「四半世紀の恋に、今夜決着を」

星井 悠里

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第23話 予定外

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 一日、そわそわしながら働いて、もう少しで定時になる。
 でも明日と月曜、お休みだから、もう少しやってから帰ろう、なんて思っていた時だった。

「――えっ、土曜の午前に変更ですか?」

 デスクの電話に出た愛梨さんの声が、高くなった。
 すぐにメモを取りながら、何度か頷いている。

「はい……はい。承知しました。ただ、田口さんは昨日から、高熱らしくてお休みで……はい。あ、ですが、木内先輩も、明日からお休みをとっていて――私でよければ……」

 そんな話に、なんだかとても嫌な予感がする。
 少し話した後、愛梨さんは、申し訳なさそうに振り向いて、電話を保留にした。

「先輩、桜木さんからなんですが、来週の予定だったA社との会議が、あちらの都合で土曜の午前に前倒しになったそうです。しかも、A社の担当が田口さんで今お休み中だから、桜木さんから、できたら木内さんにって……」

 ものすごく嫌そうに言う愛梨さんに、さすがにちょっと、真顔になってしまう。

 田口さんに担当を引き継いだのは私で、しかも、今回の資料も途中まで手伝っていた。まだ終わってなかったのか……って本当は来週だったんだもんね。
 田口さんは昨日から休んでるし……。

 一瞬でそこまで考える。
 ――ああ、そうなると……。

「電話、出るね」
「すみません」
「お電話替わりました、木内です」
『ああ、木内さん。桜木です』

 しばらく話を聞いた結果。もう、なんだかんだ言っても仕方がないことを悟った。

「分かりました。資料の作成は明日までに終わらせます。土曜も同行したほうがよろしいですか?」
『頼めるかい? 外せない用事なら――』
「午前中で終わって、新幹線に乗れれば間に合うと思います。大丈夫です」
『助かるよ』
「資料が出来たら、またご連絡しますね」

 そう言って、電話を切ると、愛梨さんが、泣きそうな顔で私を見ていた。

「先輩~~……!!」
「あー……うん。しょうがないよね」
「でも~~!」

 私よりよっぽど嫌そうで泣きそうな顔をしている愛梨さんに、苦笑してしまう。
 私のかわりに嫌がってくれているおかげで、少し冷静にいられる。

「A社の社長さん、気難しい人だから、慣れてる人の方が、絶対いいんだよね。あと、今回の資料も、途中まで一緒にやってたから。もう私がやるしかないでしょ」
「でも先輩……」
「大丈夫、同窓会は土曜の夕方だから。休みを月曜と火曜に変更するね」
「……私も、いろいろ手伝います」
「うん、ありがとね。でもどうせ、土曜の午前中まで拘束されるから……明日には終わらせるから。愛梨さんは自分の仕事、終わらせていいよ」

 普通の顔でそう言いながら、自分の心の中のトーンだけが、どんどん沈んでいくのが分かる。


 ――間に合うかな。午前中でほんとに終われば間に合うけど。

 あの会社の社長さん。たまに厄介だからなぁ……。途中で帰ったら、怒る……というか、すねるかも。
 気に入ってくれてるみたいで、普段はいいんだけど、今回は……困ったな。

 心の中で、ちょっとため息をついてしまう。


 しばらく仕事をしながら、どんどんテンションが下がっていく。
 ほんと、なんでこうなるんだろう。

 ……お昼までに終わらなかったら新幹線の時間次第では、間に合わない。
 ――蒼真に、会えないかも、しれない。


 突き刺すみたいに、胸が痛む。
 キーを打ってた手が、ふと止まった。


 一度、静かに、深呼吸。


 ――ちがう。
 運命とか。
 そんなのは、関係ない。

 ――とにかく、遥香にも、聞いてみよう。

 もしほんとに間に合わなくなっても、二次会とかあれば行けるかもだし。


 このまま会えないで終わるなんて、絶対嫌だ。


 逃げてばかりいた、あの頃の自分とは、変わらなきゃ。
 ちゃんと、決着をつけて、前に進むために。頑張らなきゃ。


 土曜のランチも行けなくなっちゃったし。
 あとで遥香に電話しなきゃ。

 そう決めて、仕事に戻った。
 
 




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