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第208話 祈り
颯達が衣装替えで引っ込んだと同時に、モニターの票のグラフは消えた。今はステージが映っているだけ。最終発表まではもう票の動きは分からない。余計にドキドキする。
次は、好きな私服で登場。
フォーマルなスーツから一転。四人とも、それぞれの好みの服で登場した。
雰囲気一変で、皆の歓声が飛んでる。
それぞれ、それなりにカッコいいとは思うのだけれど、やっぱりオレの目には颯しか映らないみたい。
颯は、ブラックのシャツに、グレーパープルのボトムス。シルバーのチェーンのネックレスに、ブレスレット。
サングラス、してきてるしー。
ひゃー、似合うー! カッコいいな。
それから、結婚指輪してるのも、見える。
――外した方が有利かも、なんて言われてたのに。
結局、学祭の時からずーっと、つけててくれて。
……すっごく、好きだなぁ。颯。
今着てる黒のシャツ。形が可愛くて、それ着てると、颯可愛い、って。オレがそう言った服だ。さっきまでスーツだったから、可愛い系のにしたのかな。大正解な気がする。
――分かってる。颯が、オレを好きって、思ってくれてるの。
ちょっと、どうしてだろ? って不思議に思ってるだけ。
颯の視線も、言葉も、全部、好きって言ってくれてるの、分かってるんだ。
歩いてきて、皆の前で、くるんと回転した颯。
サングラスを外して、ニヤ、と笑うその様が。
死ぬほどカッコよくないですか、と思った瞬間、多分、周りも皆そう思ったみたいで。きゃーきゃー悲鳴? 歓声?
すごすぎる……。
ただ颯を見つめながら、もう、じんわりと、ものすごく好きすぎて、目を逸らせずにいるオレに、不意に視線を合わせてきた颯は、片手の親指で、服を指差して、ふ、と微笑んだ。
オレが好きな服。て。言ってるのかな。
ん! と頷くと、颯は笑って、そのまま観客の方に視線を流して、戻っていった。
しばらくしてから、ふと気付く。
「あ、また声出さなかった……」
出さなかったというか、もう出せなかったというべきなのか。
もう、なんなんだ。颯がカッコよすぎて、もう、なんか。
声援を送るのを忘れて、ぽけっとしてしまう。
このまま応援できずに終わってしまいそうな気がする。
――だって、ただただ、目が奪われて。
周りの皆は、声出して応援してるのに。肝心のオレが……肝心のって良く分かんないけど、とにかく、推薦もしたのに。一番応援してるのに。
オレ、全然声出せてない。
「次が最後っぽいから――ちゃんと、声出せよ?」
「え、もう最後」
「らしい。思ってること、思い切り、叫んどけ」
昴がそう言うので、オレはもう、うん! と思い切り頷いた。
思ってること。……思ってることか。
颯、頑張れ! 颯カッコいい! とかかな。
皆も同じように声出してる。
名前呼ぶだけでも、もしかしたら動画に聞こえて、見てる人に届くかもしれない。
そんな風に考えた時。ふと、思った。
やっぱり、結婚してるって言わない方が良かったのかもしれないなあって。
颯を知らない人から見たら――アイドルとかに彼女が居ない方がいいっていうのと一緒だよね。
颯の気持ちは、嬉しかったけど。オレが遠慮したほうが良かったのかな。――結婚してるから余計応援させる、とか言ってたけど、そんなの、普通に考えて、難しすぎるよね。
結婚とか関係ない感じで、颯だけを見て貰って、カッコいいかってことなら、颯が負ける筈、ないと思う。
最初の、事前投票はびっくりしたけど――やっぱり、その後の票の伸び方は颯が一番。なのに、今、追いこせてないのは、さっき、結婚したとか言っちゃったからじゃないのかなぁ。司会者の人にも、それはあえて言わないようにって言っとくことだって、出来ただろうし。颯の指輪も外せば良かったし。
やっぱりオレが、「気にしないから外して、コンテスト頑張って」って、言ってあげれば良かったのかも。今更言ってもしょうがないけど。
それで颯が負けちゃったら、ずっとオレ、後悔しそう。
むむむ、と自然と眉が寄ってく。
――でも、やっぱり。前に戻った颯は、カッコよくて。
ていうか、あの人が負ける訳ない、とか。また思ったりして。
オレの感情が、あちこちに飛んで忙し過ぎて。
ああもう、なんでもいいから、颯に花束渡せますように……!!
手を握って、ぎゅうう、と。祈っていたら、
なんか早くも祈ってる、と皆に笑われた。
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