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第二章
第13話 星空の下
しおりを挟む「なんか、それ……すごく、嬉しい、ですね」
心の中はもう、ダンスでも踊りまくってるような気分なのだが、これを出したらまた気持ち悪いだろうと思い、なるべくゆっくりと、そう言うと、先輩はオレを見て、はは、と笑う。
「宮瀬の、そういう感じが、すごく楽」
「そういう感じ、ですか?」
「ゆるーい感じ」
先輩はクスクス笑って、オレを見つめる。
「にしてもさ、イベントの話が来るのも、宮瀬が作るものが可愛いからじゃん? なんか、世に認められるっていうかさ。宮瀬がずっと頑張ってきたものが、なんかそういう風になっていくのってすごくない?」
「……そう言ってもらえると、嬉しいです」
「うん。オレもなんか、嬉しい」
……もう。なんて良い人なんだ。ミカエル先輩。
知り合えてよかった。話ができるようになって、良かった。
「先輩くん』を先輩の前で落とした時は、消えることすら覚悟したけど。本当に人生って、何がどう転がるか、分かんないな。
「先輩って本当に優しいですよね」
「何、急に」
「先輩が、あの時、オレのぬいを気持ち悪いって言わずに受け入れてくれたから、オレは今も、色々作ったりできてるし、サークルでも、楽しんでいられるんだと思います。なんかほんと……全部先輩のおかげですよね」
そう言ったオレに、先輩はクスッと笑って、首を振った。
「宮瀬が頑張ってるからだよ……カレー作ってる時、めっちゃモテてたじゃん?」
「あれは器用って言われてただけですけど。囲まれてて、死にそうでした」
そう言ったら、先輩は、あは、と苦笑してる。
「手先が器用って言われてるの聞こえてさ。オレ、言いたかったもん。めっちゃ器用なんだよって。可愛いぬいとかも作っちゃうんだよって。なんかオレが自慢したかった」
「いや、なんか……ありがとうございます」
「まあ何でオレが自慢すんのって感じだから、我慢したけど」
マジでいい人。好き。シンプルにそんな風に思う。
ふ、と静かな間があいて、バンガローの方を振り返った。
「――そろそろ戻ったほうがいいですかね……」
ずっとここに二人で居たい気分だけど。一応、聞いてみる。
「うん……そだね」
言いながらも、なんだか戻ることに乗り気じゃないぽい気がする。
「でも、もう少し、星を見てても良いですよね」
「……そうだね」
ふふ、と笑った先輩に、正解だった気がして、顔が綻んでしまう。
「あのさ、実はさ――あ。ごめん、今から話すこと、内緒にしてくれる?」
そんな前置きに、オレは先輩をじっと見つめる。
「あの……オレが先輩の秘密を誰かに漏らすことはありえないです」
「え? 何それ?」
「オレのぬいの秘密を守ってもらってるので、オレが先輩を裏切ることは絶対にないです」
安心してもらうために言ったら、先輩は、一瞬きょとん、とした後。
あはっと笑い出して、おかしそうに、口元に手を当てる。
「そっか。じゃあ、安心して話すね」
「はい、どうぞ」
「オレさぁ。前も少し言ったけど、騒ぐのとか、はしゃぐのも、そこまで得意じゃないんだよね」
「え……そう、なんですか?」
オレの返事に、先輩はクスッと笑った。
「意外?」
「そう、ですね。このサークル、陽キャ集団だと思ってますけど……先輩はいつもそのど真ん中にいるので」
「確かに居るけど、でも実際騒いでるのは、オレの周りじゃないかな」
「――そう、いえば……」
そうかも、と思った。
先輩は騒いでなくて、笑顔でいるだけかもしれない。
「多分オレ、中身は陽キャじゃないから。多分、これを皆に言っても、またまたーとか言われて終わるんだけどさ」
ふふ、と先輩は笑う。
そっか。そういえばさっき、結愛も言ってたな。陽キャだって疲れるとか。
「先輩って、どこにいても目立つし。キラキラしててカッコいいですし。皆が憧れてるし、好かれてるし」
「え。なになに。突然の褒め殺し?」
「声もよく通るし、楽しくて明るいこと言うから、皆が乗るし……まあとにかく大人気すぎるって、ほんと思うんですけど」
「ほんとなに、宮瀬?」
先輩がめちゃくちゃ苦笑してるけど。
「でも……とりあえずオレは、先輩が、たまに疲れたり。たまにのんびりしたくなるっていうのは、知ってるので。なので、オレのとこに来てくれたら――こんな感じで話すので良いなら……癒せる限り癒しますね……?」
オレが一生懸命考えていった言葉を、先輩は途中から黙って聞いていた。
オレが言い終えて、先輩を見つめると、先輩は、は、と笑って。
「……うん。ありがと」
先輩は何度か小さく頷くと、少し慌てたように、星を見上げて黙っていた。
オレとは視線を合わせない。……照れてる? オレ、なんか恥ずかしいこと言ったかな? ……言ったかも?
なんだか、オレまで少し焦る。
と、そこへ。
「あ、居た居た~」
後ろからそんな声が聞こえてきて、数人の足音が近づいてくる。
振り返ると、何人かがこっちに向かって歩いてくる。
「戻ってこないからさ~そろそろ星空見ようって」
「何話してんの?」
陽キャさんたちに囲まれた瞬間、先輩と二人きりの、楽しくて幸せな非日常な空間は終わってしまった。
囲まれた先輩は、いつも通り楽しそうに話してるように見える。無理してるようには見えない。でも、内緒、なんて話すくらいには、少しは疲れることもあるんだろうと思った。
オレはというと、めっちゃ囲まれながらの会話は、もう一瞬でどっと疲れる。
多分この疲れは、先輩の比じゃ無い。それでもなんとか、頑張った。
結局、そのあとは二人きりで話せるチャンスはなかったけど。
星の下で、十五分くらいは、先輩と話せた。その時間だけでも、この合宿、参加して良かったな。
―――本当に、楽しい時間だった。
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