【初恋よりも甘い恋なんて】本編完結・番外編中🍫バレンタインデー💖

星井 悠里

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1ミリ近づいて

「近付かない」*大翔

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「遅くまですみませんでした」
「うん。ていうか、オレが引き留めたような……?」

 クスクス笑いながら、玄関で見送る先輩。


「おやすみなさい」
「うん。おやすみー」


 先輩の家を出て。鍵がかかる音を聞きながら、自分の部屋の鍵を開けて、中に入った。

 鍵をトレイに置いて、電気をつけて部屋にあがって――――……。
 何となく、ソファに座った。


 ――――……この壁の向こうに、居るんだよな……。
 マジ、何なんだろ。今までそこでずっと過ごしてたなんて。


 本性隠す事だって、出来たのに、協定結ぼうとか意味わかんねー事言って。
 先輩と話して。

 でもなんか――――……話せば話すほど。
 所々、すっげえムカついて。

 ……嫌いなのかなぁ、オレ。


 無意識に、見破ってくるしな。
 苦手なんだよな、きっと。

 ゲイで男に抱かれてるとかも……なんか許せねえし。
 ――――……嫌なのかもな……。


 だったら、別に、これ以上近づかなければいいだけだ。

 今までと同じように。


 学年も違うし、ゼミも、何だかんだ割と人数もいるから、話さなくたってどうにでもなる。発表したり討論の時は、お互い今までだって問題なくやってたし。


 話したり、色んな顔を見てると、モヤモヤするし、ムカムカするし。
 ――――……よく分かんねえけど、近づかないのが、一番な気もしてきた。


 ……協定は結んで、先輩はそれにこだわってるみたいだったから、ばらしたりはしないだろう。今日も何度か、「協定結んだしな」とか、笑顔で言ってた。


 とりあえずオレは、お前の素がどんなでも、居るから安心して。

 先輩のその言葉が、不意によみがえった。


 何だそれ。
 居るからって――――……いつまで居る気?

 どうせ、あと3年で、あの人は卒業。


 ……その間だけ――――…… 素を出せないオレと、居てあげようって事?

 別にオレ。
 ……あんた居なくても、平気だしな。

 もう、慣れてるし。
 言いたい事言わないのにも。


 やっぱ、これ以上近づかない。

 隣でも会った事も無いし。多分、これからもそうだ。
 学校でも絡みはしない。ゼミと……あと数えるほどしか同じ授業は取って無いし、取ってたって、オレらは別の友達と居て、絡まないで来た。


 そのまま、過ごそう。


 そう決めて、ソファから立ち上がる。
 歯を磨いて、もう何も考えずに、ベットに入った。 



 翌朝。割と早く目が覚めた。
 何だかものすごくいい天気。

 顔を洗って、歯を磨いて、軽く食事。
 洗濯機を全自動で回してからふと。

 ――――……布団干そ。

 ベランダにつながる大きな窓を開けて、布団を干す棚を広げる。
 掛け布団をそこに引っ掛けて、ふ、と息を付く。


 窓の端に、スリッパをはいたままで、腰を下ろす。


 ゼミの宿題、今日やるか――――……。
 別に金曜までにやればいいわけだし。今日は誰か誘うかなー。


 そんな事を思いながら、空を見上げていたら。
 隣で、窓が開く音がした。


 ――――……先輩か……。
 今起きたのかな。

 わざわざ、身を乗りだして覗きこまない限り、隣のベランダは見えない。

 そのまま、静かに、やり過ごす事にした。

 

「すっげー。良い天気……」


 先輩の声がする。


「――――……」
 
 独り言、でか…。
 ふと、笑ってしまう。それにすぐ気が付いて、口元を引き締めた。



「よ、い、しょ……って………う、わ、なに――――……」

 なんか微妙な声と音。


「――――……」

 おそらく。布団か何かを運んできて。こけた、てとこかな……。
 なんだそれ……。


「いっ、た……っと……わっ」


 ……がしゃん。なにか。割れた音。

「……ひゃー……」

 そんな声がして、しばらくして、割れたものを集めてる音。


 手、切んなよ………。

 思ってしまった瞬間。


「い、……った……」


「――――……」


 イライラする。
 もう何な訳。



 はー、とため息とともに立ち上がった。


「……先輩」



 少しだけ聞こえたのか。先輩は、急に静かになった。気のせいか、呼ばれたのか、確かめようとしてるんだろうか。


「……雪谷先輩」

 先輩のバルコニーとの境にある板をコンコンと叩いた。


「四ノ宮?」
「……大丈夫ですか?」

「う。ん。おはよ。……ていうか。聞こえてた?」
「――――……先輩が漫画みたいにドジなのは分かりました」

 そう言ったら。


「違うよ、真斗が泊まった布団を干そうと思ったら、 布団干しのネジが外れて、なんかぐしゃって崩れてさ、それはよかったんだけど、それで布団を持ち上げたら、ちっちゃいプランターを引っ掻けちゃったみたいで、割れちゃって…………んで、片付けようとしたらちょっと……」


 全部黙って聞いていたが。


「ネジが飛んだとこまでは事故ですけど、それ以降はただのドジですよね……どれくらい切りました?」

「……ちょっと」
「血は?」
「……ちょっとだけ」
「薬はあります?」
「ばんそーこーはある」


 ため息をついてしまう。

 しかもこの言い方。
 ちょっとじゃねーんじゃねえの。


「そっちいっていいですか?」
「――――……大丈夫だよ、ばんそーこーはっとけば」


「薬あるんで、持って行きます」
「……うん」


 サンダルを脱いで部屋に上がり、葛城が置いて行って一度も使っていない救急箱を持って、家を出た。


 





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