「四半世紀の恋に、今夜決着を」

星井 悠里

文字の大きさ
29 / 36

第28話 胸の温度

しおりを挟む


 

 ドレスは、白地に小さな花柄が散ったワンピース。肩が少しだけ出るデザイン。
 動くと、薄い生地の細いフリルが軽く揺れる。
 派手じゃないけど、ちゃんと綺麗に見える服。

 買い物は、愛梨さんがついてきてくれたのだけど、決めるのが大変だったのを思い出す。
 愛梨さんは結構派手で可愛いとか綺麗を攻める目立つ服を選びたいみたいで、私が選ぶ服がシンプル過ぎて、
 二人で選ぶ服が真逆すぎて、面白かった。
 この服は、やっと、二人で納得した服。思い出すと微笑んでしまう。

 アクセサリーは細いゴールドのネックレス。胸元で小さく光るくらい。手首には、細いバングル。
 小さなピアスは、丸くて淡いゴールド。澄んだ薄いピンクのストーンが入っている。光があたってきらっとするのが好き。
 最後に、髪を梳かして、毛先に少しだけヘアオイルを馴染ませる。つけすぎないように気をつけつつ手ぐしで整えた。光が当たると、つるんとまとまって綺麗に見える。
 靴は少しだけヒール白いサンダル。
 淡いベージュの小さめのバッグに必要なものだけ詰め込んで、脱いだものは全部ボストンバッグに詰め込んだ。

 全部揃えて、鏡に映すと、ちょっとだけ背筋が伸びる。
 いつもよりだいぶ、特別な感じ。綺麗に見える気がして、それが少しだけ心強かった。

 たぶん今の私の精一杯の「綺麗」だ。

 さっきの仕事スーツも、見られちゃったけど。あれはあれで普段の私だから。
 ……それを、カッコいいって言ってくれた蒼真。
 外見は大人になっちゃってたけど……変わってなくて、嬉しかったな。

 クロークに荷物を預けて番号札をバッグにしまい、エレベーターで二階に上った。
 降りると、案内表示があって、同窓会の場所はすぐ分かった。

 ドアは開け放してあって、一歩中に入ると、ざわめきと笑い声が、一気に押し寄せてきた。

 キラキラした装飾のついた灯りが眩しい。天井が高い、ホテル特有の雰囲気。
 皆知ってる、懐かしい顔のはずなのだけれど、誰が誰だか、すぐには分からなかった。
 もうすっかり人が揃っていて、あたこちで塊になって話してる。

 うわ……ドキドキする。どうしよう。

「彩葉」

 声をかけてきてくれたのは、遥香だった。端っこで、受付をしていた。
 そっか、受付でお金も払うんだった。バッグを開けながら、遥香に近づく。遥香はテーブルに置いていた紙に、くるっと丸をしながら私を見つめた。

「彩葉で最後! よかった、間に合って」
「うん。いろいろありがと。あ、会費。お願いします」
「はーい」

 袋に入れてきたのを遥香に渡すと、中を確認して「確かに」と微笑んだ。

「彩葉のドレス、可愛い~!」
「ありがと。遥香も可愛いよ~水色、似合う」
「うふふ~旦那が選んでくれました~」
「さすが。似合うの分かってるね」

 髪もふわふわ柔らかい、可愛らしい遥香にぴったりの、優しい水色のふわふわワンピース。

「ちょっと久しぶりだね、彩葉」
「うん」
 二人で、うふふ、とひとしきり笑ってから、遥香が時計を見た。

「ごめん、ちょっと待ってね」
 私はそう言ってから、遥香は近くにいたホテルの人を呼んだ。

「すみません、もう受付終わりました」
 ホテルの人が笑顔で近づいてきて、遥香が差し出した封筒を受け取った。慣れた手つきで金額を確認しているとそこに蒼真がやってきた。

 どき、と心臓が弾んで――そっと蒼真のほうを見ると。
 蒼真も私を見て、ちょっと目を大きくした。

「――あ。……えっと」

 蒼真は、手の甲を口元にあてて少しそっぽを向いた。

 ――? 目。逸らされた……?

 たかがそんなことで、どうしようもなく、胸が痛む。
 私もつい目線をそらしてしまった時、遥香が蒼真に言った。

「今、受付終わったから、お金を確認してもらってるから」
「あ、ああ。ありがとう――受付も、ありがとうね」
「ううん。私、準備は何もしてないし」
「そんなこと無いよ。いろいろ助かった」

 そんなやり取りを二人がしていると、ホテルの人が言った。

「確かに、お預かりします」
 そう言って、領収証を差し出した。その人が声をかけた二人が、受付のテーブルを会場の外に持ちだしていく。

「あっ 私のバッグ! テーブルの下に置いちゃってた」
 突然遥香が言って、早歩きでテーブルを追いかけていった。不意に蒼真とふたりきり。
 なんだか……気まずい。どうしよう。と思った時。

「……さっきと……」

 蒼真が、ぽそっと呟いた。

「え?」
 ズキズキ胸が痛いままだった私は、ふ、と蒼真を見上げた。
 ぽり、と頭を掻く仕草。

「さっきとだいぶ違くてびっくりした。――似合う、その服」
「……っ」

 一瞬なんて返したらいいか分からなかった。さっきの気まずかったのは、びっくりしたから、だったのかなと分かって。
 かぁ、と顔が熱くなった。

「……そ……蒼真も。似合ってる、よ」
「――そう?」

 なんとか言った言葉に、蒼真は嬉しそうに笑った。

「今日の為に、気合入れたから。――よかった」

 あの頃、そのままみたいに、明るい、笑顔。
 今度は少し違う意味で、ぎゅうっと胸が締め付けられた。

「あーびっくりした」

 遥香がバッグを取り戻して、笑いながら戻ってきた。
 遥香と一緒にきたホテルの人が、蒼真に話しかける。

「もうお時間ですので、開始されますよね?」

 そう問われた蒼真が、はい、と頷いた。マイクを受け取って、蒼真は会場の真ん中に向かって、歩いていく。


 ――もう少しだけ……今のまま、話したかったな。

 まだ同窓会、始まってもいないのに。

 なんだかいろいろ嬉しいけど、ものすごく、胸が苦しい。
 でもやっぱり、嬉しい。


 一言交わすたびに――胸の温度が、あがってく。

 大丈夫かな、私。
 


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

両片思いの幼馴染

kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。 くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。 めちゃくちゃハッピーエンドです。

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

先輩のことが好きなのに、

未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。 何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?   切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。 《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。 要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。 陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。 夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。 5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。

✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

☘ 注意する都度何もない考え過ぎだと言い張る夫、なのに結局薬局疚しさ満杯だったじゃんか~ Bakayarou-

設楽理沙
ライト文芸
☘ 2025.12.18 文字数 70,089 累計ポイント 677,945 pt 夫が同じ社内の女性と度々仕事絡みで一緒に外回りや 出張に行くようになって……あまりいい気はしないから やめてほしいってお願いしたのに、何度も……。❀ 気にし過ぎだと一笑に伏された。 それなのに蓋を開けてみれば、何のことはない 言わんこっちゃないという結果になっていて 私は逃走したよ……。 あぁ~あたし、どうなっちゃうのかしらン? ぜんぜん明るい未来が見えないよ。。・゜・(ノε`)・゜・。    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 初回公開日時 2019.01.25 22:29 初回完結日時 2019.08.16 21:21 再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結 ❦イラストは有償画像になります。 2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載

思わせぶりには騙されない。

ぽぽ
恋愛
「もう好きなのやめる」 恋愛経験ゼロの地味な女、小森陸。 そんな陸と仲良くなったのは、社内でも圧倒的人気を誇る“思わせぶりな男”加藤隼人。 加藤に片思いをするが、自分には脈が一切ないことを知った陸は、恋心を手放す決意をする。 自分磨きを始め、新しい恋を探し始めたそのとき、自分に興味ないと思っていた後輩から距離を縮められ… 毎週金曜日の夜に更新します。その他の曜日は不定期です。

【書籍化決定】憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化決定しました。 ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。    しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。 よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう! 誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は? 全十話。一日2回更新 7月31日完結予定

【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。 するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。 だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。 過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。 ところが、ひょんなことから再会してしまう。 しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。 「今度は、もう離さないから」 「お願いだから、僕にもう近づかないで…」

処理中です...