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◇疲れた

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「パンフレット見せてください」

 先輩が、ケーキを食べてるのを見てると、変な気分になってきそうなので、先輩がウキウキ買ってたパンフレットを借りて、ぺらぺらめくる。

 観光名所、多いな。
 この辺で回るか、少し遠くまで行くか……どっちでもいいけど。


「先輩、他に行きたいとこありますか?」
「んー……静かな寺院とか、行きたいな。庭が綺麗なとことか」
「なるほど……」

 静かかどうかは分かんないけど、寺院はかなりある。
 有名なとこは混んでるのかな。土曜だし……。

 もう少し遅く来てれば、桜が綺麗だったろうけど。
 その頃はきっともっと人が多かっただろうし。

 てことは今はもしかして少し空いてる時期なのかなー……。
 なんて思いながら、パンフレットを眺めていると。


 視線を感じて、顔を上げた。
 目が合うと、先輩が固まる。

「……? どうしました?」
「……いや、別に」

「――――……」

 不思議に思いながらも、オレはまたパンフレットに視線を落とした。


「先輩、人力車とか、乗りたいです?」
「うん、乗れる場所が遠くないなら」

「ふーん……」

 ちょっと乗ってみたいかな。
 そしたら、それに乗って行けるとこ……。

「……」

 また視線を感じて、上向くと。まだバッチリ目があった。


「何で、三上、突然こっち向くの」

 そんな風に怒られる。意味不明。
 何でって。

「視線、感じるから。 何で見てるんですか?」
「いや。なんか……」
「なんか?」

「――――……顔、すげー整ってるなーと思って」
「――――……」

「下むいてると、余計なんかいつもと違う感じでみえるなーと思って、見てただけだよ」


 意味ない。
 のは分かってても――――……。


「先輩、オレの顔好きてこと?」
「――――……いや、べつ、にそういう……??」

 ち。この人。
 やっぱり何も考えずに言ってたな……。

 オレに聞かれて、そういう訳じゃないって言おうとしてから、あれ、そういうことなのかな、なんて。――――……狼狽えてるとしか思えない顔で、口元を手で隠して、横を向いてしまう。


「……先輩さ。もうちょっと考えて喋ってくれませんか」
「え?」

「――――……先輩は意味なく言ってる言葉でも、こっちは、めちゃくちゃ意識するんですけど。 ていうか、そんなの言われてたら、意識してなくても、意識し始めちゃうというか」
「――――……」


「……そんで。オレの顔、好きなんですか?」
「――――……」

「好きだから言ったんです? それともなーんも考えないで、整ってるなーていう、ただの感想? まあ。整ってるつーのは、嬉しくなくは、ないんですけど……」

 ふ、と息をついてしまう。
 困った顔してる先輩は、ふ、と顔を戻して、オレを見つめた。


「整ってるなっていうのは、初めて見た時から思ってたし。 志樹と2人で、迫力あんなーとも思ってたし……」
「……ただの感想ってこと?」

 まあ、そんな意味、無いか。
 ……ていうか、なんかもはや、惑わされてる気がしてきたけど。 

 オレが悪いの??


「――――……ただ……昨日めちゃくちゃ近くで顔見たから。なんか……改めて見ちゃってたというか……」

「――――……」

 

 昨日めちゃくちゃ近くで顔見た、って。それって。
 布団の上で?



「――――……っ」



 ……はー。
 もうオレ、反応、すんのやめよ。


 すげー疲れた……。


 オレは無言で、パンフを顔の前に立てて、肘をついた。完全に先輩から顔が見えなくして、しばらくそのまま、パンフを眺めた。

 先輩も、何を考えてるのか、何も言ってこない。


 しばらく2人で、無言で過ごした。







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