88 / 148
第三章
26.「和義と凌馬」*俊輔
しおりを挟む「おっと……真奈ちゃん?」
凌馬は中に入らず、そのままそこに立ち尽くして、どうやら支えたらしい、真奈の名を呼んだ。
「どした?」
「凌馬さん、 あの……?」
……真奈の、声が聞こえた。
久しぶりに、まともに聞く、真奈の声。
「……ああ、殴ったのはオレ。 少し位痛い思いさせねえとな」
はは、と笑いながら、凌馬がオレを振り返る。
眉を顰めて…視線を逸らす。
そのまま、真奈を、ソファに寝かせるのを後ろから見ていると。
……まともに立てないのかと。
――――……自己嫌悪しか浮かばない。
凌馬が少し体を下げて。やっと真奈と視線が合うと。
真奈が、少し震えた。
「大丈夫だよ、こいつ。もう落ち着いてるから」
凌馬がそう言うが、真奈は固まってる。
「とりあえずオレは一回出る。すぐそこに居っから。……大丈夫だよな?」
凌馬がオレに言うので、頷く。
「少し話してやって」
真奈に向けてそう言った凌馬に肩を押されて、少し真奈に近づいた。
……真奈。
下から、恐る恐ると言った態で見上げてきてる真奈。
思っていたよりは、普通の状態に、ほっとしながら、何だか きょとんとしてる真奈を、黙って見つめる。
……顔をちゃんと見るのが、久しぶりだ、と、ただそう思った。
そう伝えると、真奈も、頷く。
「……本当に 無事なんだな……?」
さっき、一気に冷え切った血液は……嘘だと聞いても尚、冷えたままな気がする。真奈が頷いたことで、ようやく、少しだけほっとした。
どれくらい熱があるのかと額に触れようとしたら、真奈が震えた。仕方ないと思いつつも、こんなに怯えさせてしまったことに、胸が痛む。
真奈の状態を確認すると……まあ分かってたけど、体調は最悪。
熱も高いし、傷も痛む。まともに歩いていられない。
全部、オレのせいだと、分かってる。
だから、謝った。
――――……思うと、あまり人に謝った記憶がない。
今思うことを、全部そのまま、言ってみた。
何だかすごく驚いた顔で、オレをじっと、見ていた真奈は。
許せ、と言った時。きょとんとした。瞬きを繰り返したと思ったら。
それから。……何を思ったのか、ふ、と笑んで、頷いた。
どうして笑うんだろう。
今までで一番ひどいことをした気がする。殴り合いとかそんなんじゃなくて、完全に、ただの一方的な暴力。
あんなことをした相手に。手が触れそうになるだけで、びくついてる相手に。
「許す」と言って、わずかだとしても笑って見せる真奈が、オレにはよく分からなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
車の中で、途中から眠り始めた真奈を、屋敷について抱き上げた。
全く、目を覚まさない。
そのまま部屋に戻って、真奈をベッドに寝かせた。
少し見下ろした後、寝室から離れてソファに腰掛けると、小さくノックをして、和義が入ってきた。
「真奈さんは あのままお休みですか?」
「ああ……起きそうにない」
「……何か、冷たいものでも、お飲みになりますか?」
「……ああ」
「すぐ持ってきます」
「和義」
立ち去ろうとした和義を呼び止める。
「はい?」
すぐに足を止めて振り返った和義を、ソファ越しに少し見上げる。
「……何でお前も、凌馬も……真奈のことでそんなに怒るんだ」
「……は?」
不思議そうに首を傾げる和義に、思わず苦笑を浮かべる。
「……今回、思った。真奈に何かすると、お前ら二人が黙ってねえんだって」
そう言うと、和義は少し黙った後、微笑した。
「私は若のことを考えてのことです。若にとって、彼が良い存在なら、大事にしますし……」
「……それだけじゃねえだろ。お前、オレに逆らって、真奈を別の部屋に隠したじゃねえかよ」
「若……」
「凌馬だって、真奈を逃がすっても思ったって、言ってたぞ」
「……そうなんですか」
和義は、苦笑いして、何も言わない。
黙って見つめていると、仕方なさそうに口を開いた。
「……彼には泣いたり悩んでたりしてるよりも、笑っていて欲しいと思います。多分、それは若と同じです」
「オレがいつそんなこと言ったンだよ」
「おっしゃらなくても、分かりますけど。多分、凌馬さんも、若の気持ちが分かってるからこその、色々だと思いますよ」
一瞬返す言葉に詰まると、また、ふ、と笑われた。
221
あなたにおすすめの小説
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】
きど
BL
愛されていないのに形だけの番になるのは、ごめんだ。
オメガの王族でもアルファと番えば王位継承を認めているエステート王国。
そこの第一王子でオメガのヴィルムには長年思い続けている相手がいる。それは幼馴染で王位継承権を得るための番候補でもあるアルファのアーシュレイ・フィリアス。
アーシュレイは、自分を王太子にするために、番になろうとしてると勘違いしているヴィルムは、アーシュレイを拒絶し続ける。しかし、発情期の度にアーシュレイに抱かれる幻想をみてしまい思いに蓋をし続けることが難しくなっていた。
そんな時に大国のアルファの王族から番になる打診が来て、アーシュレイを諦めるためにそれを受けようとしたら、とうとうアーシュレイが痺れを切らして…。
二人の想いは無事通じ合うのか。
現在、スピンオフ作品の
ヤンデレベータ×性悪アルファを連載中
【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。
美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる