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第32話 トラウマの昇華?
しおりを挟む遥香には応援されながら別れて、さっき二人で座ったベンチに腰かける。
噴水の音だけが聞こえる静かな場所で、胸の鼓動がどんどん速くなる。
しばらくして、早足の気配。
「ごめん、待たせて」
「ううん」
「上にバーがあるんだ。そこで、いい?」
「この上のお店?」
「ん」
「素敵そう。行きたい」
「行こ」
ふわりと笑う顔が、少し大人びて見えた。
ホテルの上の階のバーに入った。落ち着いた照明に、深い色のソファ。おしゃれで素敵な雰囲気のお店だった。
少しだけお酒を飲みながら、お互い、仕事の話を聞き合う。
昔みたいに、笑って話せているのが不思議だった。
そこに、可愛らしいバースデイケーキが届いた。小さなろうそくに火がついてる。
「わー。ありがと、蒼真」
頬が自然にゆるむ。ろうそくの火を消すと、蒼真は照れたみたいに視線をそらしながら、ケーキを切り分けてくれた。
「おいしい」
「ん。よかった」
それだけなのに、その声がやさしくて、
もうこれ以上どうしていいのか分からなくなる。
昔の続きに戻ったみたいで。
でも、昔とはやっぱり違う距離も感じる。
「あのさ、彩葉。どうしても聞きたいことがあったんだけど」
「うん?」
「――オレさ、お前に何かした?」
「え?」
首をかしげてしまうと。
「――全然窓を開けてくれなくなったの、高三の夏からなのは、分かってるんだけど……あの頃、オレ、何かしたんだろ?」
「――」
「謝りたいなって、ずっと、思ってて――考えたけど分からなかったことも、それも謝りたかった」
「……あ。うん……」
それで、会いたかったのか。私に。
なるほど……そっか。
「……あのね」
「うん」
「……私、部活の大会を休んだ日があって。熱を出して倒れてたの。そしたら蒼真の窓が開く音がしてね」
「……うん」
「……蒼真の彼女の声がして――たぶん初めて来た、みたいな感じで……」
蒼真はすごく思い出そうとしているっぽい。
「……それで。あの……キスしていい?って 彼女が言ってて――」
蒼真、目を見開いて私を見つめる。
「あ、の時――居たのか?」
「うん。居たの……ごめんね、聞いちゃって。ベッドで寝てたから、見たとかじゃないんだけど……えっと……」
「マジか……」
蒼真が、口元に手をやったまま、俯いている。
「あ。えっと……そう。それで……なんとなく。あ、ほら。まだ多感な思春期だったから……びっくり、して……どうしていいか分かんなくなって」
「――」
「今思えば……そんなことでって思うんだけど」
ふ、と苦笑してしまう。ほんと。そんなことで。こんなに何年も。
「ごめん。そんなこと、でした……」
「いや――そんなことじゃないよ。オレだって、逆の立場だったら、どうしてたか分かんないから」
そんな風に言ってくれる蒼真は、やっぱり、優しい。
「……ごめんな、彩葉」
「いや……謝られるのも違うかなって思うよ。だって、別に悪いことしてたわけじゃないし……」
「いや――ごめん」
「――」
あ。なんか。……泣きそう。
ごめんって……言わないでほしいのか。言ってほしいのか。分からないけど。
「……もういいよ。っていうかほんとに……謝られることじゃないから」
そう言って、ふふ、と笑って見せる。
蒼真は困ったように、私を見てる。
「――そんなに気にしないで……なんかそのまま、ちょっと気まずくなっただけで。子どもだったんだよね。私こそ、ごめんね」
「……彩葉が謝ることじゃない」
はっきりとそう言って、蒼真は視線を落とした。
「居るって知らなかったとは言え……ごめんな。しかも大会出られなくって落ち込んでる時だろ。最悪だよな」
はあ、と蒼真がため息をついてる。
私は、ううん、と首を振った。
「蒼真。乾杯、しよ。仲直りの」
「――」
「そんな大したことでもなかったのに、私こそ、ごめんね」
「違う。オレが悪い。ごめん」
「うん。もういいよ。だから、乾杯」
そういうと、蒼真はようやくグラスを持ってくれた。
「乾杯」
かち、とグラスを合わせてから、こく、と飲み物を飲み込む。
――ずっと誰にも言えなかったことを、やっと言えた。
謝ってくれた。
――良かった、よね。もうこれで、あののトラウマみたいな出来事は、昇華、したかな。
残っていたケーキを食べながら、そんな風に思っていた。
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