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第27話 心の準備
しおりを挟む新幹線はトンネルの中に入った。
急に窓の外が真っ暗になって、窓に自分の姿が鏡みたいに映った。
なんだか緊張した顔をしてる。
両頬を手で挟んで、ぎゅーと目をつぶる。頬を軽く叩いて、気合を入れる。
三か月前に比べたら、引き締まったとは思う。姿勢も良くなった。
姿勢って大事だよね。デスクワークも多いから、どうしても前かがみになっちゃってたけど。
そこらへんは、筋トレやストレッチも有効だった。
……とりあえず、良かった、頑張って。
今まで生きてきた中で、いちばん、まっすぐ綺麗に立てる気がする。
ドキドキする。
七年も、逃げて、会わなかったのに。
いまさらこんなにドキドキしてるなんておかしいな。
私がこんなに蒼真のことでドキドキしてるなんて、
絶対蒼真は知らない。考えもしてないし。
逃げて会わなかったことも、蒼真は気にしてもいないかも。
幼馴染が大人になってく途中で離れたってだけ。特に男女の幼なじみだし。普通のことだもんね。
私が勢いつけて話しに行っても、蒼真的には、どうした? ってなる可能性も普通にあるかも。
……でも、もう逃げないって決めたんだから。
とりあえず、蒼真と二人で話せるように頑張ろう。
同窓会の間は、二人は無理な気がするから……終わった後、どうにか誘わないとなぁ……。
新幹線が速度を落とし始める。
アナウンスが流れる。よかった、予定通りの到着。
蒼真と、同じ街に戻ってきた。そう思うだけで、そわそわして落ち着かない。
……うわわ。まずい。ほんとにドキドキしてきちゃった。
新幹線を下りて、乗り換えた電車のドアの端に立ち、流れていく外の景色を眺める。
……そういえば今回って、学年全部とかでなくて、中学の三年の一クラスだけなのに、ホテルでちゃんとするんだなぁ。
中学に近い地元の飲み屋で、とかありそうなのに。
昔から結構地元で有名なホテルで、結婚式とかをするホテル。
遥香がここで結婚式したから、決まったのかもしれない。
私もいつかここで……と思ってたけど、まだまだ道のりは、遠そうだから。
こんな機会で、また中に入れるの嬉しいな。
まだ高校の同窓会もないし、同窓会自体、出るのは初めて。
卒業以来の人たちも結構いるから……ほんと男子なんて分かんないかも。
女子は結構覚えてるけど、メイクで分かんなかったりするかな。
……名前、覚えてるかも不安になってきた。
そうだ、昨日実家に帰れたら、卒業アルバム見ておこうと思ってたのに。
……まあ、笑顔で乗り切ろう。
うん。今日のミッションは、蒼真と話すことだし。
んん。ちょっとまって、さすがに、蒼真のことは、分かるよね、私。
全然分かんない感じに変わっちゃってる可能性も……無いこともない、のか。
もし会っても、誰?っていうくらい変わってて、結局話もしないで帰ったら。
愛梨さんには爆笑されそうな気がする……。
いや。そんなはずない。大丈夫。
……って何が大丈夫? と自分に突っ込みながら、降りる駅名がアナウンスされたのを聞いた。
とにかく頑張ろ、と何回目だろうという気合を入れて電車を降りて、エスカレーターで上る。
ボストンバッグを腕にかけなおして、改札を出た。
南口を出て、左。看板を見つけて、歩きだそうとしたその時。
視界の端に、流れから外れて、ひとりだけ立ち止まっている影があった。
ふ、と何気なく視線を向けた。
その瞬間、周りの音が、消えた。
この場所だけ空気が止まっているみたいだった。
え。――うそ。
足が止まる。
その人は私に気づいて、歩き出した。
近づいてくる。
「彩葉」
呼ばれて胸が跳ねた。体が、勝手に震えて、固まった。
一瞬で、分かった。
昔のままの、呼び方。
忘れたくても忘れられなかった、声。
――蒼真だ。
待って。
心の準備、まだ――。
逃げたい気持ちになりながらも、足がすくんで動けない。
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