103 / 138
102.人生で楽しかった日
しおりを挟むおみやげの店がたくさん入ってる建物に着いて、一緒に見て回る。
「凛太、ほしいものあったら、なんでも言って」
「なんでも……あ。会社とかのおみやげは選ばなくていいんですか?」
聞いたオレに、瑛士さんは、ふ、と微笑む。
「そっちは適当にお菓子でも買うよ。今日、休ませてもらったし」
はい、と頷くと、ぽんぽん、と大きな手がオレの頭を撫でる。
「それより、凛太がほしいもの、探してね」
優しい言い方に頷いて、周りに視線を向ける。可愛いものがたくさん目に映る。欲しいものかぁ。こういうとこが久しぶりなのもあるけど。何かなあ、オレが、欲しいもの。
というより、瑛士さんに、オレがあげたいんだけど。
連れてきてくれたことも。楽しませてくれたことも。今日一日、ほんとうに、楽しくて。オレの人生で楽しかった日を挙げてって言われたら、絶対今日は入ると思う。
オレは別に人が嫌いな訳じゃない。世をはかなんでる訳でもない。
ただ、何でだろうってことが結構あって、考えることが多かった。Ωという性を持ってしまったこともその一因だったとは思う。自分は軽かったけれど、不安定なヒートや体調不良で悩んでる人達がいることも、嫌な目に遭う人もいるってことも、SNSでたくさん知っているし、不平等な感じは否めない。
そんな世の中の感じは好きじゃなくてそれをどうにかしたいし、そのために、すべきだと思うことは、結構子供のころから決まっていて――それ以外のことに関してかける時間も、興味も無かっただけ。
別にそれだからと言って、すごくつらかったとか、我慢してきたとか、そんなことは無い。勉強は好きだったし、夢に向かってる自分も肯定してる。
でも、今日は、なんとなく――。
こんな一日も、楽しいんだな、と思えた。
キスも、したいと思える日が来るなんて、そして。自分から、本当にしてしまう、なんて、ほんとびっくりだけど。
気分は、悪くない。
「凛太、これは?」
可愛いクラゲのぬいぐるみを見せてくる瑛士さんに、ふふ、と笑ってしまう。
「可愛いですけど……ぬいぐるみはちょっと……あんまりかまってあげられなそうなので」
「かまってあげられない……生きてはないよ?」
瑛士さんがクスクス笑いながら、ぬいぐるみを揺らしてくる。
「そうですけど。なんか、ずっと抱っこしてくれる子のところに行ってほしいかなーと思って」
「……なるほど」
瑛士さんは少し黙った後、そう言って頷くと、ぬいぐるみを棚に戻した。
「凛太も忙しいから、確かに一人にさせちゃうか」
「ひとり、ではないですけど。ふふ」
「そうだね」
見つめ合って、ふと、笑い合う。
「ぬいぐるみがやっぱり多いかなぁ……何かないかな、凛太にぴったりなおみやげ」
「……あの、瑛士さん。オレも、瑛士さんに、おみやげ買ってもいいですか?」
「何で聞くの?」
「……え?」
何で聞くのって? 何で。ってどういう質問?
分からなくて顔を見上げると、瑛士さんはちょっと困ったように微笑した。
「オレが、ダメって言うわけないでしょ。嬉しいに決まってるし」
「あ、そういう意味……そっか……なんか、すみません」
「謝らなくていいけど……凛太、たまに聞かなくてもいいよっていうこと、聞くような気がするなぁ」
――確かに、オレ、そういうの聞いちゃってるかもしれない。瑛士さんだけじゃないかも。今までも、他の人にも聞いてるかも。
なんだろうな……。
オレなんかが余計なことしない方がいいかなとか思うのかもしれない。全部が受け入れられるとは思っていない、ということかな。
多分オレの中に、潜在的に、一人で生きてくっていう、そういう気持ちがあるのかもって、ふと考えてしまう。必要以上に絡んだり頼ったりはしないように、押し付けないようにっていう、そんな感じかもしれない。
めんどくさいな、オレ。そう感じて少し黙っていると、瑛士さんの手が、オレの頭に、ぽん、と乗った。
「あのさ、凛太。オレは凛太が言うことを、頭ごなしにダメなんて絶対言わないし。聞かれて、思うことを話す時はあるかもしれないけど、それは凛太と話して決めるし――あとさ、おみやげ買ってもいいか、なんて、そんな質問はしなくていいよ。無条件に嬉しいと思うことだし」
まっすぐに、オレの瞳を見ながら、瑛士さんは、そう言った。
瑛士さんの言葉は、何だかすうっと、オレの中に、入ってくる。
「たとえばさっきのなら―――オレも瑛士さんにおみやげ買いたいです、て言ってくれたら、嬉しい」
――なんだろうなぁ、この、瑛士さんに対する、あったかい、気持ちとか。安心感って。
(2025/5/29)
1,698
あなたにおすすめの小説
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
オメガ大学生、溺愛アルファ社長に囲い込まれました
こたま
BL
あっ!脇道から出てきたハイヤーが僕の自転車の前輪にぶつかり、転倒してしまった。ハイヤーの後部座席に乗っていたのは若いアルファの社長である東条秀之だった。大学生の木村千尋は病院の特別室に入院し怪我の治療を受けた。退院の時期になったらなぜか自宅ではなく社長宅でお世話になることに。溺愛アルファ×可愛いオメガのハッピーエンドBLです。読んで頂きありがとうございます。今後随時追加更新するかもしれません。
親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた
こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。
学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました
こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。
久しぶりの発情期に大好きな番と一緒にいるΩ
いち
BL
Ωの丞(たすく)は、自分の番であるαの かじとのことが大好き。
いつものように晩御飯を作りながら、かじとを待っていたある日、丞にヒートの症状が…周期をかじとに把握されているため、万全の用意をされるが恥ずかしさから否定的にな。しかし丞の症状は止まらなくなってしまう。Ωがよしよしされる短編です。
※pixivにも同様の作品を掲載しています
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
運命の番と出会ったら…幸運な再会でした
こたま
BL
春川茜(あかね)はオメガ男子だ。ベータの姉、藍(あい)と帰国子女として仲良く大学に通っている。茜は、父の赴任で米国滞在中に診断不能の不全オメガと言われていた。二次性徴も発情期も正常に訪れ、血液検査ではホルモンもフェロモンも正常に反応している。しかしどんなアルファに対しても魅力を感じず、嫌悪感を覚える。そしてアルファもまた茜をどこか近寄りがたい誰かの物であるように知覚するのだ。一人で生きていこうと努力をしていた茜に訪れた出会いとは。同じ年のアルファ×オメガ。ハッピーエンドBLです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる