「推しは目の前の先輩です」◆完結◆

星井 悠里

文字の大きさ
39 / 113
第二章

第13話 星空の下

しおりを挟む



「なんか、それ……すごく、嬉しい、ですね」

 心の中はもう、ダンスでも踊りまくってるような気分なのだが、これを出したらまた気持ち悪いだろうと思い、なるべくゆっくりと、そう言うと、先輩はオレを見て、はは、と笑う。

「宮瀬の、そういう感じが、すごく楽」
「そういう感じ、ですか?」
「ゆるーい感じ」

 先輩はクスクス笑って、オレを見つめる。

「にしてもさ、イベントの話が来るのも、宮瀬が作るものが可愛いからじゃん? なんか、世に認められるっていうかさ。宮瀬がずっと頑張ってきたものが、なんかそういう風になっていくのってすごくない?」
「……そう言ってもらえると、嬉しいです」
「うん。オレもなんか、嬉しい」

 ……もう。なんて良い人なんだ。ミカエル先輩。
 知り合えてよかった。話ができるようになって、良かった。

 「先輩くん』を先輩の前で落とした時は、消えることすら覚悟したけど。本当に人生って、何がどう転がるか、分かんないな。

「先輩って本当に優しいですよね」
「何、急に」
「先輩が、あの時、オレのぬいを気持ち悪いって言わずに受け入れてくれたから、オレは今も、色々作ったりできてるし、サークルでも、楽しんでいられるんだと思います。なんかほんと……全部先輩のおかげですよね」
 そう言ったオレに、先輩はクスッと笑って、首を振った。

「宮瀬が頑張ってるからだよ……カレー作ってる時、めっちゃモテてたじゃん?」
「あれは器用って言われてただけですけど。囲まれてて、死にそうでした」

 そう言ったら、先輩は、あは、と苦笑してる。

「手先が器用って言われてるの聞こえてさ。オレ、言いたかったもん。めっちゃ器用なんだよって。可愛いぬいとかも作っちゃうんだよって。なんかオレが自慢したかった」
「いや、なんか……ありがとうございます」

「まあ何でオレが自慢すんのって感じだから、我慢したけど」

 マジでいい人。好き。シンプルにそんな風に思う。
 ふ、と静かな間があいて、バンガローの方を振り返った。

「――そろそろ戻ったほうがいいですかね……」

 ずっとここに二人で居たい気分だけど。一応、聞いてみる。

「うん……そだね」

 言いながらも、なんだか戻ることに乗り気じゃないぽい気がする。

「でも、もう少し、星を見てても良いですよね」
「……そうだね」

 ふふ、と笑った先輩に、正解だった気がして、顔が綻んでしまう。

「あのさ、実はさ――あ。ごめん、今から話すこと、内緒にしてくれる?」

 そんな前置きに、オレは先輩をじっと見つめる。

「あの……オレが先輩の秘密を誰かに漏らすことはありえないです」
「え? 何それ?」

「オレのぬいの秘密を守ってもらってるので、オレが先輩を裏切ることは絶対にないです」

 安心してもらうために言ったら、先輩は、一瞬きょとん、とした後。
 あはっと笑い出して、おかしそうに、口元に手を当てる。

「そっか。じゃあ、安心して話すね」
「はい、どうぞ」

「オレさぁ。前も少し言ったけど、騒ぐのとか、はしゃぐのも、そこまで得意じゃないんだよね」
「え……そう、なんですか?」

 オレの返事に、先輩はクスッと笑った。

「意外?」
「そう、ですね。このサークル、陽キャ集団だと思ってますけど……先輩はいつもそのど真ん中にいるので」
「確かに居るけど、でも実際騒いでるのは、オレの周りじゃないかな」
「――そう、いえば……」

 そうかも、と思った。
 先輩は騒いでなくて、笑顔でいるだけかもしれない。

「多分オレ、中身は陽キャじゃないから。多分、これを皆に言っても、またまたーとか言われて終わるんだけどさ」

 ふふ、と先輩は笑う。
 そっか。そういえばさっき、結愛も言ってたな。陽キャだって疲れるとか。

「先輩って、どこにいても目立つし。キラキラしててカッコいいですし。皆が憧れてるし、好かれてるし」
「え。なになに。突然の褒め殺し?」

「声もよく通るし、楽しくて明るいこと言うから、皆が乗るし……まあとにかく大人気すぎるって、ほんと思うんですけど」

「ほんとなに、宮瀬?」

 先輩がめちゃくちゃ苦笑してるけど。

「でも……とりあえずオレは、先輩が、たまに疲れたり。たまにのんびりしたくなるっていうのは、知ってるので。なので、オレのとこに来てくれたら――こんな感じで話すので良いなら……癒せる限り癒しますね……?」

 オレが一生懸命考えていった言葉を、先輩は途中から黙って聞いていた。
 オレが言い終えて、先輩を見つめると、先輩は、は、と笑って。

「……うん。ありがと」

 先輩は何度か小さく頷くと、少し慌てたように、星を見上げて黙っていた。
 オレとは視線を合わせない。……照れてる? オレ、なんか恥ずかしいこと言ったかな? ……言ったかも?

 なんだか、オレまで少し焦る。
 と、そこへ。

「あ、居た居た~」

 後ろからそんな声が聞こえてきて、数人の足音が近づいてくる。
 振り返ると、何人かがこっちに向かって歩いてくる。

「戻ってこないからさ~そろそろ星空見ようって」
「何話してんの?」

 陽キャさんたちに囲まれた瞬間、先輩と二人きりの、楽しくて幸せな非日常な空間は終わってしまった。

 囲まれた先輩は、いつも通り楽しそうに話してるように見える。無理してるようには見えない。でも、内緒、なんて話すくらいには、少しは疲れることもあるんだろうと思った。

 オレはというと、めっちゃ囲まれながらの会話は、もう一瞬でどっと疲れる。
 多分この疲れは、先輩の比じゃ無い。それでもなんとか、頑張った。


 結局、そのあとは二人きりで話せるチャンスはなかったけど。
 星の下で、十五分くらいは、先輩と話せた。その時間だけでも、この合宿、参加して良かったな。


 ―――本当に、楽しい時間だった。







しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

僕の目があなたを遠ざけてしまった

紫野楓
BL
 受験に失敗して「一番バカの一高校」に入学した佐藤二葉。  人と目が合わせられず、元来病弱で体調は気持ちに振り回されがち。自分に後ろめたさを感じていて、人付き合いを避けるために前髪で目を覆って過ごしていた。医者になるのが夢で、熱心に勉強しているせいで周囲から「ガリ勉メデューサ」とからかわれ、いじめられている。  しかし、別クラスの同級生の北見耀士に「勉強を教えてほしい」と懇願される。彼は高校球児で、期末考査の成績次第で部活動停止になるという。  二葉は耀士の甲子園に行きたいという熱い夢を知って……? ______ BOOTHにて同人誌を頒布しています。(下記) https://shinokaede.booth.pm/items/7444815 その後の短編を収録しています。

【完結】Ωになりたくない僕には運命なんて必要ない!

なつか
BL
≪登場人物≫ 七海 千歳(ななみ ちとせ):高校三年生。二次性、未確定。新聞部所属。 佐久間 累(さくま るい):高校一年生。二次性、α。バスケットボール部所属。 田辺 湊(たなべ みなと):千歳の同級生。二次性、α。新聞部所属。 ≪あらすじ≫ α、β、Ωという二次性が存在する世界。通常10歳で確定する二次性が、千歳は高校三年生になった今でも未確定のまま。 そのことを隠してβとして高校生活を送っていた千歳の前に現れたαの累。彼は千歳の運命の番だった。 運命の番である累がそばにいると、千歳はΩになってしまうかもしれない。だから、近づかないようにしようと思ってるのに、そんな千歳にかまうことなく累はぐいぐいと迫ってくる。しかも、βだと思っていた友人の湊も実はαだったことが判明。 二人にのαに挟まれ、果たして千歳はβとして生きていくことができるのか。

無口なきみの声を聞かせて ~地味で冴えない転校生の正体が大人気メンズアイドルであることを俺だけが知っている~

槿 資紀
BL
 人と少し着眼点がズレていることが密かなコンプレックスである、真面目な高校生、白沢カイリは、クラスの誰も、不自然なくらい気にしない地味な転校生、久瀬瑞葵の正体が、大人気アイドルグループ「ラヴィ」のメインボーカル、ミズキであることに気付く。特徴的で魅力的な声を持つミズキは、頑ななほどに無口を貫いていて、カイリは度々、そんな彼が困っているところをそれとなく助ける毎日を送っていた。  ひょんなことから、そんなミズキに勉強を教えることになったカイリは、それをきっかけに、ミズキとの仲を深めていく。休日も遊びに行くような仲になるも、どうしても、地味な転校生・久瀬の正体に、自分だけは気付いていることが打ち明けられなくて――――。

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

三ヶ月だけの恋人

perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。 殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。 しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。 罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。 それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

処理中です...