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◇マジで、何言ってンの。
しおりを挟む頭の中に、その言葉だけが延々回ってる。
◇ ◇ ◇ ◇
もう何も考えてなさそうなアホ発言に振り回される会話に少し疲れて、パンフを立てて、先輩から隠れた。
しばらく無言で。
その後もしばらく黙ってて。
……今何考えてるのかなあ。
――――……何も考えてねえかもな。
はーーーー。
パンフレット、めくってはいるけど、全然目に情報が入ってこない。
もう正直、観光地なんてどうでもいいレベル。
目の前の、この人に比べたら、もう何もかも、
興味の対象にならないような。
はーーーー。
すげえアホっぽいくせに――――…… すげえ煽ってきて。
でも気づかないで、きょとんとしてたり、狼狽えたりすんのが可愛くて。
――――……顔はめっちゃ綺麗なのに。
仕事、尊敬する位できんのに。
なんでこんな可愛い感じになるのかな。
卑怯だよな。ギャップ萌えって、こういうのの事を言うのか?
好き、と思ってしまったって、
もはやこんなの、オレのせいじゃない。絶対。
「――――……あのさ、三上」
なんか呼ばれてる。
でも今、顔見たくない。
「……三上」
持ってたパンフを下げられてしまった。
視線が合うと、ちょっと困った顔が可愛くて、思わずため息を付きながら「なんですか」と聞いた。
「怒ってんの?」
「――――……別に。怒ってはないです」
別に。怒ってる訳じゃない。
可愛いのが困るし、ちょっと疲れただけ。
「オレ、決まった」
「……何がですか」
意を決したように言うから、まっすぐ見つめ返して。
話を、聞いてあげたらなんと。
――――……もろに、全て、オレに投げてきやがった。
信じられない。
昨日良かっただの、今日もしたいだの、昨日ああなって、今日もああなるのか試したい、だの。
何が、という詳しい言葉を全部排除した上で、その癖に何でだか最大限にエロい感じの誘いを、オレに全部任せるなんて言って、ぶん投げてきた。
男、志樹の弟、後輩、悩んでるけど、任せる。
三上が出来るなら、三上に任せたい。
この人――――……。
マジで、何言ってんだろうか。
思わず口元を隠した手をそのままに、先輩をまっすぐ見つめる。
「――――……あのさ、先輩」
「……」
オレが静かに呼びかけると。
全部丸投げしてきたアホ先輩は。さすがにちょっと緊張した顔で、声は出さずに、頷いている。
「……オレと、最後までする気、あります?」
「――――……?」
怪訝な顔とか。嫌そうとか。戸惑ってるとかじゃなくて。
ただ無邪気に、んん?という顔で、首をかしげてる。
……ハムスターかなんかに、見えてきた。
「――――……」
なんか、こんな人に、こんな事を聞いてしまった自分に、
しばらく自己嫌悪に浸ってしまう。
なんでこんなハムスターみたいな人に、こんな事言ってんだ。
つか、そもそもこの人、直接的な表現、一切使わないって、どんだけ、ウブなんだ。
ああなった、あんなふうになった、とか曖昧だし。
良かった、とか。 何がどう良かったんだよとか。
――――……店だから? 外だから? でも別に誰も聞いてねえし。
きっと、口に出すのを避けてる。
「最後って、なに?」
やっぱり聞いてきた。
――――……だよな、絶対、昨日のが最後だって、思ってんだよな。今日も同じ事、すると思ってるんだよな。
そうだと思ったよ。
それ以上が出来るなんて、多分今までの人生、一度も考えた事ねえし、浮かばないんだよな。
…………つか、オレだって、初めて考えたわ!!
それでも、余裕で、浮かぶのに、何で、あんたには浮かばないの??
「――――……最後まで、セックス。出来ます?」
店員は奥に居るし、全然見えるとこ、聞こえるとこには居ないし、他に客は、奥に1組だけ。それでも、おもいっきり、小さな声でオレは言った。
のに。
「せっ――――……むぐ」
うわ!
思わず、身を乗り出して、先輩の口を塞いでしまった。
この人、今、びっくりしたまま、でかい声で言おうとした。
「っ馬、鹿なの? 先輩」
「あ、ごめん、びっくりして」
もう大丈夫、というので、手を離した。
ヤバいなこの人。
「……えっと……それって――――……」
真っ赤になったから、ようやく、意味は分かったみたい。
――――……このセリフ言われて、青くなって退かずに、真っ赤になって、そんな可愛い顔するって。ほんとヤバいな、この人。
「出来る……かな、オレ」
「……するのオレなんでしょ」
「でも――――……オレ、された事、ないけど?」
「――――……あったら、驚きますよ」
無いの分かってるって――――……。
もうがっくりと、倒れてしまいたい。
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