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第20話 書き出した言葉
しおりを挟むボールペン、一度も使ってないのだけど、書けるんだろうか。
テーブルにあった新聞を引き寄せて、くるくるなぞってみる。何周かめで、黒いインクが出た。
あ。大丈夫だった。――書きやすい。
なんだか嬉しくて、ふ、と微笑んでしまう。
手帳のフリーページを開いて、少しの間、考える。
何を書こうと思ったわけじゃないんだよね。何を書こう。
ボールペンを握って、書き始める位置に近づけて止まったまま、左手で頬杖をついた。
んー。……蒼真に会ったら、言いたいこと。
「――」
迷惑かけて、ごめんね。
いやな言い方して、ごめんね。
連絡しなくて、ごめんね。
会いに行かなくて、ごめんね。
って――ごめんしか出てこない。これはまずいな、私。
思わず頭をブルブル振ってしまった。
それが一番言いたいのかって。
なんか、違う気がする。
握ったボールペンをふと、見つめる。
パルホワイトに、ピンクゴールドのライン。……すごく、可愛い。
――頑張れって言って渡してくれたのに、一度も使えなかったな。
「――」
少し考えて、それから、丁寧に丁寧に、文字を連ねた。
カチ、と小気味の良い音とともに、ボールペンの芯を引っ込めて、手帳を立てて置いてみた。
今書いたばかりの、「ありがとう」という文字を、じっと見つめる。
なんだか、ほっとして、心の奥があたたかい気がする。
ありがとう。
優しくしてくれて、守ってくれて。側にいてくれて。
蒼真がいてくれたから、ずっと、楽しかった。
あの時から、一緒にいられなくなってしまったけど。
蒼真は何も悪くなかった。
――やっぱり、ごめんね、もかな。
苦笑してしまいながら、ふー、と息をついた。
私がこれからしないといけないことは、なんだろう。
もう一度、ボールペンをカチ、と出した。
みとめること。
いままでのことを、もう後悔で埋めないこと。
逃げないこと。
これからを、ちゃんと前を向いていくために、
吹っ切ること。
今度は思いつくまま、サラサラと書いていく。
最後に「告白すること」と書こうとして、手を止めた。
今更なことに、ふと、気付く。
私は――今も蒼真のことが、好きなんだろうか。
ずっと会ってない。話してもない。記憶の中の蒼真だけを、忘れずに来てしまった。
昔の蒼真は好きだった。過去に知り合った人たちの中で、一番、大好きだった。
でも、今の私は、今の蒼真を知りもしない。
社会人になって働いてる蒼真。大人の蒼真は、見たことがない。
それで、今も好きなんて。無いよね。
今も好きなんて言ったって、蒼真は信じないだろうし。私だって、違う気がする。
ということは。
私が蒼真に言って、けりをつけるのは、やっぱり、昔の想いか。
「あの頃好きだった」って話して、避けてしまった理由も話して、謝りたいな。
もう今の蒼真がそんなの全然気にしてなかったら、話せないかなあ。
というか、同窓会じゃ、そんなこと、話せないよね。二人になれる時間なんて、あるかしら。
うーん……。どうなんだろう。
とりあえず、行ってみないと分からないか。
よし、あと少し。運動とエステ。あと、美容院も行こう。
会わないでいる間に、綺麗になった、て、少しでも思ってもらいたい。
……少しだけで、いいから。
手帳を閉じて立ち上がり、ベランダに続く窓のカーテンを開ける。
鍵を外して、窓を開くと、ぼんやり明るい夜空を見上げた。
風がさぁっと流れ込んできた。
すう、と息を吸って――思った。
頑張ろう。
◇ ◇ ◇ ◇
読んでくださってありがとうございます。
今日もまた18時の1分前までボーナスタイム中。
15倍だって(笑)
読み読みしていだたけると嬉しいです🩷
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