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「お人よし」
しおりを挟む「よし、じゃあ、花音、行くよ……?」
「うんっ」
私は脚をまっすぐに伸ばして座り、太ももの上にタオルを置いて、ドキドキしながら、わんこが下りてくるのを待つ。
「転がっちゃってもまあ、この高さなら別に大丈夫だからね」
クスクス笑いながら、恵ちゃんが、私の脚の上に、そーーーっと、泥棒ちゃんのお顔をした、ちびわんこを、乗せてくれた。
おそるおそる、触れてみる。
今日は指の先っちょじゃなくて、右手の真ん中三本指で。
やわらか。ちっちゃい。ふわふわふわ。
かわいい……!!
なんか。
こんなちっちゃいのに、こんなぬいぐるみみたいなのに、
ちゃんと生きてるって。
可愛すぎる!
そんなことに感動しながら、ただ、まだちょっとドキドキで、私の脚は、ぴん、と伸ばして強張ったまま。
すると恵ちゃんにクスクス笑われた。
「乗せるのは、怖い?」
「怖いっていうか……落ちたらと思うと絶対動けないというか……」
そっと頭を撫でると、気持ち良さそうに、目を閉じてる。
「……なんか、笑ってるみたいに、見えるー」
「見えるよね。……ていうか、笑ってるんだと思ってるよ、私」
「うん、笑ってるとしか思えない」
ふにゃ、と目を細めて、うっとりしてる感じは、気持ち良さそうに笑ってるようにしか見えない。
「……んんんーー可愛い……!」
私がそう言うと、あはは、と恵ちゃんは笑う。
「花音も、彼氏くんのとこに、可愛く行っておいでよねー」
「……可愛く?」
「そ。意地を張ったりしないでさ。……別れたくないなら、そう言わないとさ。しばらくの間すれ違ってるんだから、うまくしないと、離れちゃう可能性もあるよね」
「……うん。分かってる」
すっごいよく、分かってる。頷いて、ため息。
その時。ふ、と気づいた。
「……この子、貰い先、いい人だといいねぇ……」
「ふふ。そだね」
「幸せになってほしいなあ……ちょっと心配だし」
「花音は、その子推しだね」
ふふ、と恵ちゃんが笑う。
「ちょっと花音に似てるもんね」
「えっ……泥棒……」
「違う違う」
一番の特徴を口にしたら、恵ちゃんは可笑しそうに笑った。
「なんかお人よしなところ」
「お人よし? 私、そう思う?」
……確かに、私、自分でも、ちゃんと言いたいこと言えず、なんか周りに合わせちゃうとこがあるのは、分かってるけど。
「思うよ。友達が同じ子好きだっていうと、譲っちゃうし」
「……懐かしいね」
昔のことをちょっと思い出して、苦笑い。
「あれは……別に付き合ってた訳じゃないから譲ったわけじゃないし」
「私も好きって言えばいいのにさ、応援するとか言っちゃうしさ?」
「ん……まあ」
「何回かあるよね? その男子と仲良かったのに、話さなくなっちゃうとかさ」
まああったといえばあったけど。
「あれ、絶対花音が人がいいから、けん制だったんじゃないのかなーって思ってるけど」
「え? どういうこと?」
「自分も好きって言っとけば、花音が遠慮するかなっていう」
「……どうだろ??」
そうかなあ?? 良く分かんないけど、と首を傾げる。
「細かいことは忘れちゃったけど、ほんとお人よしだなーって思うから。少し似てるって思っちゃった」
ふふ、と笑う恵ちゃん。私は苦笑しつつ、似てるかな? と見ていると。
膝の上で、もふもふした泥棒ちゃんは、撫でている内に、ころりんとお腹を見せて、そのまま寝ようとしてるみたいで。目を閉じちゃって、動かない。
ふわふわした毛はお腹にはなくて、ピンク色のお腹が、呼吸すると、ゆっくり動く。息、ちゃんと吸ってる。可愛い。
「恵ちゃん、寝そう……こんな、お腹見せて……」
「ぷぷ。警戒感、まるでないよね……かわいー……」
「恵ちゃん、写真……いや、動画撮って、もうこれ全部撮って」
「はいはい」
恵ちゃんはクスクス笑いながら、「花音も入れといてあげるね」と言って、スマホを向けてくる。
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