作れたので良かった。

 ◆ ◆ ◆

 土曜日いつものように公園に行き、獅子丸と戯れながら、茉莉絵の到着を待つ。
 今日は、白いワンピースにキャスケットを被り、髪は緩く編まれていた。
 可愛すぎないか……

 会ってすぐに夏期講習に行く予定はあるか聞かれたので、なんでだろうと思っていると、夏祭りに行こうと誘われた。
 しかも、浴衣を着て……これ……デートの誘いだよな?
 嬉しいけど、なんか照れるな。浴衣……いいな。
 でも、受験生のくせに、こんなに夏満喫していいのか……?
 いいよな。夏期講習前に思いっきり楽しんで、励みにすればいい。
 何事もメリハリが大事だからな。

 浮かれすぎないようにしないと、と思っていると、五十嵐が来るかもしれないと聞いて驚いた。
 何故……
 せっかくの茉莉絵との時間を邪魔されたくないのに。

 まじで先週ここで出会したのは運が悪かった。
 ここに散歩に来ているのがバレたから、今日だけじゃなく、これからも来そうだな……
 どうしたもんかな。

 五十嵐が来てすぐに茉莉絵が帰ると言い出し去ろうとしたため、咄嗟に腕を掴む。
 急にどうしたんだ……
 声をかけるも、こっちを向くこともなく、手を解かれてしまう。
 
 このまま別れるのは不味いと直感が告げている。
 リードをクッキーに掛けようとしてるところを止め、顔を覗き込むと……涙を流していた。

 一体どうして……
 俺か? 俺が何かしたのか?

 「ちょっと、二人ともしゃがみ込んでどうしたの?」

 五十嵐の声が聞こえると、茉莉絵はクッキーにしがみついた。
 泣いてるところを見られたくないのか。

 「悪いけど、帰ってくれるか? 茉莉絵と二人で話があるから」

 五十嵐がいたら、茉莉絵とちゃんと話すことが出来ない。
 邪魔しないで欲しい。
 流石に五十嵐も察したのか、思いの外早く引いてくれて助かった。
 駄々をこねられたら、きつくあたりそうだったから……

 なかなか泣き止まない茉莉絵を抱きしめて背を摩り宥める。
 こんなに泣くほど、俺は何をしてしまったのだろう。
 もう俺のこと嫌いになったか……?

 とにかく話を聞かなければ、後悔も反省も出来ない。
 茉莉絵が何を言おうと受け止めると約束して、話を聞き出すことにした。

 すぐには気持ちも落ち着かないだろうと、昨日作ったオレンジセリーを取り出す。
 流石に、自分が作ったと言うのは恥ずかしかったが、茉莉絵が驚きながらも喜んでくれたので、作って良かったと思った。
 
 そして、聞き出した理由は、俺が先週の日曜日に五十嵐とゲームをしたことを知ってショックを受けたと言うことだった。
 こんなことで、そんなに悲しんでいたのかと、正直驚いたが……そんなに俺のことが好きなのかと、嬉しい気持ちも湧いてきた。

 俺のことが好きで、こんなにも泣いてしまったのだと知ると、愛しくて堪らなくなる。
 親指で赤くなった目元を優しく撫でる。こんなに目を真っ赤にして……可愛いな。
 抱きしめそうになる衝動をグッと我慢する。
 
 俺はまだ茉莉絵に告白することは出来ない。
 今は受験を第一に考えると決めていたからだ。
 付き合ったとしても、彼女として大事にはきっと出来ない。
 だから……勝手だけど、今のこの関係を続けていきたい。だから、他の男に目移りするようなことがないように祈る。
 勝手な男でごめんな。好きだよ。だから、もう少し待っていて。

 帰り際に茉莉絵に言われた言葉を思い出す。

 「うちの親、二人とも身長が高いんだよね」

 ……牛乳の量増やそうかな。
 大きめのコップに牛乳を注いでいると、母さんが「また飲んでるの⁉︎」と声をかけてきた。

 「別にいいだろ……」

 「あなた……最近牛乳飲み過ぎじゃない?」

 そう言われて、母さんをまじまじと見てしまう。
 父さんは身長高いけど……

 「はぁ……」

 「ちょっと、人の顔見てため息つかないでよね!」

 「いや、小さになと思って……」

 「失礼ね! お父さんは、この小ささがすっぽりと包み込めて良いって言ってくれるのよ!」

 うわぁ、親の惚気とか聞きたくねー。
 
 「はいはい、悪かったよ」

 これ以上、惚気話されても堪らないので、部屋に戻るとベッドに寝転がって伸びをする。
 最近は悪あがきで、背が伸びないかなとベッドに寝転んでは伸びをしたりしている。

 茉莉絵には、ああ言ったけど……まじで俺の身長止まったらどうしよう……
 父さんの遺伝子に期待するしかないか。
 はぁ……
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