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第1章 同居

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 そうと決まったら、とばかりに、連絡先を交換して、その日の内にお互いの親に話した。

 家賃も半分になるし、一人暮らしは心配だったけどお友達が一緒なら、と、双方の両親はすぐさま快諾してくれて、あっけなく話が決まった。


 お互いの事なんて、ほとんど何も知らない状態で。

 たった、いくつかのやりとりしかしてないのに。

 こんなんでいいのか位簡単に、同居を決めたのは。

 ――――…多分、そのわずかなやりとりで。
 お互いが、お互いの事を、嫌じゃなかったから。

 感覚的な部分で。

 お互い、一緒に暮らしてもいいと、思ったからだと、今でも、思ってる。



 高校を卒業した3月後半から2人で暮らし始めた。
 大学から歩いて20分、電車に乗るなら1駅のマンション。


 簡単な同居のルールを、2人で決めた。

 料理は蓮、掃除や洗濯はオレ。お互い手伝うし、それ以外の所は、お互い声をかけながら、押し付け合わずに率先してやる。
 勝手に人を連れ込まない。ちゃんと確認してからにする事。
 それぞれの部屋は、お互いが居ない時には入らない。 
 ご飯はリビングで一緒に食べる。
 もし喧嘩しても、挨拶はする。

 最後のルールは、蓮が言った。でも、一度も、喧嘩はしてない。

 すごく近いけど、入り込みすぎる事もなく、邪魔にもならない。
 でも、側に誰か居てくれる、安心感は半端なくて。

 ほとんど知らない奴と同居なんてよくするなー、しかも加瀬みたいな派手な奴と。大変じゃないの? なんて、そんなような事を、高校の友達には散々言われたけど。

 感覚を信じて、同居を決めて、ほんと良かった。
 一人暮らしをするよりも、よっぽど快適だった。


「樹?」
「え?」

「すごいぼーっとしてる。 話、聞いてた?」
「あ、ごめん」

 蓮の作ってくれた朝ご飯を食べながら、ぼんやりしてたオレは、はた、と現実に戻る。

「寝不足?」
「ううん眠くないよ。 卵焼き美味しいなーて、ぼーとしてた」

「はは。それはどーも」


 ほんと、ご飯、美味しい。これは嬉しすぎる誤算。
 「料理ができる」というのは「普通に作れる」という事なんだと思っていたら、全然、普通のレベルじゃなかった。

 ……母さんには内緒だけど、母さんよりも美味しかったりする。
 食べて、美味しすぎてびっくりする事もある位で。蓮は料理人になるのかな?と思ってたりする。

「ごめん、蓮の話、なんだった? も一回言って?」
「今夜のクラス会、樹行くんだろ?」
「うん、行くよ」
「じゃオレも行こ。 お前が行かないならやめとこーと思ってたんだ」

 そんな蓮の言葉に、ちょっと首をかしげる。

「オレ基準じゃなくていいのに。行きたいなら行っていいよ」
「まあそうなんだけど」

「オレ、たまにしか出ないし。蓮は、そういうの好きだよね? オレが行かなくても、気にしないで良いよ」
「……んー、でも、お前のご飯作って一緒に食べたいし」
「――――……」

 一瞬、黙った後。
 ぷ、と笑ってしまう。

「蓮、オレのお母さん?」

 クスクス笑って言うと、蓮も笑って肩を竦める。

「いーんだよ。オレはオレで好きにするから。行きたい時は行くし。樹と居たい時はそーするし」
「でも最近、オレが行かないと、行ってないよね?」
「まあ、最近はそうだったかもだけど」
「無理しなくていいからね?」
「――――……何も無理してねえし」
「なら良いんだけど」

 無理して、オレに付き合って、その内嫌んなっても困るし。
 
「ごちそうさまでした」

 手を合わせて言うと、ん、と笑う蓮。
 2人で食器を運んで、一緒に並んで洗う。


「蓮のご飯ばっかり食べちゃってるとさ?」
「ん?」

「蓮が居なくなったらどーしよーかなーと思う位、美味しい」
「大丈夫、居なくなんねーから」

 そんな答えに、ふ、と笑う。
 まあ確かに、4年間は一緒だもんね、きっと。


「樹」

 呼ばれて、隣の蓮を振り仰ぐと、不意にキスされて。
 流しっぱなしの水の音。

「蓮、水……」
「……ん」

 すぐにキスは離れて、洗いものの続き。



 キスって。
 ……蓮にとって、キスって、なんなんだろう。


 何も言わず、ただ、触れるだけのキスって、
 何の為に、するんだろ。



 蓮が何も言わないから。
 ……オレも何も言わない。


 別に気持ちも悪くないし、
 嫌だって言うほどの事も無い。

 ただ、触れるだけの。
 すこし重なるだけの、優しい、キス。


 なんだろう。


 外国の人がする、家族とかにもする、そんなキス。なのかな。

 引っ越しの時に、お互いの家族にも会ったけど――――……。
 うーん、純日本人、だったよなあ。

 お父さんがめちゃくちゃイケメンで、この血を引いてるんだなーと、ひたすら納得したけど。


「蓮の家系に外人さん、いる?」
「……何その質問。 居ないよ?」

「ふーん……」
「オレ、外人ぽい?」

「いや……何でもない」

 クスクス笑ってる蓮。



「なあ、樹、クラス会に行く前さ、時間ある?」
「17時集合だよね。 講義が15時過ぎ迄だから……1時間位なら」
「買い物つきあって」
「ん、いーよ。何買うの?」
「食器見たい」
「あ、うん」

 最初は少ししかなかった食器。
 料理をいつも作るようになったら、好きな食器を選びたくなったみたいで。少しずつ、一緒に買い集めている。蓮がほんとに気に入ったのだけを買うから、ほんとに少しずつ。

「行く行く。一緒に見たい」

 言うと、蓮はふ、と嬉しそうに笑った。

 こういう時の蓮の笑い方が、最近、すごく好きだなと思う。


 何でするのかよく分からない、キスを除けば。
 ……ていうか、別に、キス込みでも。

 蓮との同居は、いつも穏やかで、楽しくて。

 少し前までまったく関わりがなかったのに、すごく不思議だけれど。


 ほんと。
 一緒に暮らせてよかった。



 そんな風に、いつも思ってる。




 
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