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◇もったいない
しおりを挟む「……三上はそういうの、強そうだよね」
「ん?……何ですか? 強そう?」
「そーいう、やる気……」
「やる気って……変な言い方しないでくださいよ」
何だそれ。
苦笑いしてると。
テーブルにくったりしながら、先輩がオレを見つめてくる。
「……キスしたいなーとかも、昔は思ったのにさ」
「……思わないんですか?」
「うん。思わないんだよね」
「んー……」
「ああ、別に出来るんだけどさ」
聞いても、返事に困るって言ってたけど。
確かに何と言ったらいいか、分からない。
相手がいないとかなら紹介するとかあるけど。
モテるのにしたくないとか。
――――……うーん。
「……まあ。言っても仕方ないんだけどさ」
「確かに……そうですね。したくないんですもんね……」
「そうなんだよね。――――……でも、なんか枯れてるみたいで、やだ。オレまだ若いのに……」
「そうですね……って、先輩今いくつですか?」
「27……」
「……まあ、若い、ですよね」
「何。若くないと思ってる?」
何も言ってないのに、きっと睨んでくる。
「オレ何も言ってませんけど」
苦笑いで答えると、はー、とためいき。
「……三上ー」
「はい?」
「……眠い」
「――――……でしょうね」
ぷ、と笑ってしまう。
やっぱ、可愛い。
酔ってると、ほんと、可愛い。
普段の先輩は、可愛いってよりは、綺麗だし。ていうか、普通の人は、カッコいいと思うんだろうけど。
くてん、と柔らかい感じになってて、顔、とろんとしてて。
可愛いな。
あーもう、ダメだな。オレ。
――――……本当に、この人が好きみたい。
「先輩、歯、磨いて寝たら?」
「うん。……そーする」
立ち上がって、洗面台の方に消えていった。
――――……オレもみがこ。
少ししてついて行って、歯磨きをしてる先輩の前から歯磨きを取って、水に濡らす。
先に磨き終えた先輩が、先布団にいってるねーと、言いながらふらふら歩いていく。
磨き終えて、トイレを済ませて部屋に戻る。
「先輩、電気消します?」
「うんー……」
そんな声が聞こえたので、一番大きな電気を消して、端の小さな電気だけ残した。
布団の部屋に行くと、先輩が、布団に入らず、掛布団の上で俯せに倒れていた。
「先輩……布団入ったら?」
「うん、あとで……」
「このまま寝ちゃいそうですけど……」
「んー……」
絶対寝るだろ、これ。
隣の布団に座って、倒れてる先輩を眺める。
「――――……」
浴衣って。
――――……マジでエロい。気がする。
もったいないなー。
そういう魅力、すげえあるのに。
オレのやましい想いは置いておくとして、女だって、この人に誘われたら、全然オッケイだろうに。断る女なんて、居るか?
――――……キスもしたくないとか。
そう言う気にならない、とか。なんか、もったいない。
疲れてんのかな?
言っても仕方ないとか言いつつ、言ったってことは、やっぱり気にしてるんだよな。でも、機能が落ちてるとかならわかるけど、欲が無いって。どうにもできないんじゃねえ?
――――……まあきっと、結構酔ってるから言えたんだろうけど。
この人、明日になったら、これ話したの、覚えてんのかな……。
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