「今日でやめます」*ライト文芸大賞奨励賞

星井 悠里

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第21話 もう言わない

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 で、翌日。先生の往診が終わった後、昼には帰るから、とばあちゃんに言って、慎吾の元に向かった。
 いってらっしゃい、と、超笑顔のばあちゃんに手を振って。

「慎吾、居る?」

 陶芸教室の中に入ると、もういくつも席が準備されていた。
 
「お、ちゃんと時間通り来たか」
「約束したからな」
「偉い偉い」
「バカにしてんだろ」
「してねーって」

 面白そうにオレを見てから、「今日、英語しか話せないグループが居るみたいで」と、慎吾が苦笑い。

「慎吾、喋れんの?」
「英語は辛うじて、って感じ?」
「ふーん」

 頷いてるところに、外で車の音と、人の話し声。

「ぁ。来た。てことで、なんとなく、よろしくな!」
「なんとなくって……」

 苦笑してるオレに、「ぁ、エプロン、つけといて」と、新しいエプロンを放ってから、慎吾が迎えに出て行った。エプロンをつけて、腕まくりをしたところに、お客を連れて入ってくる。
 おお。ほんとだ。日本人カップル一組、日本人家族一組と、あとは外人の一家。子供が三人、結構なはしゃぎ具合で入ってきた。日本人の子供は割と静かに、中を見回している。

 慎吾の指示で、エプロンを付けたり、席に座ったり……の予定だが、外人の子供が座らない。部屋の中をあちこち見回って、なんだか騒いでいる。
 英語で母親たちが注意してるが、その注意もうるさい。

 ……んー。これはオレが注意していいのか?

 慎吾が色々説明してる間も、やかましいわ立ち上がってるわ。
 ……最初は、サポートだから口出ししない方がいいだろうと思ったんだけど。

 オレはそもそも、人の迷惑を顧みないタイプの、ガキんちょが、好きじゃない。
 それに……慎吾の作ったっぽい器とかも並んでる棚があるし、全然気にしないで動いているのは、無し、と判断した。

「碧?」 

 呼ばれて、オレは慎吾を振り返って、ちょっと頷いて見せた。任せろ、の意味を込めて。
 ウロウロしてる子供たちの前に、オレはしゃがみこんだ。

 フランス語、分かりますか? とフランス語で聞いてみた。そしたら、おもいっきり、きょとんとされた。外人一家全員、オレの言葉には全然反応せず、顔を見合っている。絶対通じてないなと判断の末。すう、と息を吸った。

「こんな神聖な雰囲気の場所に来て、座ることはおろか、黙って人の話を聞くこともできねーのか?」と、超にっこり笑顔で、しかも早口で言ってやる。

 人って。全然分からない言語でまくしたてられると、ちょっと焦る。特に子供は。フランス語の発音は、独特だし。案の上、この人今何て言ったの? みたいな困った顔で、引いた子供たちは、座ってる家族の元に戻っていった。

 オレは、外人一家に近づくと、今度は、英語で、「英語は通じますよね?」と聞いた。子供たちは、聞き慣れた言葉に、ほっとしたような顔でオレを見る。
 座りましょうか、と伝えると、大人しく座った。……多分もう一度さっきの言葉で話されたくないんだろうな。はは。よしよし。

「通訳するから。進めていいです」

 何となく今は先生の立場の慎吾に、一応敬語でそう言うと、慎吾は、「よろしく」と、ニヤッと笑った。
 なんか多分に色々含まれてそうな「ニヤッ」だったけど。何それ。オレが敬語使ったってだけじゃ、なさそうな……?

 なんか楽しそうな慎吾に、心の中で不思議に思いながらも。慎吾の言葉を英訳しながら、昨日習ったばかりの陶芸を人に教えるという、結構な荒行。
 まあでも実際ろくろを回し始めてからは、慎吾の手本を見よう見まねで頑張ってたから、なんとかなったけど。

 子供たちに、ポメ子が可愛がられてる時間や、お茶やコーヒーをふるまう時間を含めて大体二間弱。
 観光用のワゴンで、客は帰っていった。

「碧、サンキュ。助かった」
「どーいたしまして」

 結構疲れた、と苦笑したオレに。慎吾が口にしたのは、「おつかれさま」というフランス語。
 え? 咄嗟に、慎吾の顔を見やる。

「オレのじいちゃんがさー。フランス語話せる人でさ。まあまあ分かるんだよね。英語よりも分かる」
「――――」

 あ、それで、「ニヤッ」か。
 アレ、聞き取れてた訳か。……誰も分かんねーと思ってたのに。

 あー、と頷いていると。

「つか、おもしれーな、お前」

 ぽんぽん、と肩を抱かれる。

「あんときも、呟いたよな」
「あんとき??」

「来た初日の夜。遊ぶかどうかはっきりしろよってオレが言った時。今更……みたいなこと、言ったよな?」

 ……ああ。言った気がする。


「フランス語で文句や愚痴ったり、悪口言う癖、ある?」
「…………もう言わない」


 なんか気まずくて言うと、ぷは、と笑って、慎吾はバシバシオレの肩を叩いた。


「ほんと面白ろ。なあ、今夜、飲みに行こうぜ。温泉街の方。今の手伝いの礼、奢るから」
「……いーけど。ばあちゃんと夕飯食べてからな」

「オッケーオッケー」

 慎吾はオレから手を離すと、「昨日の小鉢、次の工程やってみる?」と言ってくる。

「絶対やる」
「はは。やる気ー」

「だって模様つけんだろ? 何にしようかな」
「絵とか得意?」

「得意……つか、好き。デザインすんのも、好き」
「へーいいじゃん」


 結局、それから夢中になって、気付いたら昼過ぎて、急いでばあちゃんちに、帰ることになった。
 なぜか慎吾とポメ子も一緒に。






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