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第30話 好きな人
しおりを挟む「久しぶり。元気だった?」
そう話しかけられて、一通りやりとりをする。さっきから同じようなやりとりを何度もしてて、ちょっと慣れてきた。
「で、何を盛り上がってたの?」
「んん~。蒼真くんがカッコいいねって話」
「ああ。真弓って、昔から蒼真推しだったもんな。今もなの?」
「今もっていうか、もう長らく会ってなかったけど。でも、すごいカッコよく育ったなーって感心してて」
「何だよそれ」
「感心って」
真弓の言葉に、皆、笑いながらツッコんでいる。
「でも分かる。かっこよく大人になってるよね」
香織も頷くと、真弓が「連絡先聞いてみようかな」と言った瞬間。
ずき、と勝手に胸が痛い。その時。
「無理みたいだよ」
赤城くんが言った。無理って何? と真弓が聞くと。
「あいつさっき、他の女子にも聞かれてたけど、好きな人が居るからって断ってた」
「ええええー? そんなー!」
真弓のテンションが下がりまくりの悲鳴に、皆が苦笑してる。
「え、でも、彼女ってわけじゃないんだよね?」
「でも、そういうのはごめんって、断ってたからなあ……。諦めたら?」
「そんなー」
なんだかすごく。会話が遠くに聞こえる。
好きな人、か。
……いるよね、それは。
そして蒼真が好きなら、きっと、相手も蒼真を好きだと思う……。
なんだか世界がふっと白くなっていく。
分かってたし、彼女もいるだろうって覚悟してきたのに。
「いいじゃん、真弓、オレはどう?」
「……ごめん、むり」
そんな冗談めかした会話に、皆、くすくす笑ってる。
ふと、隣の男の子が私を見た。
「ていうか、木内、めっちゃ綺麗になったよな」
「……え?」
全然聞いて無い中、突然、話し掛けられて、ぱっとその人を見つめる。
「え。っていうか、ほんとに可愛いんだけど、木内」
「木内って昔から密かにモテてたよな」
「あー知ってるー」
……何やら、私の知らない話を、皆が続けている。
私は首を傾げた。
「モテてなんか、なかったよ?」
「いや、モテてたんだけど。告られたこととかあるでしょ」
「…………」
考えるまでもなく、ううん、と首を振る。
皆が、あれ? と首を傾げるけど、私の方が傾げたい。
すると、赤城くんが、ああ、と笑った。
「皆、蒼真に遠慮してたのかもな……下手にちょっかい出せないっつーか」
「あー、それなー!」
……ますますよく分からない会話が、目の前で繰り広げられている。
「木内ってずっと東京なんだよな?」
「うん……」
「彼氏とかいるの? いなかったらさ、連絡先とか」
「なに、お前マジでナンパしてるの?」
「えーだって、すげー可愛いしさー。どう? 連絡先」
明るい笑顔のこの人は……名前なんだったかなと思いながら。
「彼氏はいないんだけど……」
えっと、断らないと……。でもこんなの本気じゃないだろうし、まともに断るのもなんだかな……と、迷った瞬間。
赤城くんが、私に向かって言った。
「ああ、好きな人はいるって感じ?」
助け船かな。小さく頷くと、すぐに、「だってさ。諦めろ」と続けてくれる。
そこに、蒼真がやってきた。
「皆、飲んでる? つか、飲み過ぎんなよな」
蒼真がそう言うと、皆がわっと沸いた。
「飲み放題だし、飲むだろ~」
「つか、乾杯しようぜ~! 酒貰ってこよ」
わいわい騒ぎながら、男子たちは蒼真を連れていく。
ふっと振り返った蒼真が私を見る。
「彩葉って、酒、飲めるの?」
「う、ん。少しは」
「そっか。……彩葉も、大人になってるんだな」
ふ、と笑う蒼真に、皆、「何言ってんのお前。保護者か」「当たり前じゃん」と突っ込んでいる。
うるせーな、とか言いながら、蒼真が連れられて離れていくと、また別の女子が近づいてきた。
少しだけ話して――私は、こそ、と遥香に声をかけた。
「ちょっとトイレ行ってくるね」
「あ、うん」
騒がしい会場から廊下に出ると、急に、しんと静かだった。
反して、心の中だけが、騒がしい。
――うん。大丈夫。分かってた。
会ったときから、キラキラしてて。カッコよくて。
モテるだろうって思ったでしょ。そう、分かってる。
そう言い聞かせながら、トイレに向かって、早足で進む。
奥の個室に入り、鍵を閉める。そのまま立ち尽くす。
「――っ」
胸が痛くて、ぎゅ、と押さえた。
なんでこんなに――痛いんだろう。
今日ここに来たのは、蒼真への気持ちに区切りをつけるためだ。
あの頃の思いを、ちゃんと伝えて、ちゃんと失恋して、終わらせるために。
好きな人がいる、なんて、むしろ都合がいい。振られて終わることができる。
……振られる、とかでもないか。
私は、別に、ずっと蒼真を好きだったわけじゃない。
他の人とも付き合ってたし。ただ、なんか……うやむやにしてしまったし。昔蒼真のこと好きだった気持ちが強くて。なんだかすごく心に引っかかってるだけ。
だからそれを、解消しないといけない。
それだけなのに。
なのにどうして。こんなに胸が、痛いんだろう。
ぎゅう、と、拳を胸の真ん中に押し付けて、唇をかみしめる。
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