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第24話
しおりを挟む一時間目の授業が始まった。
さっき蒼紫に引っ張られたほっぺは、なんとか元どおり。
ああ、痛かった。もう。
……キスしたかったって。
……何、それ。
……やっぱり、嘘みたい。
昨日のあの時間まで。
オレが、初体験の話で口を滑らせるまでは。
蒼紫がオレを好きなんて。思ったことも無かった。
女の子が好きで、色んな女の子としてて。
――いいなあ、女の子だったら、オレも一回位、蒼紫と付き合えたかもしれないのになあ、とか、思ったこともあった。
ルックスがカッコイイっていうのは、好きな要素の中に、あるけど。
小さい頃からいつも一緒に居てくれて。
なんか、オレを、守ろうとしてくれてるのが、最初、好きだった。
オレ、小さい頃、人よりすっごく小さかったから。
おっきな蒼紫が、優しくて、オレをチビだとからかう奴らから守ってくれてた。
なんか、もはやオレにとって、王子様的な存在で。
ほんと。
……カッコよかった。
その内、人並みに背が伸びてくると、チビとは言われなかったけど。
……今は可愛いとか、イケメンとか。良い意味で言われるけど。
子供の頃は、「お前女みてえだな」とか。言う、デリカシーの無い男子は、結構居た。「スカートが似合うんじゃねえの」とか。からかうような奴も居た。
そん時、蒼紫が言ってくれた言葉が。忘れられない。
「涼は、そんなこと言って人を傷つけるお前らなんかより、男らしいしカッコいいぞ」
――もう何度も、思い出してしまう、遠い思い出。
もうなんか。
オレが蒼紫を好きになるのは、当然というか。
ずっと側に居てくれるその雰囲気がそもそも大好きなのに。
守ってくれるし、時には、男らしいとかカッコいいとか、認めてくれて。
とにかく、ずっと蒼紫のテリトリーの中で、オレは生きてきて。
居心地よすぎて。幸せで。
女の子との噂が無ければ……と、思ってたけど。
まあでもそれも、あれだけカッコよければ、そりゃ女子がほっとく訳ないんだから、しょうがないか。と、諦める癖も付いていて。
……蒼紫を嫌いになる、理由にはならなかった。
……もうオレほんとに。覚えてる限り、幼稚園の途中から。
ずっと蒼紫が好きだったんだよね……。
……これ言ったら、引かれるかな……。
うーん……。
さすがに、引かれるかも。
あ、でも恋愛感情を自覚したのは、小五の時だっけ。
蒼紫が、初めて、女の子に告白されて、付き合うって言った時。
学年で知られてる中で、二番目のカップルになった時。
……めちゃくちゃショックで。
オレの蒼紫なのにって思っちゃって。
好きなんだって思ったんだっけ……。
まあそん時も。
オレ、男の蒼紫が好きなんだって、少なからず大ショックで。
相当悩みはしたけれど。
……小五も引かれるかな??
――とにかく。人生かけて、ずーっと好きだったのに。
……そんな蒼紫と、キス、しちゃった。
でもって、一緒のベッドで寝ちゃった。
……いいんだろうか、本当に。
……いいのかな。
蒼紫。オレを好きって。言ってくれたし。
いいんだよね。蒼紫とキス、しても。
――いやでも。……ほんとに蒼紫、いいのかな。
ていうか、そもそも、蒼紫て、オレのこといつから……。
うーんうーん。
めちゃくちゃ色んなことを考え続けていたら。
チャイムが鳴ってしまった。
えっ。
一時間目、終わってるし。
オレ、何も、聞いてなかったぞ。
やっば……。
うう。久しぶりに朝から学校に居るのに……。
ちょっと自分に呆れてしまう。
二時間目との間の休みは、五分休憩。トイレと水飲みしかない。
トイレ行ってこよ……。
立ち上がって、トイレに行き、トイレを済ませてから、手を洗いながら鏡を覗き込む。
なんかオレ。ほんと、ぼーっとしてるなー。
だめだ、こんなんじゃ。
ぎゅ、と目をつむって、ぱち、と開けると。
「何してんの」
すぐ後ろに蒼紫が来ていた。
「わ」
驚いて振り返ると。
「お前、授業聞いてなかっただろ」
「あ。ばれ、た?」
「なんか、眉間にしわ寄せて、うんうん考えてるのが見えた」
くす、と笑われる。
「何考えてた?」
「」
トイレの中に誰も居ないことを確認して。
「蒼紫、オレ、のこと……いつから……?」
「――そんなこと、考えて、あんな顔してたのか?」
ぷ、と笑われてしまう。
「それだけじゃないけど……」
困ってそう言うと。
蒼紫は、ふ、と笑って、オレを見下ろした。
「会った時から」
「え?」
「幼稚園で初めて会った時から。入園式だな」
「――おぼえ、てるの?」
「覚えてる。他のことは、ほとんど覚えてねーけど。最初、女の子だと思って、可愛くてびっくりしてたら。――男で、びっくりした」
「――」
「二回びっくりしたからさ。すっげえ覚えてんの」
クスクス笑う蒼紫。
「それって、でも、その時から……じゃないよね?」
男でびっくりしてるじゃん……。
「その時からだよ。その時から、全部可愛いって思い続けてるから」
「――」
「まあ……お前は女の子が好きだと思ってたから、オレもそうしようと、思ってたけど…… でもオレ、ずっと、一番好きだったのは、幼稚園から、お前だよ」
そんな風に囁かれて。固まってしまう。
その時。チャイムが鳴った。
五分休憩は予鈴はないので、これが本鈴。
「やべ。戻ろ、涼」
「う、ん」
トイレのドアを開けた蒼紫について、教室まで急ぐ。
オレ。
幼稚園の途中からしか覚えてないし。
恋愛としては、小五かなあって、思って。
それでも引かれるかなとか、思ってたら。
幼稚園の入園式、って。
――なんかもう。
……蒼紫って。なんだかな……。
――もっと早く好きだって、言えば良かった、なあ。
そしたから、もしかしたら、ずっと、そういう意味で、一緒に居られたかもしれない。
けど。
……でも、オレ達。
女の子とも付き合おうとして。
付き合ってみたりも、して。
それでも……お互い、好きだって思えたから、
良かったのかも、知れない、けど。
でもなー……。
蒼紫と、「飽きるまで」してた女の子が居るっていうのがなー。
……良いなー。とか思って。
……いや、違うだろ。良いな、じゃないよね。
……ていうか。
オレが、これから、蒼紫と。
飽きるまで、するのかな。
……いや、飽きるまでって。
飽きるのはやだな。
いやいや。
……まだ何もしてないのに、飽きるも何も……。
……ってオレ、また授業聞いてないし。
やば。
と思って、上向くと。
蒼紫が、オレを見てることに気付く。
ぷ、と笑われて。指先で、前向け、と言われる。
うんうん、と頷いて、シャーペンを持ち直して。
そこから、頑張って、授業を聞こうと、してはみた。
かろうじて。聞いた、かな。
……聞くだけは。うん。
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