「溺愛ビギナー」◆幼馴染みで相方。ずっと片想いしてたのに――まさかの溺愛宣言!◆

星井 悠里

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第24話

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 一時間目の授業が始まった。

 さっき蒼紫に引っ張られたほっぺは、なんとか元どおり。
 ああ、痛かった。もう。

 ……キスしたかったって。
 ……何、それ。

 ……やっぱり、嘘みたい。

 昨日のあの時間まで。
 オレが、初体験の話で口を滑らせるまでは。

 蒼紫がオレを好きなんて。思ったことも無かった。

 女の子が好きで、色んな女の子としてて。

 ――いいなあ、女の子だったら、オレも一回位、蒼紫と付き合えたかもしれないのになあ、とか、思ったこともあった。

 ルックスがカッコイイっていうのは、好きな要素の中に、あるけど。
 
 小さい頃からいつも一緒に居てくれて。
 なんか、オレを、守ろうとしてくれてるのが、最初、好きだった。

 オレ、小さい頃、人よりすっごく小さかったから。
 おっきな蒼紫が、優しくて、オレをチビだとからかう奴らから守ってくれてた。

 なんか、もはやオレにとって、王子様的な存在で。

 ほんと。
 ……カッコよかった。

 その内、人並みに背が伸びてくると、チビとは言われなかったけど。

 ……今は可愛いとか、イケメンとか。良い意味で言われるけど。
 子供の頃は、「お前女みてえだな」とか。言う、デリカシーの無い男子は、結構居た。「スカートが似合うんじゃねえの」とか。からかうような奴も居た。
 そん時、蒼紫が言ってくれた言葉が。忘れられない。

「涼は、そんなこと言って人を傷つけるお前らなんかより、男らしいしカッコいいぞ」
 
 ――もう何度も、思い出してしまう、遠い思い出。

 もうなんか。
 オレが蒼紫を好きになるのは、当然というか。

 ずっと側に居てくれるその雰囲気がそもそも大好きなのに。
 守ってくれるし、時には、男らしいとかカッコいいとか、認めてくれて。

 とにかく、ずっと蒼紫のテリトリーの中で、オレは生きてきて。
 居心地よすぎて。幸せで。

 女の子との噂が無ければ……と、思ってたけど。
 まあでもそれも、あれだけカッコよければ、そりゃ女子がほっとく訳ないんだから、しょうがないか。と、諦める癖も付いていて。

 ……蒼紫を嫌いになる、理由にはならなかった。

 ……もうオレほんとに。覚えてる限り、幼稚園の途中から。
 ずっと蒼紫が好きだったんだよね……。

 ……これ言ったら、引かれるかな……。

 うーん……。
 さすがに、引かれるかも。

 あ、でも恋愛感情を自覚したのは、小五の時だっけ。
 
 蒼紫が、初めて、女の子に告白されて、付き合うって言った時。
 学年で知られてる中で、二番目のカップルになった時。

 ……めちゃくちゃショックで。

 オレの蒼紫なのにって思っちゃって。
 好きなんだって思ったんだっけ……。

 まあそん時も。
 オレ、男の蒼紫が好きなんだって、少なからず大ショックで。
 相当悩みはしたけれど。

 ……小五も引かれるかな??

 ――とにかく。人生かけて、ずーっと好きだったのに。

 ……そんな蒼紫と、キス、しちゃった。
 でもって、一緒のベッドで寝ちゃった。

 ……いいんだろうか、本当に。

 ……いいのかな。
 蒼紫。オレを好きって。言ってくれたし。

 いいんだよね。蒼紫とキス、しても。

 ――いやでも。……ほんとに蒼紫、いいのかな。
 ていうか、そもそも、蒼紫て、オレのこといつから……。

 うーんうーん。
 めちゃくちゃ色んなことを考え続けていたら。

 チャイムが鳴ってしまった。

 えっ。
 一時間目、終わってるし。

 オレ、何も、聞いてなかったぞ。
 やっば……。

 うう。久しぶりに朝から学校に居るのに……。

 ちょっと自分に呆れてしまう。

 
 二時間目との間の休みは、五分休憩。トイレと水飲みしかない。
 トイレ行ってこよ……。

 立ち上がって、トイレに行き、トイレを済ませてから、手を洗いながら鏡を覗き込む。

 なんかオレ。ほんと、ぼーっとしてるなー。
 だめだ、こんなんじゃ。

 ぎゅ、と目をつむって、ぱち、と開けると。

「何してんの」

 すぐ後ろに蒼紫が来ていた。

「わ」
 驚いて振り返ると。

「お前、授業聞いてなかっただろ」
「あ。ばれ、た?」

「なんか、眉間にしわ寄せて、うんうん考えてるのが見えた」

 くす、と笑われる。

「何考えてた?」
「」

 トイレの中に誰も居ないことを確認して。

「蒼紫、オレ、のこと……いつから……?」
「――そんなこと、考えて、あんな顔してたのか?」

 ぷ、と笑われてしまう。

「それだけじゃないけど……」

 困ってそう言うと。
 蒼紫は、ふ、と笑って、オレを見下ろした。

「会った時から」
「え?」

「幼稚園で初めて会った時から。入園式だな」
「――おぼえ、てるの?」

「覚えてる。他のことは、ほとんど覚えてねーけど。最初、女の子だと思って、可愛くてびっくりしてたら。――男で、びっくりした」
「――」

「二回びっくりしたからさ。すっげえ覚えてんの」

 クスクス笑う蒼紫。

「それって、でも、その時から……じゃないよね?」

 男でびっくりしてるじゃん……。

「その時からだよ。その時から、全部可愛いって思い続けてるから」
「――」

「まあ……お前は女の子が好きだと思ってたから、オレもそうしようと、思ってたけど…… でもオレ、ずっと、一番好きだったのは、幼稚園から、お前だよ」

 そんな風に囁かれて。固まってしまう。

 その時。チャイムが鳴った。
 五分休憩は予鈴はないので、これが本鈴。

「やべ。戻ろ、涼」
「う、ん」

 トイレのドアを開けた蒼紫について、教室まで急ぐ。

 オレ。
 幼稚園の途中からしか覚えてないし。
 恋愛としては、小五かなあって、思って。

 それでも引かれるかなとか、思ってたら。

 幼稚園の入園式、って。

 ――なんかもう。
 ……蒼紫って。なんだかな……。

 ――もっと早く好きだって、言えば良かった、なあ。

 そしたから、もしかしたら、ずっと、そういう意味で、一緒に居られたかもしれない。
 けど。

 ……でも、オレ達。

 女の子とも付き合おうとして。
 付き合ってみたりも、して。

 それでも……お互い、好きだって思えたから、
 良かったのかも、知れない、けど。

 
 でもなー……。
 蒼紫と、「飽きるまで」してた女の子が居るっていうのがなー。
 ……良いなー。とか思って。

 ……いや、違うだろ。良いな、じゃないよね。

 ……ていうか。
 オレが、これから、蒼紫と。

 飽きるまで、するのかな。

 ……いや、飽きるまでって。
 飽きるのはやだな。

 いやいや。
 ……まだ何もしてないのに、飽きるも何も……。

 ……ってオレ、また授業聞いてないし。

 やば。
 と思って、上向くと。

 蒼紫が、オレを見てることに気付く。
 ぷ、と笑われて。指先で、前向け、と言われる。

 うんうん、と頷いて、シャーペンを持ち直して。
 そこから、頑張って、授業を聞こうと、してはみた。

 かろうじて。聞いた、かな。

 ……聞くだけは。うん。



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