「四半世紀の恋に、今夜決着を」

星井 悠里

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第24話 口にした想い

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 帰宅してお風呂を済ませてから、スマホを手に取った。
 「電話で話したいから大丈夫な時に連絡して」と遥香に送ると、すぐに着信があった。

「あ、もしもし」
『彩葉? ちょうどスマホ見てたから……どうかした?』

 遥香の声は、やっぱりホッとする。
 今日あったことをそのまま話すと、途中から「えええー」を連発していた遥香は、最後には「もー」と声を上げた。

『彩葉、めったにお休み取らないんじゃないのー? ひどい~!』
「え」
『ん?』
「どうしてめったに取らないって……」

 言ってないのに、と思っていると、遥香はくすくす笑った。

『分かるよ~彩葉っぽいもん』
「……うん。まあ」

 苦笑しながら頷くと、やっぱり、と言って遥香は笑う。

「だから、ランチは無理になっちゃって……ごめんね」
「いいよ、しょうがないし。――ていうか、同窓会は間に合うんだよね? お昼までなら」
「うん……午前中に終われば間に合うんだけど、相手の社長さんがちょっと難しい人で」
『えええ……』
「新幹線の時間によっては、ギリギリになっちゃうかも。行けないってことはないと思うんだけど」
『そんなぁ……』

 愛梨さんと同じように、遥香も私の分まで嫌がっていてくれる。そういう優しさって、なんだか嬉しい。

『でもさ、二十時までだから、終わるまでには来れるよ?』
「うん、でも昼食取る流れになると、時間がね」
『そっか……』
「あのね、遥香。二次会とかって、考えてる?」
「まだなの。二次会は、行ける人でお店取ろうって話になってる」
『だよね……」

 私は、少し間を置いてから、思い切って口を開いた。

「遥香、あのね――私……蒼真と話したいことがあって」
『――え。そう、なの?』
「うん。もしギリギリになったりするなら、二次会とか、もしできそうならと思って……」

 遥香が全然返事がない。
 あれ? と思って、一度スマホを耳から離した。表示されている通話時間の数字だけが増えていく。
 繋がってるよね? そう思った瞬間。

『分かった!』

 急に大きな遥香の声。
 ……耳、外しててよかった、と思いながら。

「遥香?」
『うんうん、分かったよー、蒼真くんと話したいんだね。了解』

 なんだかとってもウキウキ楽しそう。

「え、あの、遥香」
『うん?』
「あの……少し、話せたら、いいな、くらいだからね?」

 遥香のご機嫌な感じの声に、なんだかすごく、焦る。

『うんうん、オッケー。分かってるよ~!』
「……えっと。遥香? 何を、話すって思ってる?」
『えーと。なんだろう。特に何をとは思ってないけど。でもね――彩葉と蒼真くんが仲良いの、私はとっても好きだったから。彩葉が話そうと思うなら、蒼真くんは、絶対話すと思うよ』

 ――何の根拠があって、絶対って言うんだろ。

 彩葉には言ってない。というか、誰にも言えてない。
 あの窓を閉じて、開けなくなった、頑なな私のこと。

 あのこと、蒼真がどう思ってるのかも分からないのに。話してくれるかもまだ分からない。


「あのね、遥香。蒼真には、何も言わなくていいからね?」
『……うん。分かってるよ』


 遥香は、急に落ち着いたトーンで、そう言った。


『彩葉が、蒼真くんから離れてって……それ以来でしょ?』

 そんなセリフに、返す言葉が見つからず、少し黙ると。

『ちゃんと話せたら、いいね』

 静かに言う遥香の声。
 きっと、優しく、ふわふわ笑ってるんだろうなあと、想像がつく。なんだか目頭がすこし熱くなる。

「うん」

 素直に頷いて、瞳を伏せた。


『彩葉の仕事が終わったら連絡して? 時間次第でその後のことも、蒼真くんと相談してみる』
「うん。お昼に終われば間に合うから」
『待ってるよ。先生も来てくれるって』
「ほんと? 楽しみ。変わってないかな」
『話した感じは、変わってなかったよ』
「そっか。中学卒業からだと、十年ぶりだもんね。早いね、十年……」


 特に、上京してからの七年は、あっという間だった。
 すべてを置いて、こっちに来たんだから、精一杯頑張らなきゃいけないって。
 追われるように、頑張ってた気がする。


『明後日、会えるの楽しみにしてるね。』
「うん。ありがと、遥香」


 遥香との通話を切ると、部屋がふっと静かになった。



 蒼真と話したい。
 口にしたことで――ただそれだけで、ドキドキした。


 会ったらどうなっちゃうんだろ。


 んー……。
 ……あんまりカッコよくなりすぎてないと、いいな。

 また同窓会で、モテちゃったりしてたら。
 そこまで咄嗟に考えて、ふ、と苦笑いが浮かんだ。


 中高生の時のままみたい。
 何、今の、私ってば……しょうがないな。


 スマホを置いてから、窓際に立って、カーテンを開く。
 シャッ、と静かな音がした。

 外は真っ暗。
 空に、ぼんやりと滲むお月様が浮かんでいる。


 明後日の夜。
 蒼真と、話せたらいいな。
 
 七年前の夏を、
 これ以上、閉じ込めたままにしないように。

 祈るような気持ちで、ぼんやりなお月様を見つめていた。






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