「今日でやめます」*ライト文芸大賞奨励賞

星井 悠里

文字の大きさ
16 / 39

第15話 誰?

しおりを挟む

 昼食を終えて、ばあちゃんとオレは、早々に退散。他の人達は皆、仕事の続きらしい。
 オレ達は、来た道をのんびりと戻る。

「ああいうの、よく行ってたの?」
「明日行こうかなーっていう前日に連絡しとくの。そしたらご飯類だけ持ってきといてもらって、おかずを持ってくの」
「そうなんだ」
「作るのも食べてもらうのも好きだし……皆が材料、持ってきてくれるからね」
「うん……」

 確かに、なんか知らんが、庭先や玄関前に、色んなものがちょこちょこ積んである。

 ばあちゃんが作り始めたのが先なのか、差し入れが先なのか。
 分からない問いな気がする。

「ちなみに、先生が居たのは、体調管理がてら、よ」
「ああ……」
「そう、結構年寄りが多いからね。暑くなってきたし。往診の帰りとかに、顔出してくれるのよ、先生」
「……そっか」

 まあ結局オレのだし巻き食わなかったし。ムカつくけど。
 ……あんなところにわざわざ。……先生としては、良い先生なんだろうなとは、思ったりする。

「いい先生なんだよ」

 クスクス笑うばあちゃん。まあ。そうなんだろうけど。
 オレ的には微妙だが。

「あ。ばあちゃん、昨日の夜みたいな集まりは? よくやるの?」
「あんなに大人数は、月に一回とかかなあ……でも、何人かならよくあるかな。食べ物持ってきたりして、急に、だったりもするし」
「はー……すごすぎるね」

 しみじみ言うと、ばあちゃんは、そう? と笑う。

「集まるお家が無いのかな、都会は」
「……んー、まあ、一軒家よりマンションとかが多いとこに住んでたし……でも一軒家があっても、あんな風にひらけてないから。戸締りされて、入れる雰囲気じゃないよ。……ってまあ入ろうともしないけど。それに、むしろ窓が無いみたいな家が多いよ」
「窓がないの??」
「防犯。人が入れない位のサイズの窓でさ」
「へーーー……防犯……」

 呟いて、ばあちゃんが、クスッと笑う。

「田舎も、少しは気にした方がいいんだろうけどね、防犯」
「……そうだね……」

 いや、でもどうなんだろう、こんな駅から離れたへんぴなとこに来る泥棒か……。しかもこんなに人がおおっぴらに行き来してるところに入るのも結構大変そうな……。

「まあ、気を付けとくのはいいだろうけど……昨日みたいな時はあけっぱなしでも平気かもね」
「うん。そうね」
「都会と違いすぎて、別世界みたいだけど……」
「別世界かぁ……」

 オレの言葉に、ばあちゃんは楽しそうに笑った。

「ばあちゃんさ、あんまり食べてなかった?」
「そう?」
「うん。あんまり食欲ない?」
「暑いからかな……」
「あとでさっぱりしたものでも食べよっか……ゼリーとかある?」
「ゼリーはないかな……」
「……ていうか、ここら辺って、コンビニ……」

 言いかけて、無いか、とすぐ諦めると、ばあちゃんが笑った。

「うちから裏の方に十分位行けば、個人のお店だけど、色々売ってるとこ、あるよ」
「なるほど……」
「あと、週一回トラックが来てくれるんだけどね」
「トラック?」
「生鮮食品、お肉とか魚とか色々のせてきてくれて、そこで買えるの」

 へー、色々あるもんだなーと感心しつつ。
 何十、何百メートルおきにコンビニや薬局があってなんでも買えるところとは違うなあと、改めてしみじみ。

 ……自販機も、あんま無いしな……。

 まだ、来たの、昨日なんだけど。
 一日が、長いなあ……。

 のんびり歩いて、ばあちゃんちの家の前に近づくと、誰かが家の前に立っていた。
 つか、来客も、多い……。


「ばあちゃん、誰かいるよ」
「うん? ……ああ」

 立っていたのは若い男。何でかポメラニアンを抱っこしたまま、ばあちゃんちの前に居る。
 何の用なんだろう……。

「ばあちゃん、とりあえず、オレ先に入って、この中、片付けておくから」
 そう言って、先に入ろうと思っていた。その人に軽く挨拶して通り過ぎようとした瞬間。

「ああ、なんだ、畑に行ってたのか」

 ……ん? オレに言った? なんか顔の方向がこっち向いてたような。

 ふと、オレを見てるそいつと目が合う。

 また昔の知り合い? 
 誰だっけ、馴れ馴れしいな……??


「……お前、分かってねーだろ」

 呆れたような口調に首を傾げる。
 ……? 誰。つか、こんなイケメン、知らん。つか、ポメ、すげー可愛いけど。


「しんちゃん、綺麗になったね」

 そいつの前に立ったばあちゃんがクスクス笑って、そう言ったのを聞いて、しんちゃん……?? とさらに首を傾げる。しんちゃんて、昨日も聞いたけど。……しんちゃん……。

「…………慎吾??」
「おう」

 にや、と笑うこいつ。
 …………あ。唐突に、昔を思い出した。

 面影あるわ。この顔。
 なんか勝気な顔をした、えらそーな喋り方の幼馴染。

 昨日のナリだと、全く面影なくて、誰って感じだったけど。
 こっちの顔なら、まだ……。とそこまで考えて、眉がおもいきり寄った。

「いや、つーか、今日も、誰って感じなんだけど……なんなのその変身。」
「会ったろうが、昨日。分かれよ」

「全然違うわ!! 誰だよ!!」

 思わず叫ぶと、「ちょっと髪切って、ひげ剃ってもらっただけだけど。ね、ばあちゃん」 そう言う慎吾と、「そうだねえ。ちょっと綺麗になったよね」と笑うばあちゃん。

「あ、あと、シャワー直してもらったから、風呂入れた」
「ああ、良かったねぇ」

 ふふ、と笑ってる二人。

「大して昨日と変わってないよね、ばあちゃん」
「そうねぇ、言うほど変わってないかな?」


 ……この人達、目ぇ、どうなってんの。
 なんか、オレ、疲れてきた。





しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

おにぎり食堂『そよかぜ』

如月つばさ
ライト文芸
観光地からそれほど離れていない田舎。 山の麓のその村は、見渡す限り田んぼと畑ばかりの景色。 そんな中に、ひっそりと営業している食堂があります。 おにぎり食堂「そよかぜ」。 店主・桜井ハルと、看板犬ぽんすけ。そこへ辿り着いた人々との物語。

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。 「だって顔に大きな傷があるんだもん!」 体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。 実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。 寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。 スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。 ※フィクションです。 ※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...