【キスの意味なんて、知らない】

星井 悠里

文字の大きさ
5 / 78
第1章 同居

しおりを挟む



「ごちそうさまでした!」
「ん」

「美味しかった」

 いつも言ってくれる。
 すごく良い顔で食べてくれる樹が、好きで。

 樹と暮らしてから、格段に料理の腕が上がっているのが自分でも分かる。


「なんか、蓮って、その内、売れっ子のシェフとかになりそう」
「ん、そう?」

「だって、見た目でまず女の子がつくだろうし。しかもこんな美味しかったら、絶対いけると思う」

「じゃあシェフの道も考えとこうかな……」
「シェフになるなら、料理の学校じゃないの?」

「独学でやる」

「そんな甘い世界…じゃないと思うんだけど、なんか、蓮ならできそう」

 クスクス笑いながら、樹が食べ終わった食器を運んでいく。


「片付けするから、蓮、先にお風呂入ってきていーよ」
「良いよ。片付け一緒にやるし」

「でもさ、後で、ドラマ一緒に見たいし。順番に入っちゃった方が良いと思うんだけど」
「……んじゃ、先入ってくる」
「うん。すっごい良い匂いの入浴剤見つけた。置いてあるから」


 笑顔で送り出され。
 バスルームについて、服を脱ぐ。

 脱衣所にはもう、バスタオルが用意されてて。



 なんか。
 樹との生活って。

 快適で、楽しすぎて。


 親にやってもらってた部分を、全部自分たちでやらなければいけないんだから、絶対に多少は面倒な事もあるだろうし、実家が恋しくなったりするのだろうかと思っていたけれど、そんな事は一切ない。


 ローズの入浴剤。
 めちゃくちゃ良い匂い。



「――――……」


 なんだろう。
 まったく無理も遠慮もなく、こんなに、一緒に居て楽しい奴って、居るのか? オレがしてないだけで、もしかして、樹の方が我慢してくれてる事があったりするんだろうか。


 バスルームを出ると、もうすっかり片付けは終わっていて、樹が洗濯物をたたんでいた。

「こっち、蓮の。持ってってね」
「ありがと」

 タオルなどを抱えながら、樹が立ち上がる。

「お風呂入ってきまーす」
 言って、蓮がバスルームに消えていく。


 服を片付けて、ドライヤーで髪を乾かしてから、2人分のコーヒーを淹れている時、樹が戻ってきた。


「良い匂い、コーヒー」
「――――……ん。 髪、乾かすから来な」
「うん」

 リビングの椅子にすとん、と樹が座る。

「――――……」

 ドライヤーを掛けてやるのが最近日課になってる。

 濡れた髪が乾くにつれて、ふわふわした感触に変わっていく。


「お前の髪って、柔らかいよな……」
「え、そう?」


 ふ、と笑いながら、振り返ってくる。


 ……樹の髪に触るのが、好き。柔らかくて。

 そんな風に感じるのは、やっぱりおかしいんだろうか。


「なんか最近いつも乾かしてくれるけど……」
「ん?」

「面倒だったら、自分でやるからね」
「――――……いい。 面倒じゃねえし。てか、されたくなかったら言えよ」

「…人にやってもらうのって、気持ちいいんだな~て、いっつも思ってるよ」

 クスクス笑う、樹。


「オレはすっごくらくちん……」

 言いながらじっとしてる樹。ちょうど乾かし終わった頃。


「ありがと、蓮。 もう時間、ドラマ見よ」
「ん」


 さっき淹れていたコーヒーをソファの前のテーブルに置いて、2人でソファに腰かける。


 樹は、ドラマが好き。
 サスペンス物が好きらしいけど、他のも結構見る。


 オレは、ドラマはそんなに見てこなかった。
 たまに映画を見る位。


 じゃあ何で、今、樹とドラマを見てるか。

 見たドラマの話を、樹がしてるのが面白いから。
 見てなくても話は聞けるけど、見てた方が盛り上がる。

 一緒に見始めたら、意外と面白いのもあって、最近割と楽しみにもしている。



「蓮、これ食べたい」
「チョコアイス?」

「うまそー」

 コマーシャルを見て、明日買いに行こ、なんてウキウキしてる。 
 これだって、一緒にテレビ見てないと、出来ない会話。


 別に無理して見てる訳じゃない。
 樹と、同じ時間、同じものを楽しんで、話したりしたい。



 なんだろう。
 ――――…どうしてオレ、こんなに樹と共有したいかな。


 一緒に暮らし始めて、どんどんその傾向が顕著になっていく。
 何でなのかは、よく分かんねえけど。



「うわー、やな奴ー…」

 ドラマの仇役について、嫌そうに顔をしかめて、呟いてる。
 険しい顔に、ふ、と笑ってしまう。


「樹、コーヒー冷める」

 言いながら渡すと、受け取って、ありがと、と笑う。



「……なあ、蓮さ」
「――――……ん?」

「……オレと暮らしてて、疲れない?」
「……え、お前、疲れてんの?」

 少なからずショックで。ドキドキしながら聞いてみると。
 樹はすぐに、ぶんぶん首を横に振った。


「オレ、すごく楽ちんすぎてさ。 蓮が無理して色々やってくれてるからかなーとか思って。大丈夫?」
「――――……」


 ――――……さっき、まったく同じ事、思ってた。
 

「……快適すぎて困るくらい、快適」
「あ、ほんと?――――……じゃあ良かった。てか、何で困るの?」

 樹はクスクス笑いながら、オレを見つめてくる。


「いや、困んないけど……」


 ――――……この同居をやめる時、困るかなと。
 思ってしまったんだけど。


「無理しないでいこ、まだ4年間始まったばっかりだしさ」
「……そだな」

「やな事あったら早めに言ってよね。オレも言うから」
「ん」


 そこまで言うと、もう樹はすっきりしたみたいで。
 コーヒーを飲みながら、ドラマに入り込んでいる。


 同じ事を考えてて。
 お互いが、快適で居られる事が、なんだかすごく嬉しい。


 ……良かった、樹と同居できて。
 毎日すごく穏やかで、幸せな感じ。



 そんな風に、日々、思ってしまう。



 
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

『定時後の偶然が多すぎる』

こさ
BL
定時後に残業をするたび、 なぜか必ず同じ上司が、同じフロアに残っている。 仕事ができて、無口で、社内でも一目置かれている存在。 必要以上に踏み込まず、距離を保つ人―― それが、彼の上司だった。 ただの偶然。 そう思っていたはずなのに、 声をかけられる回数が増え、 視線が重なる時間が長くなっていく。 「無理はするな」 それだけの言葉に、胸がざわつく理由を、 彼自身はまだ知らない。 これは、 気づかないふりをする上司と、 勘違いだと思い込もうとする部下が、 少しずつ“偶然”を積み重ねていく話。 静かで、逃げ場のない溺愛が、 定時後から始まる。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

処理中です...