「今日でやめます」*ライト文芸大賞奨励賞

星井 悠里

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第20話 新しい趣味?

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 翌日。
 ばあちゃんの往診があって、掃除とかが終わったちょうどその時。

「碧ー来いー」

 慎吾に連れ出されることになった。はー、とため息をつきながら、「ばあちゃん、行ってくるね」と、ばあちゃんに別れを告げる。今日は畑には行かないって言うので、慎吾に付き合うことにしたけど……。

「ほら。エプロン」
「……ほんとにオレやんの?」
「土こねこねしてるだけ、とか。認識の誤りを正せ」
「――――悪かったって」

「適当な謝罪はいらねー」

 聞きそうにないので、仕方なく、エプロンを首に掛けた。白いエプロン、慎吾もつけている。

「腕、まくっといて」
「んー……ポメ子はここでいいのか?」

「うち、ペットと一緒に陶芸体験、て日もあるくらいだから。結構人気だよ。なんでもペットと一緒にやりたい人って多いんだよ」

 へー。そうなんだ……。ペットと泊まれる宿とか、あるもんな。泊まってそのまま来んのかな。
 それから、土から空気を抜く作業が始まった。菊練りきくねりっていって、これだけで極めるのに三年って言われる作業らしい。正しくやれば菊の模様みたいになるってことでこの名前みたいだけど、全然そんな風にはならないし。土をこねるのって、かなり体力がいる。結局最後の仕上げは、慎吾にやってもらった。

「最初は簡単なの作るか……小鉢とかがいい?」
「ん」

 慎吾の真似をして、ロクロにのせて、形を整える。静かにロクロを回し始めると、土が動く。水をつけて、両手で土を包むと、なんか不思議な感覚。
 ゆっくり上下するように言われて動かすと、土が形を変えてく。……でもなんか全然思うようにいかないけど。
 見よう見まねで、形を整えて、土の真ん中に穴をあけると、なんか一気に、小鉢に見えてくる。

「おーなんか、これ、すげー」
「……ゆっくりな?」

 思わず楽しくなって慎吾を見上げると、慎吾は、可笑しそうに微笑んで、隣に立った。

「もう少し、こっち、押さえろ」

 慎吾のアドバイスを受けながら、だんだん整ってくのを見てると、なんだかすごく、楽しいかも、しれない。……でも思ってたよりも、難しい。

 ロクロが静かに回り続けていて、音はそれだけ。心地よく手に触れる土の感触。
 ……いいかも。これ。
 
 穏やかな時間が過ぎて、慎吾がロクロを止めた。

「このまま乾かす」
「どんくらい?」
「一日位。様子見ながら。そしたら、皿の下の、高台の部分を作ったり、模様を削ったりする」
「ん」
「で、また乾燥させる。色んなやり方があるけど、完全に乾燥させないと焼いた時にひび割れるから。で、乾かしたら、素焼きする」
「……どうやって焼くの?」
「素焼きは、800度くらいで四時間くらいかな。温度上げてまた二時間とか。で、また時間かけて冷ますって感じ。でまた、色々して本焼き」
「はー……」

 目の前の小鉢の形の土を、じー、と見つめてから、オレは、慎吾に視線を向けた。

「……楽そうとか言って、悪い」
「――ふ。焼くのもやろうなー?」
「それ、大変?」
「まあそれなりに」
「……ほんとごめん。もう言わない」

「ん」
 慎吾はくすくす笑って、頷く。

「つか。でも楽しいだろ、土いじり」
「土いじり。……そうだな、なんか無心になる。またやりたいかも。ばあちゃんに綺麗な皿、作れるようになりたい」
「教室の案内とか、手伝うなら、体験の横でやってて、いいよ」
「マジで? やるやる」

 なんか新しい趣味に目覚めそうな、そんな時間になった。


「ばあちゃん、ただいまー!」

 慎吾と別れて家に帰ると、ばあちゃんは、なんだか楽しそうに出迎えてくれた。

「楽しかったんでしょ」
 とズバリ言われて、なんだかちょっと気恥ずかしい。

「……思ってたのの、何倍も、面白かった」
「ふふ」

「それに、なんか……結構大変だった」

 ばあちゃんは、うんうん、と頷いて、笑う。

「ねー、だからたまに、しんちゃん、あんな感じになっちゃうのよねー」

 言って楽しそうに笑うばあちゃんに、ふと、初日の慎吾を思い出すと。


「いや、いくら大変でも、オレはアレにはならないと思うけど」

 そう言ったオレに、またばあちゃんが、ふふ、と楽し気に微笑んだ。
 








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