24 / 36
第23話 予定外
しおりを挟む一日、そわそわしながら働いて、もう少しで定時になる。
でも明日と月曜、お休みだから、もう少しやってから帰ろう、なんて思っていた時だった。
「――えっ、土曜の午前に変更ですか?」
デスクの電話に出た愛梨さんの声が、高くなった。
すぐにメモを取りながら、何度か頷いている。
「はい……はい。承知しました。ただ、田口さんは昨日から、高熱らしくてお休みで……はい。あ、ですが、木内先輩も、明日からお休みをとっていて――私でよければ……」
そんな話に、なんだかとても嫌な予感がする。
少し話した後、愛梨さんは、申し訳なさそうに振り向いて、電話を保留にした。
「先輩、桜木さんからなんですが、来週の予定だったA社との会議が、あちらの都合で土曜の午前に前倒しになったそうです。しかも、A社の担当が田口さんで今お休み中だから、桜木さんから、できたら木内さんにって……」
ものすごく嫌そうに言う愛梨さんに、さすがにちょっと、真顔になってしまう。
田口さんに担当を引き継いだのは私で、しかも、今回の資料も途中まで手伝っていた。まだ終わってなかったのか……って本当は来週だったんだもんね。
田口さんは昨日から休んでるし……。
一瞬でそこまで考える。
――ああ、そうなると……。
「電話、出るね」
「すみません」
「お電話替わりました、木内です」
『ああ、木内さん。桜木です』
しばらく話を聞いた結果。もう、なんだかんだ言っても仕方がないことを悟った。
「分かりました。資料の作成は明日までに終わらせます。土曜も同行したほうがよろしいですか?」
『頼めるかい? 外せない用事なら――』
「午前中で終わって、新幹線に乗れれば間に合うと思います。大丈夫です」
『助かるよ』
「資料が出来たら、またご連絡しますね」
そう言って、電話を切ると、愛梨さんが、泣きそうな顔で私を見ていた。
「先輩~~……!!」
「あー……うん。しょうがないよね」
「でも~~!」
私よりよっぽど嫌そうで泣きそうな顔をしている愛梨さんに、苦笑してしまう。
私のかわりに嫌がってくれているおかげで、少し冷静にいられる。
「A社の社長さん、気難しい人だから、慣れてる人の方が、絶対いいんだよね。あと、今回の資料も、途中まで一緒にやってたから。もう私がやるしかないでしょ」
「でも先輩……」
「大丈夫、同窓会は土曜の夕方だから。休みを月曜と火曜に変更するね」
「……私も、いろいろ手伝います」
「うん、ありがとね。でもどうせ、土曜の午前中まで拘束されるから……明日には終わらせるから。愛梨さんは自分の仕事、終わらせていいよ」
普通の顔でそう言いながら、自分の心の中のトーンだけが、どんどん沈んでいくのが分かる。
――間に合うかな。午前中でほんとに終われば間に合うけど。
あの会社の社長さん。たまに厄介だからなぁ……。途中で帰ったら、怒る……というか、すねるかも。
気に入ってくれてるみたいで、普段はいいんだけど、今回は……困ったな。
心の中で、ちょっとため息をついてしまう。
しばらく仕事をしながら、どんどんテンションが下がっていく。
ほんと、なんでこうなるんだろう。
……お昼までに終わらなかったら新幹線の時間次第では、間に合わない。
――蒼真に、会えないかも、しれない。
突き刺すみたいに、胸が痛む。
キーを打ってた手が、ふと止まった。
一度、静かに、深呼吸。
――ちがう。
運命とか。
そんなのは、関係ない。
――とにかく、遥香にも、聞いてみよう。
もしほんとに間に合わなくなっても、二次会とかあれば行けるかもだし。
このまま会えないで終わるなんて、絶対嫌だ。
逃げてばかりいた、あの頃の自分とは、変わらなきゃ。
ちゃんと、決着をつけて、前に進むために。頑張らなきゃ。
土曜のランチも行けなくなっちゃったし。
あとで遥香に電話しなきゃ。
そう決めて、仕事に戻った。
181
あなたにおすすめの小説
両片思いの幼馴染
kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。
くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。
めちゃくちゃハッピーエンドです。
好きな人の好きな人
ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。"
初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。
恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。
そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。
先輩のことが好きなのに、
未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。
何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?
切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。
《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。
要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。
陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。
夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。
5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。
✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
☘ 注意する都度何もない考え過ぎだと言い張る夫、なのに結局薬局疚しさ満杯だったじゃんか~ Bakayarou-
設楽理沙
ライト文芸
☘ 2025.12.18 文字数 70,089 累計ポイント 677,945 pt
夫が同じ社内の女性と度々仕事絡みで一緒に外回りや
出張に行くようになって……あまりいい気はしないから
やめてほしいってお願いしたのに、何度も……。❀
気にし過ぎだと一笑に伏された。
それなのに蓋を開けてみれば、何のことはない
言わんこっちゃないという結果になっていて
私は逃走したよ……。
あぁ~あたし、どうなっちゃうのかしらン?
ぜんぜん明るい未来が見えないよ。。・゜・(ノε`)・゜・。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
初回公開日時 2019.01.25 22:29
初回完結日時 2019.08.16 21:21
再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結
❦イラストは有償画像になります。
2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載
思わせぶりには騙されない。
ぽぽ
恋愛
「もう好きなのやめる」
恋愛経験ゼロの地味な女、小森陸。
そんな陸と仲良くなったのは、社内でも圧倒的人気を誇る“思わせぶりな男”加藤隼人。
加藤に片思いをするが、自分には脈が一切ないことを知った陸は、恋心を手放す決意をする。
自分磨きを始め、新しい恋を探し始めたそのとき、自分に興味ないと思っていた後輩から距離を縮められ…
毎週金曜日の夜に更新します。その他の曜日は不定期です。
【書籍化決定】憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜
降魔 鬼灯
恋愛
コミカライズ化決定しました。
ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。
幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。
月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。
お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。
しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。
よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう!
誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は?
全十話。一日2回更新
7月31日完結予定
【完結】それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。
するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。
だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。
過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。
ところが、ひょんなことから再会してしまう。
しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。
「今度は、もう離さないから」
「お願いだから、僕にもう近づかないで…」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる