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第1章 同居
◇
しおりを挟むそうと決まったら、とばかりに、連絡先を交換して、その日の内にお互いの親に話した。
家賃も半分になるし、一人暮らしは心配だったけどお友達が一緒なら、と、双方の両親はすぐさま快諾してくれて、あっけなく話が決まった。
お互いの事なんて、ほとんど何も知らない状態で。
たった、いくつかのやりとりしかしてないのに。
こんなんでいいのか位簡単に、同居を決めたのは。
――――…多分、そのわずかなやりとりで。
お互いが、お互いの事を、嫌じゃなかったから。
感覚的な部分で。
お互い、一緒に暮らしてもいいと、思ったからだと、今でも、思ってる。
高校を卒業した3月後半から2人で暮らし始めた。
大学から歩いて20分、電車に乗るなら1駅のマンション。
簡単な同居のルールを、2人で決めた。
料理は蓮、掃除や洗濯はオレ。お互い手伝うし、それ以外の所は、お互い声をかけながら、押し付け合わずに率先してやる。
勝手に人を連れ込まない。ちゃんと確認してからにする事。
それぞれの部屋は、お互いが居ない時には入らない。
ご飯はリビングで一緒に食べる。
もし喧嘩しても、挨拶はする。
最後のルールは、蓮が言った。でも、一度も、喧嘩はしてない。
すごく近いけど、入り込みすぎる事もなく、邪魔にもならない。
でも、側に誰か居てくれる、安心感は半端なくて。
ほとんど知らない奴と同居なんてよくするなー、しかも加瀬みたいな派手な奴と。大変じゃないの? なんて、そんなような事を、高校の友達には散々言われたけど。
感覚を信じて、同居を決めて、ほんと良かった。
一人暮らしをするよりも、よっぽど快適だった。
「樹?」
「え?」
「すごいぼーっとしてる。 話、聞いてた?」
「あ、ごめん」
蓮の作ってくれた朝ご飯を食べながら、ぼんやりしてたオレは、はた、と現実に戻る。
「寝不足?」
「ううん眠くないよ。 卵焼き美味しいなーて、ぼーとしてた」
「はは。それはどーも」
ほんと、ご飯、美味しい。これは嬉しすぎる誤算。
「料理ができる」というのは「普通に作れる」という事なんだと思っていたら、全然、普通のレベルじゃなかった。
……母さんには内緒だけど、母さんよりも美味しかったりする。
食べて、美味しすぎてびっくりする事もある位で。蓮は料理人になるのかな?と思ってたりする。
「ごめん、蓮の話、なんだった? も一回言って?」
「今夜のクラス会、樹行くんだろ?」
「うん、行くよ」
「じゃオレも行こ。 お前が行かないならやめとこーと思ってたんだ」
そんな蓮の言葉に、ちょっと首をかしげる。
「オレ基準じゃなくていいのに。行きたいなら行っていいよ」
「まあそうなんだけど」
「オレ、たまにしか出ないし。蓮は、そういうの好きだよね? オレが行かなくても、気にしないで良いよ」
「……んー、でも、お前のご飯作って一緒に食べたいし」
「――――……」
一瞬、黙った後。
ぷ、と笑ってしまう。
「蓮、オレのお母さん?」
クスクス笑って言うと、蓮も笑って肩を竦める。
「いーんだよ。オレはオレで好きにするから。行きたい時は行くし。樹と居たい時はそーするし」
「でも最近、オレが行かないと、行ってないよね?」
「まあ、最近はそうだったかもだけど」
「無理しなくていいからね?」
「――――……何も無理してねえし」
「なら良いんだけど」
無理して、オレに付き合って、その内嫌んなっても困るし。
「ごちそうさまでした」
手を合わせて言うと、ん、と笑う蓮。
2人で食器を運んで、一緒に並んで洗う。
「蓮のご飯ばっかり食べちゃってるとさ?」
「ん?」
「蓮が居なくなったらどーしよーかなーと思う位、美味しい」
「大丈夫、居なくなんねーから」
そんな答えに、ふ、と笑う。
まあ確かに、4年間は一緒だもんね、きっと。
「樹」
呼ばれて、隣の蓮を振り仰ぐと、不意にキスされて。
流しっぱなしの水の音。
「蓮、水……」
「……ん」
すぐにキスは離れて、洗いものの続き。
キスって。
……蓮にとって、キスって、なんなんだろう。
何も言わず、ただ、触れるだけのキスって、
何の為に、するんだろ。
蓮が何も言わないから。
……オレも何も言わない。
別に気持ちも悪くないし、
嫌だって言うほどの事も無い。
ただ、触れるだけの。
すこし重なるだけの、優しい、キス。
なんだろう。
外国の人がする、家族とかにもする、そんなキス。なのかな。
引っ越しの時に、お互いの家族にも会ったけど――――……。
うーん、純日本人、だったよなあ。
お父さんがめちゃくちゃイケメンで、この血を引いてるんだなーと、ひたすら納得したけど。
「蓮の家系に外人さん、いる?」
「……何その質問。 居ないよ?」
「ふーん……」
「オレ、外人ぽい?」
「いや……何でもない」
クスクス笑ってる蓮。
「なあ、樹、クラス会に行く前さ、時間ある?」
「17時集合だよね。 講義が15時過ぎ迄だから……1時間位なら」
「買い物つきあって」
「ん、いーよ。何買うの?」
「食器見たい」
「あ、うん」
最初は少ししかなかった食器。
料理をいつも作るようになったら、好きな食器を選びたくなったみたいで。少しずつ、一緒に買い集めている。蓮がほんとに気に入ったのだけを買うから、ほんとに少しずつ。
「行く行く。一緒に見たい」
言うと、蓮はふ、と嬉しそうに笑った。
こういう時の蓮の笑い方が、最近、すごく好きだなと思う。
何でするのかよく分からない、キスを除けば。
……ていうか、別に、キス込みでも。
蓮との同居は、いつも穏やかで、楽しくて。
少し前までまったく関わりがなかったのに、すごく不思議だけれど。
ほんと。
一緒に暮らせてよかった。
そんな風に、いつも思ってる。
応援ありがとうございます!
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