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第16話 いくつかの間違い
しおりを挟む高校、蒼真と遥香と一緒に受かって、楽しい日々になると思ったら。ちょっと違った。
学校に慣れてきた頃、私と蒼真が仲が良いと分かると、また中学の時と同じような空気になった。
「これ蒼真くんに渡してくれる?」
また女の子から渡されるようになった封筒や、プレゼント。
蒼真に手渡すと、いつもちょっと嫌そうな顔をした。
「なんでオレに直接じゃなくて、彩葉に渡すんだろうな」
直接だと、蒼真が受け取らないからかな。とりあえず、受け取ってほしいんだろうな。
皆、必死なんだろうなと思う。
でも、渡したあと、蒼真の横顔はいつも、どこか不機嫌だった。
私が断れば、そんな顔させなくていいんだろうか。
そう思ったのが、いけなかったのかもしれない。
その後、私は、頑張って断ることにした。「自分で渡した方がいいよ」って。
そしたらやっぱり蒼真は、自分に渡されると、その場で断ってたみたいで。
いつからか「幼馴染だからって調子に乗ってる」みたいなことを、私が言われるようになったのは、知っていた。
中学の時と違ったのは、幼稚園や小学生の頃からの私たちを、知っている人がいなかったからかもしれない。
「なんであんなに一緒にいるの?」――そう思われていたみたいだった。
その内、ノートに落書きされるとか、物が隠されるとか。そういうことがしばらく続いた。
遥香がいつも側にいてくれたから、一人にはならなかったし、多分やってるのは、一部の子たちだって分かってたから、蒼真には言わずに我慢、してた。
ノートとか消しゴムとかを買うことが増えて、お母さんに気づかれて、私、嘘がつけなかった。
「悪戯だと思う。そのうち無くなるだろうから、騒ぎにはしたくない。大丈夫」と、伝えた。
そしたら、たぶん、お母さんなりに、誰かに聞いてほしかったんだと思う。
私が先生にも話さないって言ってるから、きっと心配で。
親友の、蒼真のお母さんに話したんだと思う。きっと悪気なんてなかった。
蒼真のお母さんが、「彩葉ちゃんのこと、知ってる?」って、蒼真に聞いたのも、心配してくれたからだと思う。
でも――私には、それが一番困ることだった。
突然、教室に入ってきた蒼真が、私のノートを見て、めちゃくちゃ怒った顔をした。
蒼真は知ってたみたい。私に対して感じが良くない子たちのこと。
気になっていたみたい。
皆の前では怒らなかったけど、蒼真はその子たちを呼び出して、どういうことかって聞いたらしい。
そしたら、蒼真のこと、好きだった子が泣きだして、なんだか大騒ぎになっちゃって――。私は、大騒ぎになった後に、そのことを知った。
その子があんまりに泣くから。事情を詳しく言わなかった蒼真が、悪者みたいになっちゃって。
でもそれは結局、蒼真のことだから何か事情があったんだろう、てことになってはいた。……だけど。
なんだかもう……すごく辛かった。私のせいでって、思っていた。
結局、蒼真に迷惑かけちゃって落ち込んでいたら、遥香が、遊びに行こうよ、と誘ってくれた。
クラスで仲良かった子たちと一緒に、グループで遊びに行ったりした。そしたら、少しして、その中でわりと話しやすかった男の子、飯田くんに告白された。
最初は友達からでいいから、って言われて、初めてのことに驚いて。
どうしよう、蒼真に相談しなきゃと、そう思った。
だけど。
私がちゃんとできなかったから。うまく断れなかったから。
蒼真に迷惑かけちゃって。いつも、いろいろ任せてばかりで。
そっか。
蒼真と仲良くいるためには、少し距離を置いたらいいのかもしれない。
私が誰かと仲良くしてたら、きっともう、変な噂も立たない。
そしたら、いままでみたいなことも、おきない。
そうしたら、蒼真にも心配かけなくて済むし、
私たち、前みたいに、笑っていられるかもしれない。
あの頃の私は――蒼真への想いを、まだ恋とは認識できてなくて。
ただただ、仲良くいられるには、どうしたらいいんだろうって思って。
他の人と仲いいってことになったら、まわりも静かになるんじゃないかって。
そんな風に想った、バカな高校生の私は、「友達からで、いいなら」と、返事をした。
友達からでいいなら。
その言葉を、その言葉のまま、その時は、受け取っていた。
後悔したのは、帰って、窓を開けて、
蒼真が「おかえり」と言ってくれた時だった。
あれ。――なんか私、間違えてる……?
飯田くんとの会話を、蒼真に報告したくないと――感じた時。
不意に、そう思った。
「あの……蒼真、私」
「ん? あ、ごめん、ちょっと待って。電話鳴ってる」
言いかけた私を遮って、蒼真が電話に出た。
少しの間、話してから――無表情で戻ってきた。
なんだろう。なんだか嫌な、感じ。私が首を傾げた時、蒼真がゆっくりと言った。
「彩葉、彼氏できたって、ほんと?」
血の気が引いた。
彼氏じゃない。友達からって……それ、彼氏って言うのかな。
「あ、の」
違うの。やっぱり、違うって、思ったの。
明日、断ってくるから。そう思って、言おうとした時。
「良かったな。初彼氏じゃん。飯田と、仲良かったもんな?」
そう言われて、何も言えなくなった。
その夜、バカみたいに、一人で泣いて。
ほんと、私は、あの頃――なにも分かっていなかった。
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