176 / 856
◇週末の色々
◇楽屋で*優月
しおりを挟む「Ankh様」と書かれたドアの前で玲央が立ち止まった。
「あのな、優月」
「うん」
「甲斐の親戚が、レコード会社の人なんだけど……ちょっと強烈だから」
「……? うん」
苦笑いの玲央に、全然意味が分からないけど、とりあえず、小さく頷いた。
「まあ大丈夫、害はないはず。ただ少し、オレとお前の事、勇紀が話したから知ってるから」
「……う、ん??」
良く分からないまま頷くと、クスクス笑う玲央に、よしよし、と撫でられて。優しい瞳に、相も変わらず、ドキドキしてると。
玲央がドアを開けて、オレを中に招き入れた。
「わー優月ー!」
勇紀が抱き付きにくる。
「結構早く来れてたよね、良かった」
「うん」
さっきまであんなにカッコよかったのに、完全にいつも通りの勇紀に、ちょっと笑いながら、でもホッとする。
「皆すっごいカッコよかった」
オレを見てる皆に、そう言うと。
「泣いてたろ、ずっと」
「見るたび泣いてるから、つい見ちゃってさ。オレも結構、優月見てたぞ」
颯也と甲斐が苦笑いを浮かべながらそんな風に言う。
あ゛。見られてるし……見えるんだ、結構……。
涙はさすがに見えないだろうから……拭いてる手の動きかな…。
う―恥ずかしい……と、思ってると。
勇紀が、オレの肩をぽんぽんと抱いた。
「しょーがないよねー、この人が、しょっちゅう優月見てるし」
玲央にちらっと視線を流して、勇紀が笑う。
「優月が来た時の玲央の顔、見た?」
勇紀がオレに聞いて、めっちゃケタケタ笑い出す。
「めっちゃ笑顔だったよねー」
「……お前、うるさい。優月、返せ」
ぺり、と肩から勇紀を外して、玲央の方に引き寄せられる。
あはははー、と笑ってる勇紀の隣に、キレイな女の人が2人並んだ。
「――――……ふうん?」
「勇紀、この子?」
聞かれた勇紀がうんうんと頷くと。2人が一歩前に出て、オレの目の前に立った。
「……?」
玲央がさっき、言ってた人かな……?
すごい近くで見られてるんだけど……??
「近すぎ」
玲央が、またオレの腕を掴んで、少し引き寄せた。
ふっと見上げると、玲央が、苦笑いしてる。
「なーにー、玲央、何で今私たちから遠ざけたのかなー?」
「そうよ、ちょっと感じ悪くない?」
「……美奈子さんも里沙さんも、至近距離から見すぎなんで」
玲央の苦笑交じりの言葉に、2人は、顔を見合わせて。
「いいじゃない、見たいし!」
「優月くんて言うんでしょ? こっちおいで」
手を取られて、引っ張られる。
後ろから、玲央のため息が聞こえる。
「ふふ、可愛い、この子。肌、柔らかい~」
「なになに、君は玲央の事、好きなの?」
「え……あ……」
初対面の女の人2人に、いきなりそんな風に聞かれて。
質問を理解した瞬間、顔が熱くなってしまった。
「――――」
「――――」
2人が、きょとん、として。
オレをますますマジマジと見て。かと思ったら、顔を見合わせて。
「やだうそ、ほんとに可愛いんだけど」
「なになに、この子、いくつ?」
「玲央たちと一緒? 嘘でしょー?」
……美人なだけに、なんか迫力がありすぎて、対処しきれない。
「優月が超固まってるから、マジで返して下さい」
再三、玲央に引き寄せられる。
「……もしかして、玲央、本当に本気なの?」
「――――……」
玲央は、口を少し引き結んで。
瞳だけまっすぐに、2人に向けてる。
勇紀達がクスクス笑ってるのが、聞こえる。
「さっきのライブ、見てたでしょ?」
甲斐が笑いながら、2人に話しかけてる。
……あ、そっか。甲斐の親戚、て言ってたっけ。
「StayもLoveもさ、今まででダントツ良かったし。分かるでしょ。……つーか、優月と会ってから、玲央、もう誰だかわかんねえ時あるから」
最後の方は、ふざけた感じで笑いながら、甲斐が言うと。
「まあ確かに。 玲央の歌、今日、ほんと一番良かった~」
「そっか、玲央は好きな子が出来ると、歌、良くなるのね。初めて知った……って、だって玲央が好きな子とかって、今まで居たっけ??」
クスクス笑いながら顔を見合わせてる。
玲央を見上げると、ふー、と息を付いてて。
オレと瞳が合うと、くす、と笑って。
「歌良かった?」
と聞くので。
うんうん、と頷くと。
そっか、と、嬉しそうに笑う玲央が。
……また、可愛いなーと、思ってしまって。
ステージでは、あんなに、カッコ良くて。
……ていうか、いつもいつも、すごくカッコイイのに。
たまに可愛くて。
玲央はよくオレを撫でるけど。
オレも玲央を撫でたいなーなんて。思いながら見上げてると。
「――――……」
くす、と笑った玲央に、ちゅ、とキスされて。
びっくりして固まってると。
案の定騒ぎ出した2人の美人と、呆れて笑ってる皆と。
もう全然対応できなくて、ただ玲央の腕の中に隠されてるまま。
なんかもう、ライブから完全にいっぱいいっぱいで。
もーむり……。
こんなに、周りの会話が入ってこなくなったの、生まれて初めてかも……。
なんて思った。
595
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。
下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。
大国の第一王子・αのジスランは、小国の第二王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。
ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄するから受け入れてほしいと言われる。
理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、
「必ず僕の国を滅ぼして」
それだけ言い、去っていった。
社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる