「四半世紀の恋に、今夜決着を」

星井 悠里

文字の大きさ
31 / 36

第30話 好きな人

しおりを挟む


「久しぶり。元気だった?」

 そう話しかけられて、一通りやりとりをする。さっきから同じようなやりとりを何度もしてて、ちょっと慣れてきた。

「で、何を盛り上がってたの?」
「んん~。蒼真くんがカッコいいねって話」
「ああ。真弓って、昔から蒼真推しだったもんな。今もなの?」
「今もっていうか、もう長らく会ってなかったけど。でも、すごいカッコよく育ったなーって感心してて」
「何だよそれ」
「感心って」

 真弓の言葉に、皆、笑いながらツッコんでいる。

「でも分かる。かっこよく大人になってるよね」

 香織も頷くと、真弓が「連絡先聞いてみようかな」と言った瞬間。
 ずき、と勝手に胸が痛い。その時。

「無理みたいだよ」
 赤城くんが言った。無理って何? と真弓が聞くと。

「あいつさっき、他の女子にも聞かれてたけど、好きな人が居るからって断ってた」
「ええええー? そんなー!」

 真弓のテンションが下がりまくりの悲鳴に、皆が苦笑してる。

「え、でも、彼女ってわけじゃないんだよね?」
「でも、そういうのはごめんって、断ってたからなあ……。諦めたら?」
「そんなー」

 なんだかすごく。会話が遠くに聞こえる。

 好きな人、か。
 ……いるよね、それは。
 そして蒼真が好きなら、きっと、相手も蒼真を好きだと思う……。
 
 なんだか世界がふっと白くなっていく。
 分かってたし、彼女もいるだろうって覚悟してきたのに。

「いいじゃん、真弓、オレはどう?」
「……ごめん、むり」

 そんな冗談めかした会話に、皆、くすくす笑ってる。
 ふと、隣の男の子が私を見た。

「ていうか、木内、めっちゃ綺麗になったよな」
「……え?」

 全然聞いて無い中、突然、話し掛けられて、ぱっとその人を見つめる。

「え。っていうか、ほんとに可愛いんだけど、木内」
「木内って昔から密かにモテてたよな」
「あー知ってるー」

 ……何やら、私の知らない話を、皆が続けている。
 私は首を傾げた。

「モテてなんか、なかったよ?」
「いや、モテてたんだけど。告られたこととかあるでしょ」
「…………」

 考えるまでもなく、ううん、と首を振る。
 皆が、あれ? と首を傾げるけど、私の方が傾げたい。

 すると、赤城くんが、ああ、と笑った。

「皆、蒼真に遠慮してたのかもな……下手にちょっかい出せないっつーか」
「あー、それなー!」

 ……ますますよく分からない会話が、目の前で繰り広げられている。

「木内ってずっと東京なんだよな?」
「うん……」
「彼氏とかいるの? いなかったらさ、連絡先とか」
「なに、お前マジでナンパしてるの?」
「えーだって、すげー可愛いしさー。どう? 連絡先」

 明るい笑顔のこの人は……名前なんだったかなと思いながら。

「彼氏はいないんだけど……」

 えっと、断らないと……。でもこんなの本気じゃないだろうし、まともに断るのもなんだかな……と、迷った瞬間。
 赤城くんが、私に向かって言った。

「ああ、好きな人はいるって感じ?」
 
 助け船かな。小さく頷くと、すぐに、「だってさ。諦めろ」と続けてくれる。
 そこに、蒼真がやってきた。

「皆、飲んでる? つか、飲み過ぎんなよな」

 蒼真がそう言うと、皆がわっと沸いた。

「飲み放題だし、飲むだろ~」
「つか、乾杯しようぜ~! 酒貰ってこよ」

 わいわい騒ぎながら、男子たちは蒼真を連れていく。
 ふっと振り返った蒼真が私を見る。

「彩葉って、酒、飲めるの?」
「う、ん。少しは」
「そっか。……彩葉も、大人になってるんだな」

 ふ、と笑う蒼真に、皆、「何言ってんのお前。保護者か」「当たり前じゃん」と突っ込んでいる。
 うるせーな、とか言いながら、蒼真が連れられて離れていくと、また別の女子が近づいてきた。
 少しだけ話して――私は、こそ、と遥香に声をかけた。 

「ちょっとトイレ行ってくるね」
「あ、うん」

 騒がしい会場から廊下に出ると、急に、しんと静かだった。
 反して、心の中だけが、騒がしい。

――うん。大丈夫。分かってた。
 会ったときから、キラキラしてて。カッコよくて。
 モテるだろうって思ったでしょ。そう、分かってる。

 そう言い聞かせながら、トイレに向かって、早足で進む。
 奥の個室に入り、鍵を閉める。そのまま立ち尽くす。

「――っ」
 
 胸が痛くて、ぎゅ、と押さえた。

 なんでこんなに――痛いんだろう。

 今日ここに来たのは、蒼真への気持ちに区切りをつけるためだ。
 あの頃の思いを、ちゃんと伝えて、ちゃんと失恋して、終わらせるために。

 好きな人がいる、なんて、むしろ都合がいい。振られて終わることができる。

 ……振られる、とかでもないか。

 私は、別に、ずっと蒼真を好きだったわけじゃない。
 他の人とも付き合ってたし。ただ、なんか……うやむやにしてしまったし。昔蒼真のこと好きだった気持ちが強くて。なんだかすごく心に引っかかってるだけ。
 だからそれを、解消しないといけない。

 それだけなのに。
 なのにどうして。こんなに胸が、痛いんだろう。

 ぎゅう、と、拳を胸の真ん中に押し付けて、唇をかみしめる。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

☘ 注意する都度何もない考え過ぎだと言い張る夫、なのに結局薬局疚しさ満杯だったじゃんか~ Bakayarou-

設楽理沙
ライト文芸
☘ 2025.12.18 文字数 70,089 累計ポイント 677,945 pt 夫が同じ社内の女性と度々仕事絡みで一緒に外回りや 出張に行くようになって……あまりいい気はしないから やめてほしいってお願いしたのに、何度も……。❀ 気にし過ぎだと一笑に伏された。 それなのに蓋を開けてみれば、何のことはない 言わんこっちゃないという結果になっていて 私は逃走したよ……。 あぁ~あたし、どうなっちゃうのかしらン? ぜんぜん明るい未来が見えないよ。。・゜・(ノε`)・゜・。    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 初回公開日時 2019.01.25 22:29 初回完結日時 2019.08.16 21:21 再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結 ❦イラストは有償画像になります。 2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

婚約した幼馴染の彼と妹がベッドで寝てた。婚約破棄は嫌だと泣き叫んで復縁をしつこく迫る。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のオリビアは幼馴染と婚約して限りない喜びに満ちていました。相手はアルフィ皇太子殿下です。二人は心から幸福を感じている。 しかし、オリビアが聖女に選ばれてから会える時間が減っていく。それに対してアルフィは不満でした。オリビアも彼といる時間を大切にしたいと言う思いでしたが、心にすれ違いを生じてしまう。 そんな時、オリビアは過密スケジュールで約束していたデートを直前で取り消してしまい、アルフィと喧嘩になる。気を取り直して再びアルフィに謝りに行きますが……

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

処理中です...