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◇我慢。
しおりを挟む服を脱いで、中に入ると、陽斗さんはちょっと目を逸らす。
……恥ずかしいのかなーと思うと、可愛く思えて。だめだこれ。我慢できるのか、オレ。……いや、するし。労わるって言っちゃってるし。
一歩入ったところから、葛藤の嵐だったけれど、何とか平常心を保つ。さっきシャワーは浴びてるので、ざっとお湯で流してから、バスタブの方を向いた。
分かってたけど、男二人で、並んで入れるほど広くはない。
「陽斗さん、改めて見るとすごく狭いですけど、オレ、どうやって入ります?」
「……いっこしかなくないか? 入る方法」
言いながら、陽斗さんは座ったまま前に進んで、背中側を開けてくれる。
……それしかないよなあとは思ったけど。これだとめちゃくちゃ後ろから抱き締めることになっちゃうけど。……まあでも前から抱き締める方がヤバいから、後ろからが、唯一の選択肢か。
陽斗さんの後ろから湯舟に入って座って、もうそうするしかなくて脚を開くと、その間にすぽ、と寄りかかってくる。
背中がオレの胸にあたってるけど、なんとなく腰から下部分は離れようとしてるみたいで、だいぶ前。
ぷ、と笑ってしまった。
「……なに?」
振り返った陽斗さんに、不審げに見つめられる。
「なんか微妙に下の方、離れてるから……」
「……っだって、くっついちゃうと、なんか……」
「うん。離れててくれた方が助かるかも」
「……そう言われるのも、どうかと思うんだけど……」
なんか恥ずかしそうにぶつぶつ言いながら、前を向いた陽斗さんは、膝を抱えるような感じで、ちょっと前に離れていった。
引き留めて抱き寄せたい気持ちもあるのだけれど、今それをすると、そのまま触っちゃいそうな気がして、とりあえず動かずにいると、少し離れた陽斗さんの背中が視界にモロ入ってくる。
――――……背中、綺麗だな……。
首筋と、後ろから見える、耳の辺り。あったまってるせいか、ちょっと赤くなってて。……なんか、かわいい。
お湯の雫って。
……こんなにそれだけでエロかったっけ?
首筋や背中を伝う雫にすら燃えそうで、思わず視線をそらしたところで、陽斗さんが、クスッと笑った。
「やっぱり、狭いね」
「……そう、ですね」
「男二人だもんなー」
「……ですね」
膝を抱えた感じのまま、ちら、と振り返ると、陽斗さんは、湯舟に張り付いてるオレを見て、クスクス笑った。
「……最大限離れてるって感じ」
「んーだって……くっついたらヤバそうで。もうちょっと、視覚が慣れたら、チャレンジしてみます」
「何だそれ……」
陽斗さんは、可笑しそうに笑いながら、また、前を向いた。
正直、開いた脚にどうしようもなくて触れてる部分だけだって、結構クるし。マジで落ち着け、オレ。
「……なんかさ」
「はい?」
「部長と話して、聞いたんだけどさ」
「何をですか?」
何だか陽斗さんの声が笑いを含んでいて、オレも思わず顔が綻ぶ。
「……京都行く時さ、部長の変なお願い、聞いてくれたんだって?」
「変なお願い?……あ」
「ボディーガードのつもりだった?」
「……あー。いや。そんなのほんとにあんのかって、思ってもいたんですけど……一応そのつもりもありましたけど」
「……部長は、三上が嫌そうだったら頼まないつもりだったみたい。普通に受けてくれたからそのまま頼んだって」
「そうなんですか。つか、言ったんですね、部長。秘密って言ってたのに」
苦笑いでそう言うと。
「仲良くなって帰ってきて良かった、とか言ってた」
陽斗さんはクスクス笑いながらそう言ってから、ふ、と息をついた。
「なんかさ。オレ、あんな態度でずっと来てたのに、そんな変なお願い聞いてくれたって話聞いたらさ」
「――――……」
「なんか……やっぱ、三上は良い奴だなー、て思って……」
何だかとっても恥ずかしそうな感じで、ぽつぽつと話す。
「オレ、お前にすごい、会いたくなったんだよね……」
そんなセリフが嬉しいし。
なんだかな。……もう、とにかく、すごく。可愛い。
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