学内格差と超能力

小鳥頼人

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1巻 学内格差編

第8話 ①

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 現在の時刻、正午過ぎ。
 今日は星川さんとのデート当日だ。
 寝癖、よし。服装は――今までファッションなんて気にしなかったからなぁ……なるようにしかならない。
 ひとまずこれで準備完了だ。
 自宅から荒木台あらきだい駅までは徒歩で約二十分、バスなら五分弱。
 俺はいつも軽い運動がてら歩きで駅まで向かっている。バスはお金がかかるので大荒れの天候でもなければ基本使わない。
 予報では今日の天気は曇り。
 既に空は灰色に包まれており、雲行きは怪しい。降水確率は二十%なので大雨の心配はないとは思うけど、念のため折り畳み傘を鞄に忍ばせておいた。
 駅までの道程みちのりはほぼ平坦で、住宅街から出れば一本道なので楽だ。
 ただし大通りに入ると信号が多く、最低でも二回は赤信号で立ち往生させられるのがネックだ。
 アニメソングを聴きながら歩いていたので別段退屈することもなく駅前に到着できた。
 約束の時間は午後一時。
 俺は三十分以上前に到着したのでだいぶ時間に余裕がある。
 まとめサイトでも閲覧して時間を潰すか――

「高坂君、お待たせ」

 スマホからネットに接続したと同時に澄んだ声が俺の耳に届いてきた。
 視線を送ると、そこには白とグレーのギンガムチェックのワンピースにエメラルドグリーンのカーディガンをまとい、中に何かが入ってそうな楕円形が特徴的なペンダントをつけた星川さんの姿があった。
 今しがた駅に到着した電車に乗っていたようだ。
「こ、ここここんにちは、ほ、星川さん。は、早かったね」
 豊原並みのどもりを展開してしまった。のっけから盛大に失敗。
「高坂君こそずいぶん早いね。ふふっ、なんだか嬉しいな。遊べる時間が増えた♪」
 この微笑みは反則すぎるよ。天候は曇りなのに、太陽が視界に入ったかのように目が眩しい。
 口に手を当てて微笑む星川さんはまさに天女そのものだった。
「そ、その……ふ、ふく……」
「うん? どうしたの?」
 星川さんは小首を傾げて俺の言葉を待ってくれているが。
「な、なななんでもないよ!」
 俺はそれ以上言葉を紡げなかった。
 イケてるメンズなら、ここで星川さんの私服を褒める言葉がポンポン出てくるのだろうけど、イケてない俺は気恥ずかしさで口にできなかった。
「それで、ど、どこに行こうか?」
 思いっきり声がうわずってしまった。
 行先を決めるのは男の仕事だとは思うけど、誘ってくれたのは星川さんだ。彼女の中でリクエストがあるかもしれない。
 そう思って訪ねてみたんだけど、
「うーん……私から誘っておいて何も考えてなかったんだよね、ごめんね」
 星川さんも俺と同様ノープランだったらしい。
「そ、そっか」
 星川さんを困らせるわけにはいかない。
「じゃ、じゃあ、とりあえず! その辺をウロウロしてみようか!」
「そうしよっか」
 駅前近辺にはそれなりに娯楽施設があるので、ぶらぶらしていればデートを楽しめる場所の一つくらいは発見できるはず。
「松本君から聞いたよ。GW明けに勝負事をするんだってね」
 星川さんの口から来週の勝負の話題が出てきた。
「う、うん」
 あの件は歩夢の耳にも入っていたのか。
 考えてもいなかったけど、今回の件って既に周りに広まっていたりして。
 だとすれば好都合だ。できるだけ噂が拡散した状況下で1科に勝てれば大きいアピールになる。
「あ、あのね――ううん、なんでもない。勝負、頑張ってね」
 星川さんは何やら言い淀んでしまった。
 なんだろう、難しい顔をしていたような。
「――おっ」
 星川さんから前方へ視線を戻すと、ゲーセンが視界の端に入った。
「星川さんは普段ゲーセンに行ったりする?」
「うーん、ほとんど行かないなぁ」
 そんな気はしてた。星川さんにゲーセンのイメージは湧かない。
「あそこゲーセンなんだ。よかったら遊んでみない?」
「そうだね。せっかくだし行こっか」
 初めてのデートの遊び場がゲーセンとは微妙だけど仕方がない。他に星川さんが喜びそうなものは分からないし。
 自分の不甲斐なさを心中で嘲笑しつつ、星川さんと連れ立ってゲーセンへと入った。

「うわー、相変わらず音がうるさいなぁ」
 ゲーセンあるある、ゲーム機の音のデカさ。
「星川さんは大丈夫?」
「う、うん。じきに慣れると思うから――あ! あれは」
 星川さんの熱い視線の先には、一台のクレーンゲームがあった。
 プラスチックの箱の中には、可愛らしいぬいぐるみの数々が無秩序に置かれている。
「気になるぬいぐるみでもあった?」
「このリスちゃんっ! はぁ~、可愛いよぉ~」
 星川さんは今にもとろけてしまいそうな、とてもうっとりした破顔一笑はがんいっしょうする。
「星川さんは可愛いもの好きだったりする?」
「はっ――! 私ったらまた……好きだよ。ほんのちょっとだけね!」
 ちょっとどころか、好きで好きでたまらないかのような反応だったとは絶対に口にしない。
 星川さんをご乱心させたリスのぬいぐるみはゲーム機の開口部から遠く、またアームで掴もうにも難しい位置にある。相当な腕がないと、ちょっとやそっとでは取れない。
 だけどあんなにもの欲しそうにしていた星川さんを見て、「他も見てみようよ」なんて空気読めないことなど言えるもんか。
「チャレンジしてみるか」
 百円硬貨二枚を投入口に入れる。
 性別不詳のリスの脇腹を狙ってクレーンを操作し、アームを降ろす。
 俺も普段ゲーセンには行かず、ましてやクレーンゲームは素人だ。取れる自信は皆無だけど、可能性はゼロではない。
 人生、何が起こるかはやってみなければ分からないんだ!
「頼む――――あっ」
 アームはぬいぐるみに触れもせず、虚しく空振りをして開口部の上へと移動した。
 あちゃー。完全に狙いを外してしまった。
 その後も何回かチャレンジしたものの、結果は惨敗に終わった。
「ごめん。大失敗だったよ」
 俺は肩をすくめた。
「ううん。私のために頑張ってくれたんでしょ? ありがとう」
 姿勢を戻して星川さんを見ると、俺の目を見て微笑みかけてくれていた。
 ――のも束の間、眼光鋭くクレーンゲームを睨んで、
「次は私の番だね」
 五百円硬貨を入れてクレーンの操作をはじめた。
「あっ! また失敗した……っ!」
 リスへの執着心は相当で、十回以上プレイしたものの結局獲得には至らず。
「はぁー悔しいっ! 悔しいけど、今日のところは諦めてあげよう」
 星川さんは頬を膨らませて恨めしそうにリスのぬいぐるみを見つめていた。
 あんなに欲しそうな表情をしていたのに……。
 よし、あのリスは近いうちに必ず捕獲しよう。俺なんかに時間を割いてくれている星川さんへ感謝の気持ちとして渡すんだ。
「あ! あれって太鼓を叩いて点数を稼ぐゲームでしょ?」
 俺が密かな決意を固めたことなどつゆ知らず、星川さんは二張にちょうある太鼓を指差した。
「そうだよ。『太鼓も素人』ってゲームだ」
「高坂君はやったことある?」
「何回かは」
 情けない話だけど、残念ながら俺は太鼓ゲームの実力も素人レベルだ。
「一緒にやってみない?」
「はっ! はひっ!」
 ほ、星川さんと二人仲良く協力プレイ、だと――?
 二人一緒にいる時点でも危ないのに、そんなところを1科の顔見知りに見られでもしたら確実に狩られるだろう。
 けど今だけは構うもんか。神様が俺に与えてくださったこの幸福なひとときを目一杯堪能したい。一生記憶から欠落しないように。
 一応は周りを確認しておこうかな。ここは俺の地元だし、知り合いがいる可能性は決して低くはない。
 クレーンゲームの最中はリスのぬいぐるみで頭がいっぱいだったけど、この状況下での油断は死に直結する。
 軽く周りを見回すと――――
「――――――!」
 …………黒ニット帽に黒サングラス、そして黒マスクをつけたあからさまに不審な人物が、俺と視線がぶつかった瞬間に身体ごと別の方向に逸らした。
(うーん?)
「………………」
 視線を移動するフリをして何度かその人を見てみると、俺と視線が合うと顔を逸らし、俺が顔を少し背ければガン見してくる。
 むむむ、気になる。
「どうかしたの?」
 挙動不審な俺の行動に星川さんが不思議そうな視線を送ってくる。
「な、なんでもないよ」
「そう? じゃあはじめよっか。曲はどれにする?」
 星川さんからバチを受け取る。ゲームは選曲画面が表示された状態だ。
「いつの間にお金を……俺が出すのに」
「いいの。さっきは私のために使ってくれたじゃない。今度は私の番」
 星川さんにお金を払わせるわけには――でも、厚意を無碍にするのも失礼な話だよね?
「あ、ありがとう。ならせめて、選曲は星川さんの好きな曲で」
「いいの? じゃあお言葉に甘えさせてもらうね」
 星川さんが選んだ曲は有名アーティストの名曲だった。
 俺ですら知っているメジャーな曲をチョイスしてくれたのは俺への優しさかな?
 俺の星川さんへの好感度は勝手に急上昇した。

 二人揃ってビギナーなので、最も難易度の低い簡単モードでまったりと遊んで終わった。
「ふぅ。ゲーセンなんて普段は来る機会ないけど面白いねー」
 星川さんも満足してくれたようだ。よかった。
「じゃあ――――うん?」
 先ほどまで遊んでいた太鼓ゲーム機を見ると、すさまじい勢いで太鼓を叩いてる人が――
 ――……さっきのニット帽の人だった。
 驚異的なスピードでバチを操っている。
「す、すごいね…………!」
「しかもノーミス……何者なんだ」
 ニット帽の人は最高難易度モードにも関わらずミス一つなくスコアを稼ぎ続ける。
 けどあの人、どこかで見た気がするんだよなぁ。身長は俺と同じくらいで華奢きゃしゃな体型、色白の肌。
 まぁそれは今は置いておく。パーフェクトでスコアを着々と伸ばしていくそのさまは達人そのものだ。いや、達人よりもゴッドハンドと呼ぶ方が適切かもしれない。
 このまま行けばパーフェクト――――固唾かたずを飲んで見守っていると。
「……………………」
 バ、バチの一本がバキっと折れて、折れた破片が斜め上方向へ吹っ飛んだ。
 直後、ニット帽の人は俺たちの方へと振り向いて口端くちはを吊り上げた。
 え、なにこの人怖い。
「そ、そうだ! 四階にボウリング場があるんだ。行ってみない?」
「う、うん! 勝負しよっ!」
 そうと決まれば即移動だ。
 俺たちは競歩さながらのスピード感でエレベーターへと向かった。

『なにも逃げなくてもいいじゃないか。ま、あまり派手にやるとボロが出るか』
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