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◇可愛すぎるんだけど。
しおりを挟む「――――……あのさ、先輩」
「……うん」
「オレ別に、とんでもないことしたとか、思ってないんで、大丈夫ですよ」
「――――……」
「キスしてちょっと触っただけです。別に本番したわけじゃないですし」
「――――……え……そ、うなの?」
……そんな訳あるか! と突っ込みたくなる。
職場の先輩、しかも男にキスして、体に触れて、一緒に気持ちよくなるとか。普通なら、とんでもねーわ。
――――……オレがあんたを好きだから、出来ただけで。
普通なら、キスもしない。
あんなに仕事できるのに、なんでこんなとこ、抜けてんだ?
すげー心配になる。
「……あと、先輩」
「――――……」
ずっと俯いてる先輩の頬に触れて、顔を上げさせてみる。
嫌がられはせず、素直に上向いてくれた。
「オレ、あんたにキスしたかったし、触りたかったからしたんで。怒ってるとか、後悔してるとか、ないですよ」
「――――……」
「……それより、先輩は、嫌じゃなかったんですか?」
そう聞いたら。
オレを見上げたまま。かあっと赤くなった。
「……やじゃなかったし――――…… なんか、やばかった」
「やばかったって? どういう事?」
「……その気になんないとか……言ったくせに……ほんと、ごめん」
「……どうして謝るんですか?」
「だって、すぐその気になって、結局お前にあんな事させて」
「――――……させられた訳じゃないですって。したかったって言ってますよね、オレ」
「でも――――……ほんと、ごめん」
「――――……」
オレは、先輩の腕を軽くつかんで、引き寄せた。
「……謝られるの、嫌です」
「――――……」
「先輩は試したかっただけかもしれないですけど、オレは、先輩にキスしたかったからしたので。 謝られると、ちょっと傷つきます」
「――――……ごめん」
「……今のは何のごめんですか?」
「……謝って、ごめん、てこと」
素直な先輩に、はい、と頷いて。
手をそっと離した。
すると、先輩は、また少し俯いて。
「――――……オレ、試したかったのは最初だけで……」
そんな風に言い出した。
「……気持ちよかったから、やめさせなかった」
「――――……」
「だから、余計、ごめん、て思ってたんだけど……」
――――……なんでこう。
煽るような事、言うのかなあ……。
「先輩って、今――――……試しただけじゃなくて、オレとキスしたかったって、言ってます?」
「……ごめん」
「何でまた謝んの」
「あ、ごめん」
「だから――――……」
「んー、もう、なんか分かんないけど、全部ごめん!」
「――――……」
なんだかなあ。もう。
オレは、先輩の腕を掴んで、引き寄せて、至近距離から、見下ろした。
「陽斗さん」
「――――……っ」
敢えて名前で呼んだら。
先輩が息を飲むように、口を閉ざして、オレを、見上げたまま動かない。
「……謝んなくていいから。オレ、したくてしたんで」
「――――……」
「させたとか、もう言わないでよ。 つか、むしろ、無理やりされたとか思ってたらどうしようかと思ってた位なのに」
「――――……そんなの、言う訳、ない」
「そうなんですか?」
「だって……三上、オレの、試したい、を聞いてくれたんだし」
「聞いただけじゃないですよ。したかったからしたんです」
「――――……」
「……今も、キスしたいんですけど、オレ」
「――――……」
「……嫌ならしませんけど」
そう言って、少しの間様子を見ていたら。
先輩は。
「嫌じゃない、けど――――……ちょっと……考え、させて」
「……」
ぷ、と笑ってしまう
「ちょっとって?」
「――――……しばらく……考えて、いい?」
「はい」
オレは、先輩から手を離した。
嫌、じゃなくて、考えてくれるらしいから。
とりあえずそれでいい。
「……いいの? 三上」
「いいですよ。――――……今日、一緒に観光するでしょ?」
「……うん」
「そっち、楽しみましょう」
「――――……ん」
ホッとした顔を見せる先輩。
――――……別に追い込みたい訳じゃない。
なんか。
全部可愛くて、どうしようもないけど。
嫌なところを無理強いしたい訳じゃない。
「先輩、顔赤い」
赤い頬を撫でると。びく、と震えた先輩が。
「顔、先に洗ってきていい?」
「どうぞ」
頷くと、急いで消えていく。その後ろ姿を見ながら、何だかやっぱり可愛くて。
……逃げられたのになー。でも可愛いし。
どうしても、笑んでしまう。
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