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79.戸籍のバツ
しおりを挟むデザートまで食べ終わって、済んだ食器が片付けられた。コーヒーを一口飲んだところで、瑛士さんが雅彦さんに視線を向けた。少し姿勢を伸ばした感じに、オレもなんだか緊張する。
「じいちゃん、さっきの話なんだけど」
「――ああ。いいよ。聞こうか」
雅彦さんはテーブルの上で、軽く手を合わせて握った。
「――――結婚、なんだけど」
「ああ」
「オレ、ここから三年間は、やらなきゃいけないことがたくさんある」
「あぁ。そうだな」
「そのために、CEOも引き受けた。じいちゃんは全部知ってるけどさ」
「ああ」
「……CEO、引き受けてから、予想外のことがあってね」
瑛士さんは、少しだけ唇を噛んでから、ため息をつきながら。
「以前にもまして、迫られたり、見合いの話が、増えたんだよね」
雅彦さんは、それを聞いて、少し笑ってから「自慢か?」と言った。すると瑛士さんは苦笑して「自慢だけど」と口にする。「まあお前のモテ方なんて、じいちゃんに比べたらまだまだだろうがな」と雅彦さん。
瑛士さんは呆れたように笑って、「孫とそんなの競わないでよ」と言ってる。冗談なのか本気なのかよく分からないけど、ふたりともモテるんだろうなってことは、納得、と思いながら聞いていると。
「まあ冗談はおいといて、それがものすごく煩わしくてさ。……見合いの話とか、偉い人からだと無下にもできないし、本当に困って、じいちゃんにも相談しようかと思ってたんだけど――――今はまだ見合いとかしてる時期じゃないって、言ってもらおうかなとかさ。でも偉い人達にはそれがきくかもだけど、仕事でいろいろ絡む一般の人達までは届かないし、ほんと、真面目にどうしようか、考えてて」
「……まあ、お前は、オレに似てるとこあるしな。モテるのは分かる」
「だから冗談じゃなくて……」
「別に冗談じゃないけどな」
雅彦さんは、そう言って、クスクス笑って――――それから、ふ、と息をついた。
そして、言った言葉が。
「で。結婚するってことに、しようってなったのか?」
――――……。
急にきたセリフに、目が点のオレの目の前で、瑛士さんが苦笑を浮かべた。
「……バレてた?」
「このままずっとそれで通すなら信じたよ。でも、今その話をし出したから、それならそういうことか、と思ったってところだな」
「……このままいけば、信じてくれたままだった?」
「孫の言葉だからな。凛太くんとお前を見てて、悪いことを企んでる感じはしなかったし。そのまま信じてやってもいいと、思ってた」
言葉も出せず聞いてるオレの横で、瑛士さんは一度唇を閉じて、それから静かに言った。
「――――……ごめん」
瑛士さんが真面目な顔をして、頭を下げたので、はっと気づいたオレも、「すみません」と頭を下げた。
頭を下げた状態で数秒。
「頭をあげていいよ」
優しい、笑いを含んだ声に、瑛士さんがゆっくり顔をあげたのが気配で分かったので、オレもゆっくり、顔を上げて、二人を順に見つめた。
面白そうに笑ってる雅彦さんに、ちょっと困った顔をしてから、瑛士さんが続ける。
「凛太はさ、事情があって、父親から援助を受けたくないって気持ちがあってさ。でも働いてたら勉強できないし。だから、オレがそれを援助するのと、凛太が医者になれるまで応援するっていうのを条件に、オレの結婚相手を演じてもらいたいって、オレが頼んだんだ」
「――そうか」
静かな声で言って、雅彦さんがオレを見るので、オレは小さく一度だけ頷いた。
「でも……なんかじいちゃんには隠せそうにないし。なんか凛太も、隠したくなさそうに見えて。あと、じいちゃんはきっと、そういう融通も、ききそうって言うか、分かってくれそうだから」
ふ、と楽しそうに笑って、瑛士さんが雅彦さんを見つめた。
「――――……」
ため息をつきながら、雅彦さんはオレを見た。
「凛太くんは、本当に、納得してたのか?」
「――はい。というか……オレの方が、色々、助けてもらうことばかりなので……勉強に専念できるのが、本当にありがたくて」
「オレの方が、ほんと助かるし――――変な人に頼んで、変なことになっても嫌だし、こんな訳の分からない条件のんでくれる人、そうそういないと思うし。信じられる人じゃないと、あの部屋にも住ませたくないし」
瑛士さんはそう言うけど。
……そうかな、相手が瑛士さんなら、喜んで協力する人、たくさん居そうだけどな。
……あ、そっか。変なことになってもって、そういうことか。
本気になられちゃったりして、離婚しませんとか言われても困るだろうし。確かに、いろいろ困りごとはありそうな気がする。後で変に週刊誌とか流されちゃったりも困るだろうし。うん。確かにそういう点では、オレ、そういうことはしないだろうなぁとは、自分でも思うけど。
……でも会った数時間後にオレは、マンションのあの部屋に連れられてたけど。
信じられるって、どうして思ったんだかは、謎だなぁ……。
あ、でも。……オレも、信じてたかな。あんな話に乗って、あの部屋に入ったんだから。
普通なら、そんな簡単に、ついていったりしないのに。
「一緒に居ると、凛太のことがなんか可愛くてたまんないし。絶対守りたいから、凛太の困ることはしない。……そう、考えると――――じいちゃんに話してしまいたい理由が、明確にひとつあってさ」
少し乗り出し気味になってる瑛士さんに、雅彦さんが「……お前、楽しそうだな」と苦笑した。
「じいちゃんはいざとなったら戸籍とかもチェックしそうだから。じいちゃんに話さない前提なら、籍を入れてもらって、三年後バツイチになることも話してて……それで凛太は了承してくれたんだけどさ。――――父さんとかはそこまでチェックしたりする人じゃないし。じいちゃんにさえ話してしまえば、凛太の戸籍を、バツイチにしなくて済むかなって……」
「ああ……なるほど」
「凛太に話した、デメリットの一つ、バツイチになっちゃうってのが、消えるんだ」
「……別にそれは、いいですよって言ったのに」
「やっぱり良くないと思って」
瑛士さんが、む、と口を引き結んで、うんうんと頷いてる。
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