【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-

星井 悠里

文字の大きさ
52 / 130
◆Stay with me◆本編「大学生編」

「忘れるから」



 シャワーを浴びて、落ち着いてから出ていくと。
 ソファに居た仁が、ホッとしたように、笑った。

「なんかすごい遅くなかった?」
「そう?」

 仁が立ち上がって、オレの方に歩いてくる。
 す、とオレの横を通り過ぎて、冷蔵庫に向かい、コップに水を入れた。


「出てくる音がするの、もう少し遅かったら、見に行くとこだった」

 苦笑いで言いながら、仁は、水を差し出してくれる。


「ありがと」

 受け取って水を飲む。

「……何か元気ない?」

 そう言って、仁がまっすぐに見つめてくる。

「え?全然。元気だよ」

 何言ってんの、と、笑って、水を飲み干して。
 コップを持って流しに向かうと。

「嘘ばっか」

 ぐい、と腕を引かれた。
 仁を振り返らされて、嫌でも正面から見つめあう。

「……なんか、無理やり笑うのとか、好きじゃないんだけど」
「そんな事してないよ。全然元気だし」

「――――」

 ……なんでバレるんだろ。
 今オレ、普通の顔してない? 普通にしてから、出てきたし。
 普通に返事もしてるし、普通に笑ってる、はずなのに。

 でも認めるわけにはいかない。


「全然、普通だよ?」
「……元気ならいいんだけど」

 言いながら、仁は少しムッとした顔のまま、オレの腕を離した。


「心配しすぎ。オレ、二年間、ずっと一人でちゃんとやってたんだからさ」
「――――」

「そんな心配してくれなくて平気だよ」

 笑って見せて、そのまま、コップを洗いに流しに立つ。


 ――――むしろ一人だった時のほうが 
 今よりは安定してた。泣いた事なんか、無かった。


「あ、そうだ」

 洗い終えた手をタオルで拭きながら、仁を振り返った。

「うん?」
 一応納得してくれたのか、さっきよりは普通の顔でオレを見返す。

「オレ、金曜、寛人と飲みに行ってくるね」
「そうなんだ。分かった」
「十九時から行くから遅くなると思う」
「うん」

「仁は明日からカフェのバイトだよね?」

「ん。そう」
「何時から?」
「明日は十六時から入って、店長に色々聞いてから、十七時から店に出るって。で、二十時まで」
「じゃあ夕飯、作って待ってればいい?」
「……うん」
「……うん」

 仁の答えに少し沈黙があったので、ふっと仁を見ると。

「彰、何作ってくれんの?」
「え。何だろ。まだ考えてない」

「一人でできる?」

 くす、と笑われて。

「つか、もうわりと色々出来るから。本あるし」
「そっか」

 仁がクスクス笑いながら頷いてる。
 オレは、キッチンの隅に置いてある料理の本を手に取ってめくり始めた。


「リクエストあるなら、聞くけど」
「んー……」

 近づいてきて、すぐ隣に立ち、本をのぞき込んでくる。

「――――」

 まだ、近づくと、香り、分かる、けど――――。
 不意打ちでなければ、大丈夫。……落ち着け。


「彰に任せていい?」
「……ん?」

「今特別ないから、彰が作りたいものでいいや」

 オレを見下ろして、優しく笑う。


 ――――ずき、と胸の奥が痛い。

 
 ――――これ以上、考えたくない。


 あの時と、同じ。 考えるのをやめた、あの時と――――。
 何も変わらない、自分が、情けないけど。

 もうこれ以上、何も、考えたくない。
 はっきりとした答えなんか、何も出したくない。


「じゃあ…… 美味いものつくっとく。 楽しみにしてて」

 平静を装って、笑顔で言うと。
 今度は仁に何も思われなかったみたいで。

 嬉しそうに、にっこり、笑ってくれた。
 ふ、とまた笑い返して、料理の本を持ったまま、仁の側を離れた。
 ソファに座って、本を眺める。


 仁は、テーブルで、今日貰ってきた道場の説明を、読み始めた。
 片肘をついて、静かに読んでる仁を、本越しに、視線を向ける。


  ――――兄弟でやりなおす。
 ……兄弟で。


 あんなに―――― キス……してたの……。
 何で思い出すかな。

 バカじゃねえの、オレ。




 ……ごめんな。今更、バカみたいに思い出して。

 ―――― ちゃんと、忘れるから。



 頭に、浮かべた事すら、
 今の仁を――――汚してるみたいな気がする。 


 ちゃんと、忘れて。
 ちゃんと、兄貴として

 ちゃんと、するから。


 全然目に入ってこない料理のページをただめくりながら。
 ゆっくり、息を、ついた。


感想 60

あなたにおすすめの小説

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

クズ彼氏にサヨナラして一途な攻めに告白される話

雨宮里玖
BL
密かに好きだった一条と成り行きで恋人同士になった真下。恋人になったはいいが、一条の態度は冷ややかで、真下は耐えきれずにこのことを塔矢に相談する。真下の事を一途に想っていた塔矢は一条に腹を立て、復讐を開始する——。 塔矢(21)攻。大学生&俳優業。一途に真下が好き。 真下(21)受。大学生。一条と恋人同士になるが早くも後悔。 一条廉(21)大学生。モテる。イケメン。真下のクズ彼氏。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
続編・番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。