【愛じゃねえの?】~社会人*嫌いだったはずの先輩に恋する理由。攻めの後輩視点

星井 悠里

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◇すごく。

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 その後は普通に食事を取って、店を出た。
 京都の町を惜しみながら、ゆっくり歩いて、新幹線の時間に合わせて、ロッカーから荷物を取り出した。


「これで、京都、お別れかー」

 何だかしみじみ言いながら先輩がふ、と息を付いている。


「明日会社だな。金曜、仕事残してきちゃったし、忙しそうだな」
「そうですね」

 苦笑い。

「今日は早く寝ましょうね」
「ん、そうだな」


「一緒に寝ますか?」

 ふと、そう聞いてみたら、先輩は、マジマジとオレを見て。


「やだよ。寝ないし」
「何でそんな嫌そう……」

 くっと笑ってしまう。


「明日はちゃんと仕事モードになりたいから。朝からお前と一緒とか、無理」

 眉を寄せたまま、プルプル首を振りながら、そんな風に言う。


「ふーん……」

 今の先輩のセリフを、自分の中で考えてると――――……なんか、笑えてきた。

「何? 何で笑うんだよ?」
「だって、オレと朝から一緒だと、仕事モードになれないって事ですよね?」
「――――……」

 あ……と。今気づいたって顔して、俯いてしまった。


「朝から一緒だと、仕事モードになれなくて、どんな先輩になるのかなーて、色々考えちゃいますけど」
「――――……別に……普通、だし」

「じゃあ、一緒に寝ますか?」
「――――……寝ないからな、今日は」

「ふうーん」

 わざと伸ばして返事をしていると、先輩は嫌そうにため息。

「……普通の顔できる訳ないじゃん」

 ――――……あー。
 ほんと。



 ――――……かわいーな。先輩。



「いこ、三上。新幹線の方」
「……はい」

 もう前言撤回して、ここで、思い切り、抱き締めたいんだけど。
 


 新幹線のホームで、駅弁が売ってるのを見る。

「ちょっと食べたいですね、駅弁」
「でもなんか、さっき昼食ったよーな……その前スイーツ食ったし……帰ったら夕飯食べるんだろ? あ、夕飯を弁当にする?」

 先輩の言葉に。

 ん?そーすると、もう駅ついたらすぐ別れて帰るって事じゃん。
 無理無理。


「あ、やっぱり今腹減ってないんで。飲み物だけ買ってきます。何飲みます?」
「いいよ、オレ買ってくる。荷物見てて。コーヒー?」
「あ、はい」
「ブラック? アイスだよな?」
「はい――――……」

「ん、了解」

 先輩が頷いて、売店に歩いて行く。
 その後ろ姿を見ながら。


「――――……」

 コーヒー? ブラック? アイスだよな?
 ……って。確かにそれ、買おうと思ってたけど。

 会社でオレが良く飲んでんの。知ってんのかな。
 一緒に、あんまり飲んでないけど……外回りん時に飲んだことあったかな。


「ん、三上」
「……ありがとうございます、先輩」

「うん。あ、新幹線、来たよ」


 先輩が、笑顔でオレを振り返る。



 なんか。
 すごく、好きだなあ、と思って。



 ――――……人、今、居ない。新幹線が入ってきて、すーっと、通り過ぎていく。



 キス、したかったけど――――……。
 そっと、頬に、触れて。すり、と撫でた。

 新幹線が止まる前に、すぐに手は離した。



「――――……っ」


 びっくりした顔でオレを見つめた先輩は。
 一瞬で、かあっと赤くなって。


「つか――――…… キスされるより、恥ずいんだけど……」



 そんな風に言うから。
 何だか、ものすごく、可愛くて。 ふ、と笑ってしまった。

 




 
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