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80.一番良さそうな方法
しおりを挟むさっき、雅彦さんは、「悪いことを企んでる感じはしなかったし。そのまま信じてやってもいい」って言った。
……信じてやってもいい。てことは、やっぱり、違うかもって思ってたってことだよね。やっぱり鋭いし、瑛士さん、話して良かったんだろうなぁと思いながら、あれこれ話し合ってる二人を見ていると。
「ただ、戸籍に関しては、どこから漏れるかなんて分からないからな……オレが見なくても気を付けないと」
「まあ……そうだね。役所の人は普通に見れるし……それは、外に漏らしたらダメなやつだけど。んー……」
どうしようかな、と瑛士さんが少し考え深げに目を伏せる。
絵になるなあ、なんて、ぽー、と見ていると。
「結婚式もするつもりだったんだよな?」
雅彦さんがそう聞くと、瑛士さんは、ん、と頷いた。
「最初はね。豪華な結婚式して、めちゃくちゃ愛してるとこでも見せれば、誘いは無くなるかと、それしか考えてなかったから」
「最初は?」
「……凛太と一緒に居るうちに、オレの我儘で凛太を結婚式出させて、戸籍もバツにさせてとか……ダメじゃないかと思ってきて」
「――――」
「今はどうしたもんかな、と考え中」
そんなこと考えてるのは、初めて聞いたなぁ。会った日の話だと、結婚式は派手に、みたいな感じだったような。オレはそのつもりで居たし。
「……瑛士さん、オレ、別にいいですよ? ほんとに結婚したって別れることなんてありますし。三年とか経ってからなら周りも、ふうんって感じたと思うんですよね。そこも全部込みで、了承しましたし」
そう言うと、瑛士さんはオレを見て、むー、と眉を寄せた。
「でもなぁ……」
「オレ、前も言いましたけど、結婚とかしないと思うので。全然困らないですよ」
そう言うと、瑛士さんは、はぁ、とため息をつきながら、苦笑して、オレを見つめた。
「前も言ったけど……凛太には、ちゃんと恋して幸せになってほしいんだけど」
考えておきますって言った気がする。……考えてないけど。
んー、とオレも苦笑してしまったその時。黙って聞いていた雅彦さんが、ぽん、と一度手を合わせた。
「いいことを思いついた」
「なに?」
「婚約だけ発表するっていうのはどうだ?」
「――――」
「今度、グループの創立パーティがあるだろ。その時、お前のCEO着任挨拶も改めてするから――そこで、婚約したっていうのを発表だけすればいいんじゃないか? 主な取引先や会社関係は皆出席するし、そこで言えば、グループ全体の社員にも――大分広まると思うが?」
「――――」
瑛士さんは少し考えてから、オレに視線を投げてくる。見つめ返してオレは頷いた。
確かにそれだと、婚約解消くらいなら、瑛士さんにとっても良いんじゃないかな。瑛士さん、オレのことばかり言うけど、ほんとは瑛士さんだって、バツついちゃう訳だし。
見つめ合ってると、雅彦さんが「一番やりやすいんじゃないか?」と微笑む。
「凛太くんが学生なのと、瑛士がまだCEOなりたてだから、結婚は数年後になるが、どうしてもお披露目したいってことで言えば、それだけ結婚したい気持ちはあるって周りに伝わるし」
「いいかも、それ……ついでみたいに言うだけでも、言いたい人達には伝わるし。婚約ならダメになっても、結婚よりは、凛太のダメージ、少なそうだし。戸籍のバツももちろん、つかないし――いいの? そこで話して」
「お前がいいなら」
「……どう? 凛太。いい?」
じっと見つめてくる瑛士さん。
「あ、でももう少しいろいろ考えてから結論だそうか。急に色々変えちゃって、ごめんな? 凛太に言わずにじいちゃんにも話しちゃったしな」
「あ、いえ」
気を使ってくれてる瑛士さんに、オレは首を振った。
「オレ、全部瑛士さんに任せるって言いましたし。雅彦さんには話すんだろうなって、思ってました。オレも、瑛士さんの言う通り、なんとなく話したかったですし」
「……そっか」
ふ、と瑛士さんがまた優しく笑う。
綺麗な青の装飾の、明るいレストランの中で。瑛士さんの紫の瞳、なんだかめちゃくちゃ綺麗に輝いて見える。
「婚約期間、三年は長いかもしれないが、理由が理由だけに、納得はしてくれるだろ。そんなに先のことを発表するくらい好きなんだってことになると、お前的には、余計良いんじゃないか?」
「そうだね」
「まあ、あれだよな。結婚しても、αを狙うΩは居るからな。愛人を望むΩも多いし」
「――凛太一筋って、言っておこうかな」
「……ああ、そうだな」
瑛士さんと雅彦さんが、ふ、と笑い合ってるけど。
…………うーん??
ちょっとそれは……。どうなんだろ。
「なんか納得してないみたいだね? 凛太」
面白そうな表情で、オレを見つめてくる瑛士さんに。
「あー……と、これ、自分で言うのは、なんなんですけど」
「うん。なに?」
「……瑛士さんみたいな人が、凛太一筋とか言って…… オレを見て、皆さん、納得してくれますかね……と、今思っちゃって」
そう言ったら、瑛士さんと雅彦さんが、同じような顔できょとんとして、顔を見合わせた。
「あ、だって……なんか、すっごい綺麗な人とかなら、皆も納得すると思うんですけど……オレが婚約者として出たら余計、あれなら勝てるって思われたら困るなあって」
何でオレは自分でこんなことを言ってるんだろう、こんな面白そうに聞いてる二人の前で。
でもなあ。普通、そう思うよね??? と思いながら、言い終えたら、二人が同時に、ぷっと笑い出した。
「じゃあ、めいっぱい可愛く変身してもらおう。大丈夫、可愛いから、凛太」
「そうそう。着飾ってもらうといいよ」
「髪もちょっといじらせて」
そう言いながら、瑛士さんの指が、オレの髪に触れてくる。
「めちゃくちゃ可愛くしてもらおうね」
楽しそうな瑛士さんに、うう、と首を傾げる。
「限界がありますけど……」
言うと、また二人が、クスクス笑った。
……笑い方、そっくり……なんて、思った。
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